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89(戦闘描写有り)
しおりを挟む戦闘描写があります。
魔物の血などが飛び散ります。そういった描写が苦手な方はご遠慮下さい。
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魔物──合成獣の方へとクォンツが振り向くと、合成獣は身体の至る所から出血をし、痛みを感じているのだろうか。
咆哮を上げ、のたうち回っている。
身体が大きい為、のたうち回る合成獣の尾を避けたり、捨て身の体当たりのような攻撃をマーベリックやリドル、クラウディオは避けつつ攻撃している様子が見て取れるが、致命傷と見られるような攻撃を与えられていない。
「──ちっ、悪足掻きを……っ」
クォンツが小さく呟き、自分自身に身体強化の魔法を掛けてアイーシャとウィルバートから離れようと体を前のめりにさせた所で背後から声を掛けられた。
「……クォンツ・ユルドラーク卿……」
「──っ、はい?」
ウィルバートの低い声がクォンツを呼び、クォンツは突然話し掛けられた事に肩を跳ねさせると振り向く。
親子の十年ぶりの再会を邪魔してはいけない、と考え向こうの戦闘に加わろうとしていたクォンツは、まさか自分の名前が呼ばれるとは思えず、僅かな驚きに瞳を開いたまま、ウィルバートに視線を移す。
「あの魔物……合成獣、だろうか……。あれを討伐するのであれば、私も加わろう……。戦える者が多い方が良い筈だ」
「お父様……、でもお父様はクォンツ様達のように戦えないではありませんか……っ」
だから、危険な事は止めてくれと言うようなアイーシャの言葉に、ウィルバートは瞳を涙で潤ませたまま微笑むとアイーシャの頭をそっと撫でた。
「そう、だな……。昔の私では、足手まといになっていただろうな……。だが、十年前に私を助けてくれた人が授けてくれた魔法が今の私にはあるから心配しないでくれ。……後で一緒にイライアの所に挨拶しに行こうな?」
ウィルバートはアイーシャに向かって告げると、抱き締めていた腕をそっと離し、その場に立ち上がる。
未だに不安そうにウィルバートとクォンツを見つめるアイーシャにウィルバートは苦笑すると、クォンツに向かって「行こう」と声を掛けた。
「わ、分かりました……。アイーシャ嬢、危なくなったら魔物……合成獣から距離を取るようにしてくれ」
「分かりました、クォンツ様」
しっかりとアイーシャが頷いた事を確認すると、クォンツとウィルバートは合成獣が暴れる方向へと駆け出した。
クォンツとウィルバートの参戦に、先にその場に居たマーベリックやリドルがウィルバートの事を問う視線をクォンツに向けるが、その視線に答える暇は無い。
「──何だ、こいつ……っ、以前に対峙した時よりもデカくなってねぇか!?」
「お前もそう思うか!? 俺がこいつとやり合った時よりも成長してる……!」
呆気に取られたクォンツの言葉に、瞬時にクラウディオが言葉を返す。
マーベリックやリドルは新たな事実にぎょっと驚愕に目を見開いたが、少しの隙を見せれば相対している合成獣は全力でそこをついてくる。
クォンツは、死角から迫る合成獣の毒針の付いた尾を前方に倒れ込むようにして避けると、握った剣を倒れ込んだ体勢のまま腕を上方に振り上げ合成獣の尾先を切断する。
途端、甲高い咆哮を上げて尾をバタバタと跳ねさせる合成獣の後ろ足付近に駆け寄ったクラウディオがずしり、と重量のある長剣で一凪した。
クラウディオが斬り付けた瞬間、合成獣の後ろ足がぼとり、と地面に落ちて間近に居たクラウディオの身体が返り血を浴びる。
合成獣が体勢を崩している間に、魔法攻撃部隊の攻撃準備が整ったのだろう。
「皆さん離れて下さい!」
攻撃部隊の隊員の声が大きく響き、クォンツ達五人はそれぞれ瞬時に合成獣から距離を取った。
瞬間、電のような閃光がぱっと発生し、轟音が轟く。
合成獣の体がまるで雷に感電したかのように痙攣して、その後ジタバタと大きくのたうち回る。
「──まだ、死なぬか……」
「凄い生命力だね」
随分前から戦闘に加わっていたマーベリックとリドルは、疲労感たっぷりといった表情で流れ落ちる汗を手のひらで拭う。
戦闘に参加してから、ウィルバートは時間を掛けて自分の体内を流れる魔力を最大限練り上げていた。
決して一人ではこのように集中して魔力を練り上げる事など出来なかっただろう。
だが、マーベリックやリドル、クォンツやクラウディオが合成獣の注意を引いていてくれたからこそ最大限、魔力を練り上げる事が出来た。
ウィルバートはその魔力を放出する寸前、合成獣から更に距離を取るように叫んだ。
「──皆、更に後方に退避してくれっ!」
ウィルバートの鋭い声音に、考えるよりも瞬時に体が反応し、他の四人が後方に跳躍して距離を取った。
瞬間、ウィルバートは練り上げていた魔力を、魔法を発動する為に必要な構築式を無視した、最大火力の闇魔法を躊躇いもせずに発動した。
ウィルバートの魔力に反応したのだろうか。
のたうち回っていた合成獣が濁った瞳をウィルバートに向けた。
「──ぇ、」
合成獣の身体全体が黒い粒子に覆われ、じゅわりじゅわりと身体が侵食されて行く。
身体を全て覆われる瞬間、合成獣の濁った瞳の中。中心部に小さく小さく輝くエメラルドグリーンの色が見えた気がして、ウィルバートは瞳を見開いたが合成獣は声を発する事無く、真っ黒い闇に飲み込まれてそのまま姿形も何も残らなかった。
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