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しおりを挟む「……? 仰っている意味が……。何かありましたか?」
怒り心頭、と言った様子で荒々しく部屋に入って来たヒドゥリオンにクリスタは何事か、と眉を顰める。
荒々しい足取りで、あの態度で執務室までやって来たのか、と呆れてしまう。
この国の国王であるヒドゥリオンが怒りを制御出来ず、感情を丸出しにして振る舞えば彼に付き従っている侍従や補佐官が怯えてしまう。
クリスタはちらり、とヒドゥリオンの背後に控えている彼の侍従に視線を向けて呆れたような表情を浮かべた。
(ああ、やっぱり……可哀想に。怯えて顔色が真っ青だわ)
クリスタが余所見をしている事に気付いたのだろう。
「王妃……! 叱責されていると言うのに余所見をするなど何を考えている!? 自分の仕出かした事がどれ程他者を傷付けているのか理解していないのか!?」
「……。そこの……ええ、そう貴方。陛下と話すからいいわ、二人にしてくれる?」
クリスタはヒドゥリオンの後ろにいる侍従に話し掛け、部屋を退出するよう指示をする。
きっと扉を閉めてもヒドゥリオンの怒声は部屋の外に響いてしまうだろう。
だが、関係の無い人間をこのままこの場に同席させ続けるのはあまりにも酷だ。
そう考えたクリスタは侍従に告げ、侍従は躊躇った後、申し訳無さそうにクリスタに頭を下げた後に部屋から出て行った。
ぱたん、と扉が閉まった事を確認してクリスタは執務机から立ち上がる。
そして未だ部屋に入って来て中ほどで立ち尽くしているヒドゥリオンに視線を向けてソファに促した。
「陛下、一先ずそちらに座って下さい」
「悠長に座って話すような状況じゃない……! 何故ソニアを悲しませた!」
「──王女ですか?」
「しらばっくれるつもりか!? 庭園でソニアと会った時にクロデアシアの王子と茶会をしていたそうだな!? ソニアを無視し、席にも座らせなかったと聞いた! そんな子供じみた嫌がらせをして恥ずかしくないのか!?」
「茶会……。ギルフィード王子とですか……? ──ああ」
あの時の事か、とクリスタは思い至る。
だがあの場所で休憩していたのは偶然で、茶会などしていない。
休憩が終わったから城に戻っただけで、嫌がらせなどをした記憶は無い。
「……庭を散策中に偶然ギルフィード王子と会い、少し休憩していただけです。そこに王女がやって来られたのは本当ですが、休憩も終わり城に戻っただけ……。王女がそのように仰ったのですか? ならば勘違いをされていると思います」
「──っ黙れ! ソニアを妬んでいるのだろう!? 私が王妃では無くソニアと過ごす事が多いため、そのようなみっともない事を!」
「お言葉ですが陛下。妬むなど──」
「五月蝿い……っ! 何故ソニアに冷たく当たる!? ソニアは祖国を我が国のせいで無くしたのだぞ!? もう少しソニアを、他人を慮る気持ちを持て! ソニアのように愛らしくなれ! 可愛げを持て! 私に捨てられたくないのであれば──」
勢い良く話していたヒドゥリオンは、そこでハッとして口を噤んだ。
不味い事を言ってしまった、と言う自覚があるのだろう。
クリスタから顔を背け、気まずそうにしている。
「捨てられたくなければ……? 私に可愛げを持て、と? 可愛げで国を導く事が出来るとお思いですか? 一体何を言っているのですか。しっかりして下さい。国王がこのような状態では国民に示しがつきません。可愛らしい寵姫に浮かれてしまうのは分かりますが、国王陛下たる者どちらか一方の言葉だけを信じ込み、初めから他者を疑うなんて事はしてはいけません。陛下は一度落ち着いて──」
「……っ、お前が国を語るな……っ、国王である私に口答えするな……っ!」
──バシン!
と、近付いて来ていたクリスタの腕をヒドゥリオンは力を込めて振り払う。
「──ぁっ」
小さく呟いたのはどちらの声だろうか。
ぐらり、と体勢を崩したクリスタは背後に大きくよろめき、足首を捻ってしまう。
そしてその勢いのまま後方に倒れ込んだ。
倒れ込んだ先にはテーブルがあって。
テーブルに勢い良く倒れ込んだため、室内に硝子の割れる音、そして物が壊れる音がけたたましく響いた。
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