90 / 169
90
「ウィル、殿……?」
「ウィルバート卿……?」
ウィルバートは、無意識に先程の合成獣に向かって伸ばしてしまっていた腕を信じられない思いで見詰める。
クォンツと、クラウディオに話し掛けられていなければもしかしたら合成獣が居た場所に駆け出してしまっていたかもしれない。
「──あ、……。何でも無い……、」
ウィルバートが言葉を濁し、動揺に暴れる自分の心臓辺りをぎゅう、と手のひらで握り締めていると三人にマーベリックとリドルが近付いて来た。
「クラウディオ殿、それにクォンツ……無事で良かった。そちらの御仁もご助力感謝しよう」
マーベリックがゆるりと口元を緩めて三人に言葉を掛ける。
クォンツとクラウディオが胸に手を当て、マーベリックに向かって頭を下げると、ウィルバートも二人に倣い同じように頭を下げる。
「それ、で……クォンツ、こちらの御仁は──?」
マーベリックがウィルバートに手のひらを向け、ウィルバートの事を尋ねると背後からアイーシャの声が聞こえて来た。
「──お父様っ、クォンツ様! ご無事ですか……っ!?」
泣き腫らした真っ赤な瞳のまま駆けて来るアイーシャの言葉を聞いて、マーベリックとリドルは珍しく素っ頓狂な声を上げてしまったのだった。
◇◆◇
アイーシャの発言に一時場が乱れたが、それも落ち着きを取り戻し、アイーシャを初めウィルバート、クォンツ、クラウディオ、マーベリック、リドルはマーベリックの天幕に集まっていた。
先程の動揺を微塵も感じさせず、マーベリックはクォンツとクラウディオに視線を向けると柔らかな笑みを浮かべる。
「クォンツ、クラウディオ殿。本当に無事で良かった。二人とこうして合流出来た事は幸運だったな。戦闘への参加にも感謝する」
マーベリックの言葉に、クォンツとクラウディオは頭を下げる。
そしてマーベリックは次にアイーシャの隣にぴったりと寄り添うウィルバートに視線を向けると同じように笑みを浮かべてウィルバートに向かって唇を開いた。
「──ウィルバート・ルドラン殿。貴殿も、良くぞ戻って来てくれた……。この十年、大変な思いをしただろう。辛い思いをしただろう。……だが、こうして会えた事に感謝を」
「勿体無いお言葉です、王太子殿下」
「色々と……そうだな、ウィルバート殿には色々と聞きたい事があるのだが……」
「仰りたい事は分かります、殿下。ですが……全てをご説明するには十年前に起きた転落事故の時に遡り、ご説明をせねばなりません……。娘のアイーシャから聞いております。我が弟、ケネブ・ルドランが何やらこの山中で怪しげな事をしていると」
「……ああ。そう、そうだな……。先ずはこの地にやって来た本来の目的を果たさねば……。ウィルバート殿の話は王都に戻ってから時間を取り聞こうか」
「かしこまりました。ご質問には全てお答えさせて頂きます。──何一つ、包み隠さず」
「感謝する」
ウィルバートの言葉にマーベリックも表情を緩めると話題を変えた。
「当初は、この山中に縁のあるアイーシャ・ルドラン嬢に案内を頼もうと思っていたのだが、子爵領を治めていたウィルバート殿がいるのであれば話は早い」
マーベリックはそう話を切り出すと、ケネブ・ルドランが仕出かした事。
エリシャ・ルドランが国で禁止されている魔法を取得している事、そして消滅魔術も取得している事を説明して行く。
「エリシャ・ルドランが幼少の頃よりケネブ・ルドランはこの地への執着を見せていた。この地の何処かで……」
そこでマーベリックは一旦言葉を切ると、躊躇うようにアイーシャに視線をやったが、アイーシャもこの地に深く関わりがある。
ルドラン子爵家の人間だ。
隠して守るだけではアイーシャにも良くないだろうと考えたマーベリックは一瞬の躊躇の後、言葉を続けた。
「──人身売買や、精神干渉に関する魔法の研究を行っていた、と吐いた……。これが本当なのであれば、重大犯罪である。そして、人身売買を行っていたと言う事から第三者の関与もあるのだろう……。この子爵領で、人に怪しまれずそういった事が出来る場所はあるか?」
マーベリックの言葉に、ウィルバートは隣に座るアイーシャの肩を抱き寄せながら眉を寄せて考える。
「……本当に、それだけなのでしょうか……?」
「──どう言う意味だ、?」
ウィルバートの言葉に、マーベリックは表情を強ばらせながら答える。
「いえ……。先程の合成獣と言い……。どうにもそれだけでは無いような気がするのです……。蔵書室にある資料を、あのケネブが見たと言うのであれば、それら全てを悪用しようとしていてもおかしくありません……」
「蔵書室にあった資料は全て回収済みの筈……」
「いえ……。もしかしたら全てを話していない可能性もあります」
ウィルバートは一旦言葉を切ると、マーベリックと視線を合わせる。
「……思い当たる場所を全てお伝え致します。合成獣……もしかしたら他の場所でも発生しているかもしれません」
ウィルバートの言葉に、周囲に居た全員が言葉を失った。
あなたにおすすめの小説
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します