【完結】冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 ヒドゥリオンが焦った様子で、クリスタに駆け寄って来るのが見える。
 クリスタの名前を叫び、顔色は真っ青で。
 けれどクリスタは背中から肩に掛けて激しい痛みが走り、その痛みで意識を失ってしまった。

「──おっ、王妃……っ、クリスタ……っ! クリスタ……!」

 頭を抱え、戸惑うヒドゥリオンの叫び声に部屋の外で待機していた侍従が何事か、と飛び込んで来る。

 そして侍従は部屋の惨状を見て言葉を失った。

 意識を失い、ぐったりとしたクリスタを顔色が真っ青なヒドゥリオンが抱えていて。
 ヒドゥリオンの腕で隠れて見えないが、クリスタは怪我をしてしまっているようだ。
 ポタポタと真っ赤な鮮血が床に滴り落ちている。
 そして、何か大きな衝撃を受けたのか。室内にあった硝子テーブルは割れていて。

「──治癒魔法使いを! 早く連れて来い!」
「──っ! は、はいっ! 今すぐ!」

 動揺したヒドゥリオンの声が室内に響き、侍従は大慌てで部屋を出て行った。


◇◆◇

 ずきずき、と痛みを感じてクリスタの意識がふと浮上した。

「──……、?」

 ゆっくり瞼を持ち上げるがぼんやりとした視界には何も映らず、クリスタは何度かぱちぱちと瞬きをする。
 そして再び目を開くと、そこは見慣れた自分の私室だ、と言う事が分かる。ベッドに寝かされているのだろう。いつも目にしている天井が視界に入る。
 そして、意識と視界がハッキリした次の瞬間、クリスタの体に激しい痛みが走った。

「──ぅっ、」
「王妃!? 目が覚めたか……!?」

 クリスタの直ぐ側からヒドゥリオンの声が聞こえ、そこでクリスタはヒドゥリオンの存在に気付いた。

(私、一体……。執務室で仕事をしていたら陛下がやって来て……そして……)

 口論、のような物になって。
 そこまで思い出したクリスタは「ああ、そうか」と今の状況を理解する。

(確か興奮した陛下に振り払われてしまったのよね……。それでバランスを崩して転倒してしまって……この痛みは、結構深く切ってしまったのかしら)

 細く呼吸を繰り返す。
 今は指先一つ、深呼吸一つが傷に響き激痛を伴う。
 クリスタは自分の視界に入って来た憔悴しきったヒドゥリオンに視線だけで問い掛ける。

「……すまない。私が振り払ったせいだ。……王妃がテーブルに倒れ込んで、硝子の破片で肌を切った……。治癒魔法の使い手を呼び、治癒に当たらせていたのだが……」

 そこでヒドゥリオンは気まずそうに治癒魔法の使い手に視線を向ける。
 ヒドゥリオンから視線を向けられた治癒魔法の使い手は、自分の胸に手を当ててクリスタに軽く頭を下げた後、重苦しい空気が流れる中、重々しく口を開いた。

「──王妃殿下。思っていたよりも硝子が深く肌に食い込んでしまっていて……。出血を止める事を優先しておりますため、傷跡が残ってしまう可能性がございます」

 傷跡が残る、と言う治癒魔法の使い手の言葉に、クリスタは目を見開く。

「出血が多く、傷跡まで完治させるような強い回復魔法を王妃殿下に使うと、体内の血液が少ない今、王妃殿下のお体に負担が掛かってしまう可能性があり……。高位神官などが使える上級治癒魔法でしたらお体に負担を掛ける事なく、傷跡も綺麗に治せるのですが……」
「すまない、王妃。高位神官に遣いは出したが……」

 言い淀むヒドゥリオンに、クリスタは無言で視線を外した。
 最後まで言われなくともその先の言葉は分かる。
 十中八九、神殿から高位神官は派遣されないだろう。
 命に関わる怪我であれば別として、少しの傷跡程度でこの国とあまり良い関係を築けていない神殿の協力は得られない。

(──ああ、嫌だわ……どれくらいの傷跡なのか……。それに深く吸い込むだけで傷が痛む……)

 ずきずき、ずきずきと痛みを生む背中から肩にかけて。
 痛みの範囲が広い事に、クリスタの視界は涙で滲んでしまった。


 その日の夜。
 傷を負ったからか、クリスタは高熱を出してしまい、朧気な意識の中昔の事を思い出していた。

 あの泣いてしまっていた男の子は誰だっただろうか。

 風景はとても良く見慣れた場所で。
 この風景は城の庭園だ。

 そこで、今よりずっと幼い、子供の頃のクリスタは目の前で悲しげに無く男の子に困り果ててしまっていた。
 どう答えるのが正解だったのだろうか。
 けれど、嘘は付けない。
 自分にはもう婚約者がいるのだから、将来目の前の男の子と結婚を約束出来ないのだ。

 男の子のダークグレーの髪の毛が、ふわふわと風に靡いていた。





 ぎゅう、と暖かくて優しい大きな手のひらに、自分の手が包み込まれている感覚に気付き、クリスタはふっと意識が浮上した。

「──クリスタ王妃……?」
「え、なんで……」

 ここに、居るのだろうか。
 今にも泣き出してしまいそうな表情で、クリスタの手を握っているのはギルフィードで。
 先程まで夢に見ていた男の子の髪色と、目の前に居るギルフィードの髪の毛の色が重なりクリスタは驚き目を見開いた。

 ギルフィードの背後にはクリスタの侍女やキシュートも揃っていて。
 クリスタが目を覚ました事で、皆の表情がほっと安堵した表情に変わった。
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