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◇◆◇
ウィルバートが語った後。
今日は既に日も沈み、夜闇の中山中を調査に出るのは得策では無いとマーベリックは判断し、各々に早めに休む事を指示した。
調査は明朝。
朝早い時間に出立しよう、と言う事になりアイーシャとウィルバートは共に天幕に戻って来ていた。
「未だに、お父様が目の前にいらっしゃるのが信じられません……。本当に、夢じゃないのですよね……、?」
「ああ、夢じゃないよ……。アイーシャ、十年間辛かっただろう……」
ウィルバートはアイーシャの頭を撫でてやるとアイーシャが嬉しそうに笑う。
嬉しそうに細められたアイーシャのエメラルドグリーンの瞳を見て、ウィルバートは嫌な考えがじわり、と胸中に滲み出て来るがそれを無理矢理追い出すとアイーシャの手を引き、隣同士に用意してもらった簡易的なベッドに腰掛ける。
「アイーシャ、この十年……。私が居なかった間のアイーシャの事を沢山教えてくれ。アイーシャの成長を側で見れなかった事が悔しくて仕方ないんだ」
「ええっ、? もう、お父様は……」
拗ねたように眉を寄せてそう告げるウィルバートに、アイーシャはくすくすと声を出して笑ってしまう。
(こんなに、嬉しくて笑えるようになるなんて……クォンツ様と出会ってから……、良い事が続き過ぎて何だか反動が怖い……)
アイーシャ自身も、一抹の不安を覚えるがウィルバートに何から話そうか、と考えていると真向かいに座っていたウィルバートが不機嫌そうにぴくり、と片眉を上げた。
「お父様……?」
「……折角の親子水入らずの時間に」
ウィルバートのまるで呪詛を吐くような低く重たい声音に、アイーシャがびくりと肩を跳ねさせると二人の休む天幕の外から見知った相手の声が聞こえて来た。
「──お休みの所、申し訳無いのですが。アイーシャ嬢について、ウィルバート卿にお伝えしておきたい事がございます」
その声の主はクォンツで。
アイーシャは微かに嬉しそうな表情を浮かべると、天幕の入口へと急ぎ足で向かう。
アイーシャのその様子を見て、ウィルバートは舌打ちしてしまいそうになったが何とか飲み込んだ。
「クォンツ様? どうぞお入り下さい!」
「あ、ああ……。アイーシャ嬢。折角お父上と過ごしているのにすまないな」
「いえいえ! とんでもないです!」
天幕の外に立っていたクォンツの腕を自然に取り、アイーシャが中へと促す。
嬉しげに笑いかけるアイーシャには見えていないのだろう。ウィルバートがまるでクォンツを射殺すような瞳で見詰めて来ているが、クォンツはさっとウィルバートから視線を逸らすと普段よりもぎこちなく歩き、アイーシャの後を追う。
「明朝の出立だ、と殿下が言っていたがクォンツ卿は休まず大丈夫か?」
「え、ええはい。……ウィルバート卿の家でしっかりと休ませて頂いてましたし……。先程の戦闘も魔力をそんなに使っていなかったので……」
「だが、まだ怪我は完全に治っていなかった筈。……しっかりと休んだ方が良い」
「お気遣い頂きありがとうございます。ですが、ウィルバート卿に、ご息女であるアイーシャ嬢が子爵家でどう暮らしていたのか……。それを私からも説明させて頂ければ、と思いまして」
「──アイーシャが……?」
アイーシャの話題に、先程までの冷たい空気が一瞬にして無くなった事にクォンツは安堵するとこっそりと息を吐き出す。
娘に対して、些か溺愛し過ぎている気があるウィルバートにクォンツは緊張しきっていたが、話題はその溺愛する愛娘である。
ウィルバートは直ぐに態度を軟化させると聞く態勢になった。
「──クォンツ様、まさか全てをお話するつもり、ですか……?」
「……当り前だろう。アイーシャ嬢が受けて来た仕打ちを、しっかりとお父上に知っていて貰わないと駄目だろ」
「仕打ち……?」
クォンツの不穏な言葉に、ウィルバートがぴくりと反応すると「続きを」とクォンツに促した。
「仕打ち、とは聞き捨てならないな……。私とイライアの可愛い娘が辛い思いをしていた、と……?」
「ええ、そうです。その為に、アイーシャ嬢はルドラン子爵邸から離れ、暫く私のユルドラーク侯爵邸で保護しておりました」
「──保護」
クォンツの言葉に、紡がれる言葉を聞く度に剣呑な光をウィルバートは瞳に宿した。
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