迷子になって異世界へ行きました

kenzo

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此処は何処?

幕間~ある召喚者(その1)

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今回の召喚の儀式の為に用意された広間。
部屋の中心に描かれた複雑な紋様の魔方陣『召喚陣』。
そしてそれを取り囲む様に揃えられたこの国有数の大きな魔力を有する魔導師達、総勢100名余り。しかも彼ら一人一人の手には『魔力増強剤』が握り絞められている。
これにより魔法師の魔力は其々が一時的にしろ倍に跳ね上がる。
まぁ、その分反動で魔力回復に数日掛かってしまうのだか。
これだけ準備すれば失敗する筈がない、イヤ今度こそは失敗は許されない。

一度目は5年前だった。
当時の俺は王宮筆頭魔導師の職に付きながらもある薬の研究に没頭していた。
命懸けと言っても良い程に。
その薬とは伝説の霊薬『エリクサー』である。
どんな病気も瞬時に完治し、四肢欠損さえも治しきる、死んでさえいなければその者を最も健康な状態へと蘇らせる伝説の霊薬。
しかしその製法は何処にも残らず、誰一人知るものも居なかった。
正しく伝説であった。
存在した証拠は古文書に記された実例のみ。
しかし手掛かりが古文書にしか無いのなら、そこを徹底的に調べるしか無い。
俺はありとあらゆる古文書をしらみ潰しに漁った。
ただ、ただ、不治の病に犯され死を待つのみと医者にさえ見捨てられた妻と娘を救う為には。

そんな時だった、陛下より話があったのは。
陛下の話しは『聖女召喚』だった。
この世界とは異なる世界から聖女を召喚す。
理屈はわからないが、召喚された聖女は聖なる力に特化し、膨大な魔力で人々に救いを与える存在。
そして聖女だけが勇者を任命し導く事の出来る存在。
それこそが聖女なのだと古文書にも記されていた。
陛下は仰った、人類の為に魔族をどうとか、世界秩序の為にどうとか、神がどうとか、なんやかんやと。
しかしそんなのは上っ面の話し、その裏顔は己の権力欲に染まっている事は王宮の中央に近い位置に居る者ならば誰でも知っている。
しかしそれでも俺は聖女召喚に一筋の光を見た。
聖女、あらゆる病も怪我も果ては呪いさえも癒せる存在。
そう聖女なら俺の妻と娘を直せるのではないのか。
俺は表面上は忠臣の如く恭しく、心の中では歓喜に咽び、その勅命を受けたのだった。

それからは驚く程スムーズに事は進んだ。
初めに陛下より渡された王家秘蔵の古文書。
古文書にあった聖女召喚の儀式の方法を忠実に再現した。
必要な環境を、必要な魔力量を、そして複雑な召喚魔法の呪文を一言一句空で紡げる様に徹底的に暗記した。
そして来るべきその日、俺は聖女召喚の儀式を執り行った。

俺の紡ぎ出す呪文、それに答える様に光を帯びる召喚陣。
そして魔導師達の身体から放出された魔力が召喚陣に飲み込まれて行く。
全ては古文書に記された通りだった。その時までは!!
異変の始まりは突然だった、魔導師達が次々と倒れていく。
そんな彼らを見ると驚くべき事に枯れ果てていた。
全ての魔力どころか生命力さえも失ったかの様な枯れ木の様な状態となっている。
誰一人息をしていない。気が付けば全ての魔導師が死に絶えていた。
俺は目を召喚陣へと向けた。
そこには先程まで光っていた召喚陣がゆっくりと明滅を繰り返している。
そしてゆっくりだった明滅は次第にその感覚を短くしていった。
『早く魔力を送り込め!』
俺にはそう召喚陣が言っている様にも見えた。
そして明滅が激しくなった召喚陣はやがて弾けた。
残ったのは召喚陣の消えた無骨な石畳と、その上に転がる魔導師だった物。
そして呆然と立ち尽くす俺と警護の兵士達。
そして俺は何時の間にか牢屋の中に居た。

薄暗い牢屋の中、俺はひたすら考えていた。
何を間違ったのか、何故失敗したのか。
正解の分からない自己問答の日々を漠然と過ごす日々。
そんなある日、息子が面会に来た。
息子は俺のエリクサー研究の助手をしており、俺が聖女召喚に関わってからは息子にエリクサー研究を託していた。
そんな息子が口を開いた。
「父上、本日を持ってエリクサーの研究を終了します」
俯いた息子の弱々しい言葉に俺は耳を疑った。
牢屋に入れられた俺の唯一の希望、息子のエリクサー研究。それを終える?何故?
「ま、まさか完成したのか?」
もしやの希望を言葉に乗せる。
「いえ、研究は中止です」
中止?何を言っているんだ?何故止める?訳が分からない。何故だ、何故何だ?!
「どうして・・・何故や「必要が無くなったのです!」める・・・んだ・・」
・・・必要が無い?
「必要無いって、いったい・・・」
「今日、母上と姉上が息を・・・息を・・・い・き・を・・・グゥウウ・・・引き取りました。・・・ウウ・・・」
そんな、そんな、そんな馬鹿な!
「う・うう・・・、うおーーーーー!」
「うう、父上、くぅー!」
・・・
・・・
・・・



あれから何日、イヤ何年経ったのだろうか?
俺の失敗により我が家は爵位を剥奪されたらしい。
それに合わせて牢屋も貴族用から平民が入る薄汚れた狭い牢屋に移らされた。
牢番に聞いた話しでは、今は息子も平民として生きているらしい。
残念ながら面会の許可は出ないらしいが、俺の様な父親など居ない者とした方が息子の為にもなるだろう。
俺に残された唯一の家族、息子の幸せだけが俺の願いだ。

そんなある日だった、あの方が現れたのは。
その方には見覚えがあった。
宮廷魔導師をしていた頃、何度か見掛けた事がある。

「久しいな、宮廷魔導師筆頭殿!イヤ、元であったな!ベルムント」
「殿下」
第4王子、アラン殿下。
陛下の血を引く実子の末っ子。
王子の中で最も継承順位が低く誰もがこの王子が王位に着く可能性は皆無だと思っている。
何より本人がその気が無いらしく、自由奔放に生きている印象が俺にはあった。

「何故、殿下がこの様な処へ」
王族どころか貴族すら来ない、来るのは兵士位な場所。
その様な処に例え第4とは言え、王子が現れるなど考えてもしない。
「ベルムント、今日はお前に話があって来た」
護衛も付けず一人で鉄格子の前まで来た殿下が話す。
「で、殿下が俺、私の様な者にどの様なご用件が」
殿下は少し目を閉じると鋭い視線を真っ直ぐに俺に向けた。
「ベルムント、もう一度、聖女召喚をしないか!」
ビクッ!!聖女召喚、その言葉が耳に入った瞬間、身体が跳ねだ。
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