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しおりを挟む「ウィル、殿……?」
「ウィルバート卿……?」
ウィルバートは、無意識に先程の合成獣に向かって伸ばしてしまっていた腕を信じられない思いで見詰める。
クォンツと、クラウディオに話し掛けられていなければもしかしたら合成獣が居た場所に駆け出してしまっていたかもしれない。
「──あ、……。何でも無い……、」
ウィルバートが言葉を濁し、動揺に暴れる自分の心臓辺りをぎゅう、と手のひらで握り締めていると三人にマーベリックとリドルが近付いて来た。
「クラウディオ殿、それにクォンツ……無事で良かった。そちらの御仁もご助力感謝しよう」
マーベリックがゆるりと口元を緩めて三人に言葉を掛ける。
クォンツとクラウディオが胸に手を当て、マーベリックに向かって頭を下げると、ウィルバートも二人に倣い同じように頭を下げる。
「それ、で……クォンツ、こちらの御仁は──?」
マーベリックがウィルバートに手のひらを向け、ウィルバートの事を尋ねると背後からアイーシャの声が聞こえて来た。
「──お父様っ、クォンツ様! ご無事ですか……っ!?」
泣き腫らした真っ赤な瞳のまま駆けて来るアイーシャの言葉を聞いて、マーベリックとリドルは珍しく素っ頓狂な声を上げてしまったのだった。
◇◆◇
アイーシャの発言に一時場が乱れたが、それも落ち着きを取り戻し、アイーシャを初めウィルバート、クォンツ、クラウディオ、マーベリック、リドルはマーベリックの天幕に集まっていた。
先程の動揺を微塵も感じさせず、マーベリックはクォンツとクラウディオに視線を向けると柔らかな笑みを浮かべる。
「クォンツ、クラウディオ殿。本当に無事で良かった。二人とこうして合流出来た事は幸運だったな。戦闘への参加にも感謝する」
マーベリックの言葉に、クォンツとクラウディオは頭を下げる。
そしてマーベリックは次にアイーシャの隣にぴったりと寄り添うウィルバートに視線を向けると同じように笑みを浮かべてウィルバートに向かって唇を開いた。
「──ウィルバート・ルドラン殿。貴殿も、良くぞ戻って来てくれた……。この十年、大変な思いをしただろう。辛い思いをしただろう。……だが、こうして会えた事に感謝を」
「勿体無いお言葉です、王太子殿下」
「色々と……そうだな、ウィルバート殿には色々と聞きたい事があるのだが……」
「仰りたい事は分かります、殿下。ですが……全てをご説明するには十年前に起きた転落事故の時に遡り、ご説明をせねばなりません……。娘のアイーシャから聞いております。我が弟、ケネブ・ルドランが何やらこの山中で怪しげな事をしていると」
「……ああ。そう、そうだな……。先ずはこの地にやって来た本来の目的を果たさねば……。ウィルバート殿の話は王都に戻ってから時間を取り聞こうか」
「かしこまりました。ご質問には全てお答えさせて頂きます。──何一つ、包み隠さず」
「感謝する」
ウィルバートの言葉にマーベリックも表情を緩めると話題を変えた。
「当初は、この山中に縁のあるアイーシャ・ルドラン嬢に案内を頼もうと思っていたのだが、子爵領を治めていたウィルバート殿がいるのであれば話は早い」
マーベリックはそう話を切り出すと、ケネブ・ルドランが仕出かした事。
エリシャ・ルドランが国で禁止されている魔法を取得している事、そして消滅魔術も取得している事を説明して行く。
「エリシャ・ルドランが幼少の頃よりケネブ・ルドランはこの地への執着を見せていた。この地の何処かで……」
そこでマーベリックは一旦言葉を切ると、躊躇うようにアイーシャに視線をやったが、アイーシャもこの地に深く関わりがある。
ルドラン子爵家の人間だ。
隠して守るだけではアイーシャにも良くないだろうと考えたマーベリックは一瞬の躊躇の後、言葉を続けた。
「──人身売買や、精神干渉に関する魔法の研究を行っていた、と吐いた……。これが本当なのであれば、重大犯罪である。そして、人身売買を行っていたと言う事から第三者の関与もあるのだろう……。この子爵領で、人に怪しまれずそういった事が出来る場所はあるか?」
マーベリックの言葉に、ウィルバートは隣に座るアイーシャの肩を抱き寄せながら眉を寄せて考える。
「……本当に、それだけなのでしょうか……?」
「──どう言う意味だ、?」
ウィルバートの言葉に、マーベリックは表情を強ばらせながら答える。
「いえ……。先程の合成獣と言い……。どうにもそれだけでは無いような気がするのです……。蔵書室にある資料を、あのケネブが見たと言うのであれば、それら全てを悪用しようとしていてもおかしくありません……」
「蔵書室にあった資料は全て回収済みの筈……」
「いえ……。もしかしたら全てを話していない可能性もあります」
ウィルバートは一旦言葉を切ると、マーベリックと視線を合わせる。
「……思い当たる場所を全てお伝え致します。合成獣……もしかしたら他の場所でも発生しているかもしれません」
ウィルバートの言葉に、周囲に居た全員が言葉を失った。
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