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しおりを挟む「忌み物……!? それは……身代わりのような物か……?」
クリスタの言葉に信じられないといった様子でキシュートが呟く。
忌み物、と言う言葉を聞いた事があるのだろう。
仕事柄、各国に赴く事が多いキシュートはその風習を耳にした事があるのかもしれない。
そして、それはクロデアシアの王族であるギルフィードも同じ。
クリスタの「忌み物」と言う言葉を聞いた瞬間、ギルフィードの顔が不快感を表すかのように歪んだのだ。
「そんな風習……いや、悪習だろう……。クリスタ様、本当にあの古代文字は忌み物と……?」
「ええ、そうよ。間違いなくそう書かれているわ。詳細までは分からないけれど……古い文献を読んだ事があるから……まさかその悪しき風習をこの目で見る事になるとは思わなかったけど……」
この部屋の凄惨さに、各々が言葉を失っているとそこでギルフィードがはっとしてクリスタに振り向いた。
「……忌み物は、悲惨な人生を送っています……! 周りの人間を恨む気持ちが強い……っ! この肖像画のソニア王女が本物なのであれば、クリスタ様の国にいるソニア妃は忌み物なのではないですか!? 万が一、そうなのであれば早急に対処しなくては、大変な事になります!」
「──! ギルの言う通りだわ、持ち帰る事が出来る程度の証拠品と、この部屋を魔道具で記録しておきましょう!」
クリスタの言葉に、護衛達が一斉に動き出す。
護衛達が証拠品や映像を記録している間、クリスタは部屋の中をぐるりと見回す。
そして、部屋にちらばる書類の下に近付きそれを拾い上げる。
「クリスタ様。あまり俺たちから離れないで下さい。何が起きるか分からないのですから……!」
「ギル……。ええ、ごめんなさい……。けど、散らばっている書類には一体何が書かれているのか、気になって……」
慌てた様子でクリスタに駆け寄って来るギルフィードに詫びを告げ、クリスタは拾い上げた書類の一枚に目を通す。
書類に付着している茶色い滲みで、所々文字を読むことが出来ないが、そこに書かれている文字はやはり古代文字の羅列だ。
「……全部、古代文字だわ……。魔術だけじゃないのかしら……? 何かを秘匿したいから、古代文字で……?」
「……これでは、俺はお手上げですね。古代文字を調べるには国に戻らないと……」
「ギルの国に協力は仰げないわ。どうにか解読しなくちゃ……」
クリスタは書類に落としていた視線を上げる。
部屋の内部をよく観察してみれば、部屋の隅には女児が好むような動物のぬいぐるみや、手遊びに使う遊具が押しやられている。
ぬいぐるみや遊具はとても古びていて、この部屋にいた人物が子供の頃に使用していたのだろうか。
だとしたら、いったいどれだけ長い時間をこの部屋で過ごしていたのだろうか、と途方に暮れてしまう。
古代文字で忌み物の単語が書かれているのは確かだが、本当にこの部屋で忌み物が生活をしていたのだろうか。
だが、確かに残る生活感。
王族が過ごす地上よりも、煌びやかな内装に豪華な調度品。
だが、地上に出る事がないよう厳重に管理されていたであろう事がこの部屋に入った事で分かる。
地上に続く階段を塞ぐ扉には頑丈な錠前を付けられていた痕跡があり、扉にも古代文字が刻まれている。
もしかしたら、勝手に外に出られないようにする魔術か何かを発動していた可能性がある。
そして、室内に散らばる血痕。
忌み物は、尊い存在の身代わりとなる存在だ。
その人物が得るであろう痛みも、苦しみも、全て忌み物が引き受ける。
そんな魔術を施されるのだ。
そして、人の理を外れた魔術には犠牲を伴う。
(……あの寵姫が、本当に忌み物として生きてきたと言うのであれば……何も知らずのうのうと幸せに暮らしている人間を恨むはずよ……)
悪しき風習だ。
今はもう、こんな悪習を続けている国は表向きは無い。
クリスタの国、ディザメイアでも今現在はそんな悪習は無い。
魔術が継承されていないディザメイアでは、忌み物の悪習はないが、奴隷がまだ認められていた数百年前。気が遠くなるほど昔に、忌み物に似た当人の代わりに「罰を受ける者」の存在はあったそうだが、今はそんな風習は廃止されている。
(恨みから、暴挙に出られたら大変な事になるわ……)
本当にソニアが忌み物だとしたら。
彼女は魔術を使用出来るのだ。
タナ国を滅ぼしたのがソニアなのだとしたら。
自分を苦しめた王族を滅ぼし、タナ国から脱出したのであれば。
(次に牙を剥くのは──……ディザメイアかもしれない……)
自分の国には、大切な家族がいる。
魔法を教えてくれた先生がいる。
自分を慕い、仕えてくれた侍女達がいるのだ。
「──クリスタ! 証拠品は纏めたぞ、部屋から出よう!」
「……っ、分かったわキシュート兄さん!」
部屋の後方からキシュートに声をかけられ、クリスタはギルフィードと共に皆の下に戻った。
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