【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

文字の大きさ
91 / 169

91


◇◆◇

 ウィルバートが語った後。
 今日は既に日も沈み、夜闇の中山中を調査に出るのは得策では無いとマーベリックは判断し、各々に早めに休む事を指示した。

 調査は明朝。
 朝早い時間に出立しよう、と言う事になりアイーシャとウィルバートは共に天幕に戻って来ていた。

「未だに、お父様が目の前にいらっしゃるのが信じられません……。本当に、夢じゃないのですよね……、?」
「ああ、夢じゃないよ……。アイーシャ、十年間辛かっただろう……」

 ウィルバートはアイーシャの頭を撫でてやるとアイーシャが嬉しそうに笑う。
 嬉しそうに細められたアイーシャのエメラルドグリーンの瞳を見て、ウィルバートは嫌な考えがじわり、と胸中に滲み出て来るがそれを無理矢理追い出すとアイーシャの手を引き、隣同士に用意してもらった簡易的なベッドに腰掛ける。

「アイーシャ、この十年……。私が居なかった間のアイーシャの事を沢山教えてくれ。アイーシャの成長を側で見れなかった事が悔しくて仕方ないんだ」
「ええっ、? もう、お父様は……」

 拗ねたように眉を寄せてそう告げるウィルバートに、アイーシャはくすくすと声を出して笑ってしまう。

(こんなに、嬉しくて笑えるようになるなんて……クォンツ様と出会ってから……、良い事が続き過ぎて何だか反動が怖い……)

 アイーシャ自身も、一抹の不安を覚えるがウィルバートに何から話そうか、と考えていると真向かいに座っていたウィルバートが不機嫌そうにぴくり、と片眉を上げた。

「お父様……?」
「……折角の親子水入らずの時間に」

 ウィルバートのまるで呪詛を吐くような低く重たい声音に、アイーシャがびくりと肩を跳ねさせると二人の休む天幕の外から見知った相手の声が聞こえて来た。

「──お休みの所、申し訳無いのですが。アイーシャ嬢について、ウィルバート卿にお伝えしておきたい事がございます」

 その声の主はクォンツで。
 アイーシャは微かに嬉しそうな表情を浮かべると、天幕の入口へと急ぎ足で向かう。
 アイーシャのその様子を見て、ウィルバートは舌打ちしてしまいそうになったが何とか飲み込んだ。

「クォンツ様? どうぞお入り下さい!」
「あ、ああ……。アイーシャ嬢。折角お父上と過ごしているのにすまないな」
「いえいえ! とんでもないです!」

 天幕の外に立っていたクォンツの腕を自然に取り、アイーシャが中へと促す。
 嬉しげに笑いかけるアイーシャには見えていないのだろう。ウィルバートがまるでクォンツを射殺すような瞳で見詰めて来ているが、クォンツはさっとウィルバートから視線を逸らすと普段よりもぎこちなく歩き、アイーシャの後を追う。

「明朝の出立だ、と殿下が言っていたがクォンツ卿は休まず大丈夫か?」
「え、ええはい。……ウィルバート卿の家でしっかりと休ませて頂いてましたし……。先程の戦闘も魔力をそんなに使っていなかったので……」
「だが、まだ怪我は完全に治っていなかった筈。……しっかりと休んだ方が良い」
「お気遣い頂きありがとうございます。ですが、ウィルバート卿に、ご息女であるアイーシャ嬢が子爵家でどう暮らしていたのか……。それを私からも説明させて頂ければ、と思いまして」
「──アイーシャが……?」

 アイーシャの話題に、先程までの冷たい空気が一瞬にして無くなった事にクォンツは安堵するとこっそりと息を吐き出す。

 娘に対して、些か溺愛し過ぎている気があるウィルバートにクォンツは緊張しきっていたが、話題はその溺愛する愛娘である。
 ウィルバートは直ぐに態度を軟化させると聞く態勢になった。

「──クォンツ様、まさか全てをお話するつもり、ですか……?」
「……当り前だろう。アイーシャ嬢が受けて来た仕打ちを、しっかりとお父上に知っていて貰わないと駄目だろ」
「仕打ち……?」

 クォンツの不穏な言葉に、ウィルバートがぴくりと反応すると「続きを」とクォンツに促した。

「仕打ち、とは聞き捨てならないな……。私とイライアの可愛い娘が辛い思いをしていた、と……?」
「ええ、そうです。その為に、アイーシャ嬢はルドラン子爵邸から離れ、暫く私のユルドラーク侯爵邸で保護しておりました」
「──保護」

 クォンツの言葉に、紡がれる言葉を聞く度に剣呑な光をウィルバートは瞳に宿した。
感想 402

あなたにおすすめの小説

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します