【完結】好きにすればいいと言ったのはあなたでしょう

高瀬船

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(まあまあ……"本日は"ミクシオン嬢ですのね)

ウルミリアはうっそりと瞳を細めると目の前のテオドロンへと視線を向けて唇を開く。

婚約者が居ながら、他の貴族令嬢と体を寄せ合い恋人として触れ合うのはテオドロンの言う「貴族の質を貶める」行為に値しないのだろうか。

以前、それとなくウルミリアはテオドロンへと話した事があるが「余計な口を挟むな」と一蹴されてからは無関心を貫いている。

貴族の質を貶め、最後に周囲から見放されるのは一体誰だろうか。

「──貴族の質、と仰いますが……私は貴族としての質を落としておりますでしょうか?」

悲しそうに首を傾げ、ウルミリアはすっとぼける。
周囲にいる他の生徒達からは見慣れた光景に映っている。
始めこそ眉を顰められた行為ではあるが、今ではもう周囲も特に気にしていない。
むしろ、時々ウルミリアと同じように使用人と馬車に同乗して来る貴族も居る。

学園に向かう道中、使用人と同乗する事で円滑に学園内のスケジュールを組めるし、帰宅後の話も出来る。
無意味な時間を消費する事なく、時間を有効活用出来るのでウルミリアの真似をする貴族が少しづつ増えて来ている事をテオドロンは知らない。
もっとも、真似をするのは高位貴族では無く、爵位も下の子爵家や男爵家の家の者が多いが。



ウルミリアの言葉に、俄に目尻を吊り上げたテオドロンが諌めるようにしてウルミリアに向かって唇を開く。

「──それも、分からないのか?君は少し自分の頭で物事を良く考え、周囲の反応を見てみるといい。誰も彼もが君の……ウルミリアの行動を見て眉を顰めているだろう」
「周囲の方々……。あぁ、そうですわね?確かに私達に視線を向けて、咎めるような視線を向けていらっしゃいますわね?」
「そうだろう。やっと周囲の視線に気付いたか、まったく。……これに懲りたらもう少し常識的な行動をするように気を付けてくれ」

テオドロンはやれやれ、と言ったように溜息を吐き出すとウルミリアから今度はジルへと視線を移す。

「──そこの使用人。いくら主人が同じ馬車に乗ってもいいと言っても、使用人風情が主人と同乗するなど烏滸がましいぞ。しっかりと主人を諌めろ。そして、ウルミリアと距離が近い。もう少し離れて立て」
「──申し訳ございません」

テオドロンは、言いたい事だけを言い、満足そうに息を付くと「ラシェル、行こうか」と甘ったるい声を出して自分の腕に絡み付いている女性に笑顔で声を掛けるとそのままウルミリアに視線もくれず、歩き出した。

その二人の背中を、周囲の生徒達は呆れたような、侮蔑や嘲笑が混じったような視線で見つめている。
皆、誰もが心の中で同じ事を思っているだろう。
「テオドロンには言われたくない」と。




「──ふふっ、ふふふ……っ」
「ウルミリアお嬢様、抑えて下さい。聞こえてしまいますよ……」
「ふふっ、ごめんなさい。だって、今のテオドロン様の言葉……っふふっ、あぁ、駄目だわ。思い出すとおかしくって……!」

ウルミリアは耐えられない、と言うようにくすくすと笑い声を零してしまう。
ころころと鈴の音が鳴るような笑い声に、周囲に居た生徒達の内、ウルミリアの友人が気遣うように声を掛けてくる。

「おはようございます、ウルミリア様。大丈夫ですか?」
「おはようございます、ラフィティシア嬢。朝から大変ですわね」

あら、とウルミリアは明るい声を上げるとぱっと声の方向へと振り向いた。

「おはようございます、ジェミー様、ナターシャ様」

ウルミリアへ声を掛けた令嬢二人の他にも、ウルミリアへ気遣う視線を向けて、学園の建物へと入って行く生徒達が多い。
ウルミリアに声を掛けた二人は、ジルとアマルに向かっても「災難でしたわね」と声を掛けてくれる。

ジルとアマルも、何とも言えないような表情をして苦笑いする事しか出来ない。

「お気遣いありがとうございます、お二人とも。テオドロン様は……、どうしたのでしょうね……?お機嫌が悪かったのかもしれませんわ」

ウルミリアは「困ったわ」と言うように自分の頬に手を当てて眉を下げる。
その表情を見たジェミーとナターシャは励ますようにウルミリアへ声を掛けつつ、学園の建物へと足を向ける。
ウルミリアも、いつまでもこの場所に居続ける事は出来ない為ゆっくりと建物へと歩き始めた。







建物内へと入り、自分の教室へと向かう。
途中でジェミーとナターシャとは部屋が違う為別れると、ウルミリアは侍従であるジル一人を伴い室内へと足を踏み入れた。

この学園では、貴族の子息や子女達の身を護る為に家の者を一人だけ随伴させる事が可能である。
また、随伴させた者からは毎日その家の当主に学園での生活は事細かく報告が行く為、家の監視の目を煩わしく思う者は使用人を伴わない。

ウルミリアとテオドロンは同い年で授業の種類も同じ物を取っている為、部屋も同一だ。
ウルミリアはちらり、とテオドロンの座る方向へと視線を向けてこっそりと溜息を吐く。
テオドロンの隣には、先程と同じラシェルが体を寄せ合い座っていて、中睦まじそうに話している。

「ウルミリアお嬢様、座りましょうか」
「ええ、そうねジル」

ジルに促されて、ウルミリアはテオドロン達から離れた場所へ腰を下ろした。
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