冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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流産を連想させる表現がございます。
ご注意ください。
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 周囲を見回したクリスタは、ベッドに起き上がろうと体を動かした。

「クリスタ王妃……! 無理をしないで下さい……!」
「大丈夫です……長時間寝ていたから、かしら……? 体の節々が凝り固まっていて……」

 起き上がろうとするクリスタの背中を支え、ギルフィードが手伝ってくれる。
 クリスタがギルフィードにお礼を伝えていると、目覚めた事を治癒魔法使いに伝えて来る、と慌ただしく侍女の一人が外に出て行った。

 喉が酷く乾いている、とクリスタが考えていると背中にクッションを入れて寄りかからせたギルフィードがサイドテーブルに置いてあった水差しからグラスに水を注ぎ、クリスタに渡してくれる。
 有難くグラスを受け取ったクリスタは一口、二口、と水を口に含み乾いた喉を潤す。

 そしてゆっくりグラスの水を飲み干したクリスタは、グラスを両手に持ったままギルフィードやキシュートに視線を向けて口を開いた。

「それで……。私はどれくらい寝ていたのかしら?」

 丸一日、それとも二日だろうかと考えていたクリスタは、ギルフィードから聞かされた日数に言葉を失う。

「──十日、程です」

 クリスタが言葉を失っている間に、ギルフィードの隣にやって来たキシュートがベッドに腰掛け、ゆっくりと、だが淡々と状況を説明した。

「クリスタ王妃が意識を失ってから今日が十日目です。……今日、が建国祭の当日、です……」
「──っ、! そう、よ……っ、建国祭っ、建国祭はどうなったの!?」

 勢い良く声を出してしまったからか、クリスタが咳き込む。
 咳き込むクリスタに、ギルフィードは再びグラスに水を注ぎクリスタに飲ませた。

 おろおろ、とする扉前に居るクリスタの侍女の顔色を見れば聞かなくとも答えは分かるのだが、それでもクリスタは建国祭がどうなったのかを確認しなければならない。

 建国祭は、ディザメイアの国にとってとても大事な行事の一つで。
 この国の王妃であるクリスタが準備をし、他国の来賓達をもてなす。王妃がどれだけの準備をして、素晴らしい建国祭を開催し、来賓達がディザメイア国のもてなしに満足をしてもらえるかどうか。それが重要になってくる。

 殆ど建国祭の準備は終わってはいたものの、開催日当日に王妃であるクリスタが参加していない。
 それが他国にどう取られてしまうのか。

 真っ青になったクリスタに、キシュートは淡々と事実を告げた。

「王妃殿下が倒れてから、建国祭の準備はタナ国の王女が引き継ぎました。……陛下も王女の手助けをし、二人で建国祭の準備を終えたので問題無いかと……。そして本日は王妃が不在のため、陛下は王女を伴い、建国祭に参加されております」
「──……え、?」

 キシュートの言葉に、クリスタは頭の中が真っ白になってしまう。

 茫然自失、といった様子のクリスタにギルフィードも、キシュートも。そして部屋の入口付近に控えていた侍女も辛そうにしている。
 「王妃、殿下……」と涙声で呟く侍女・ナタニア夫人の声だけがクリスタの頭に残った。



 そうして、どれくらい経った頃だろうか。
 重苦しい室内に先程出て行ったもう一人の侍女が治癒魔法使いを伴い、やって来た。

 呆然としているクリスタの様子を見て、痛ましい者を見るように目を細めた治癒魔法使いはクリスタの近くにやって来ると、そっとクリスタの体に自分の手を当てた。

「──ああ、良かったです……。血を多く失っていたのですが……大分回復している……。傷は塞がっておりますね。本当に良かった……。これもギルフィード第二王子のご助力あっての事。本当にありがとうございます」
「いえ。私は当然の事をしたまでですから……お礼を言われる事は……」

 ギルフィードが協力した、と言う言葉に反応してクリスタはゆるゆると視線を上げて、ギルフィードに顔を向ける。
 クリスタの視線に気付いたギルフィードは、眉を下げて優しい笑みを浮かべ、説明した。

「王妃殿下とお会いした翌日も、庭園に向かったのです。……ですが、あれから何日庭園に通っても王妃殿下のお姿を見る事が無くて……。そこでアスタロス公爵を通して王妃殿下にお目通りを……。そこで、王妃殿下が大怪我をされているのをやっと知ったのです。……それで、私には治癒魔法の覚えもございますので、協力を願い出ました」
「……っ、そんな事まで……っ、ありがとうございます。ギルフィード第二王子には何度も助けて頂いて……。どれだけ感謝をお伝えすれば良いのか……」
「いえ。お礼には及びませんよ。私がしたくて、やった事ですので。無事、目覚められて良かったです」

 ギルフィードが疑問を抱かなければ。
 そしてキシュートが動いてくれなければ。
 クリスタが大怪我をしている、と言う事は知らされて居なかったのかもしれない。

 キシュートまで、アスタロス公爵家にまでこの国の王妃であるクリスタの怪我を報告していなかったのは一体どう言う意図があっての事なのだろうか。
 それを確認しようにも、今は建国祭の真っ最中である。
 ヒドゥリオンに問いただそうにも出来る筈が無い。

 クリスタは、国王であるヒドゥリオンにクリスタが目覚めた事を伝えに行こうとしたナタニアを止めた。

「どうせ、陛下にお伝えしても今は建国祭の真っ只中。国王が席を外す事は無いわ。建国祭が無事終わってからお伝えすれば良いわ」
「で、ですが王妃殿下……。国王陛下からは王妃殿下が目覚めたら直ぐに知らせを、と……」

 おずおずと言葉を紡ぐ侍女に、クリスタは自嘲の笑みを浮かべる。

(直ぐに連絡を寄越せ、と言うわりには自分の侍従を置いていないじゃない)
「いいのよ。貴女達に咎めがいかないよう陛下には伝えるわ」

 何とも言えない、何処か不安そうな表情を浮かべるナタニアから視線を外し、治癒魔法使いに視線を戻したクリスタに、治癒魔法使いが声を掛けた。

「王妃殿下……。少し二人きりでお話したい事がございます……」
「──? 分かったわ。ごめんなさい、皆。少しだけ席を外してくれるかしら?」
「分かりました。ですが、少しだけですよ。王妃殿下にはまだ私の治癒魔法が必要ですから」

 不服そうに眉を顰めるギルフィードに、クリスタはついつい笑ってしまう。
 扉を開けて外に出て行くギルフィードや、キシュート。侍女達を見送ったクリスタは、治癒魔法使いに視線を戻した。
 これで、室内には完全に治癒魔法使いとクリスタの二人きりだ。

 何か、治癒の事で話しておかなければならない事があるのだろうか。
 もしかしたら、傷跡が思っていたよりも残ってしまっているのだろうか。

「──それで、何かしら話って?」

 不思議そうな表情を浮かべるクリスタに、治癒魔法使いはぎゅっ、と自分の唇を噛み締め、辛そうに、悲しそうに表情を歪めた。
 そして、ゆっくりと口を開く。

「──実際、そうだったのかは……、分かりません……。既に確認のしようが無い、ので……。けれど……当日、確かに……確かに僅かな魔力の乱れを、感じたのです……。ですが、それは大量に血液を失っていたから、血液と共に魔力が体外に出てしまった、からかもしれませんが……」
「──なに、? どう言う……」

 戸惑うクリスタの声に、治癒魔法使いはクリスタの下腹部。
 お腹に目をやって、顔を伏せた。
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