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蛇男 出会編
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永海が女性の姿で一人、外へ出ている。
町の主と法師の二人と話をして、5日後。
その間に蛇男がいるという洞窟を遠くから見てきたり、蛇男の特徴を聞いたり、呪樹の時のように永海の身にもしものことがあった時にどうやって天定に知らせるかなど出来る限りのことを話し合った。
天定と永海の役割は、元凶である蛇男の居場所を突き止める事。
討伐をするのは警備隊士の務め。
洞窟内に煙を充満させて外へ誘き出す案も出たが、拐われた娘たちの中で万が一生存者がいる場合のことを思うと実行に移すことができず、没案に至ったなどのこれまでの話も聞いた。
その時に知った話だが、一番最初に犠牲になってしまった娘の父が、かつて警備隊士の副隊長の任に就いていたという。
父の無念も晴らしたいとあれば、なおさら二人がそのまま退治するわけにはいかない。
町の様子は大きく変わってしまった。
女性が、急用がない限り外に出歩かなくなってしまったのである。
それでも生活をしていかなければならないと男たちは店を開いたり、食べ物を買いに出た女性がいたり、警備隊士でもないのに町中をパトロールしたり、誰も連れ去られていないか外から声をかけたりしている。
そんな町の中で、注目を浴びる女性が一人いた。
「お嬢ちゃん、家に居なくていいのかい?」
「ここ数日の間によく見かける顔だな。旅人かなんかか?」
「俺が守ってやろうか?」
一人でいる永海に、商人の男や甘味屋の店主、ぶらぶらとほっつき歩いている輩までもが声をかける。
その度に永海は適当にあしらってその場から離れるのだが、少し離れたところから見ている天定からしたら、まるで子を見守る親のような複雑な心境である。
「おじさん、まったね~。」
また向こうから声をかけてきた男に対して手をひらひらと振りながら、永海はとある角を曲がる。
天定の位置からは死角になってしまうので、一定の距離を維持しつつ同じ角を曲がる。
町の中で娘たちが次々と襲われ、連れていかれるのだ。
どこから対象者を見ているか今だに分かっておらず、唯一わかっているのは過去に襲われた女性は皆外にいたという共通点のみ。
なので、永海が女に変化してこうして外を歩き回っているのだ。
囮作戦である。
永海はまた別の男に話しかけられていた。
この日何度目かの苛立ちを感じ、あからさまに眉間にシワを寄せてしまうものの、懸命に理性を働かせて一先ず様子を見る。
男が永海と並ぶように立ち、その手が彼女の背中から腰へと回された。
無意識に刀の柄へ手を伸ばす天定だが、ふと、なんでここまであの男にイライラしてしまうのか正直疑問にも感じている。
この気持ちは、もしかしてーーー。
「そういうのはお断りなの。…じゃあね。」
永海は腰に回されている男の手に自分の手を重ねたと思いきや、手首を掴んで身を回転させ、その手を捻りあげる。
苦痛に歪む男に別れを告げた後に手を離すと、足早にまた別の場所へと移動していく。
永海が永海で、天定が安堵した瞬間であった。
「いてて…。くそぉ、あのアマ覚えてろよ…。」
キッと永海が去っていった方向を睨む男に対し、天定が男に話しかけた。
「俺の連れに手を出すのは構わんが、その時は覚悟をするんだな。」
「だ、誰だお前は…!」
天定が突然声をかけた事で、男は痛めた手首を押さえながら天定を睨みながら声を荒げる。
「俺は彼女の……。つまり、彼女は俺の大事な連れだ。彼女に手を出してみろ。その時は俺が、お前を許さないからな。」
「ひ、ひぃぃぃ…!」
パッと見た感じでは穏やかで爽やかな好青年だが目が据わり、声音も低くて、腰に帯びる刀をチラつかせるように脅してくるではないか。
すっかり男は怯えてしまい、地を這うようにしてその場から居なくなった。
「…さて、永海は…。」
短い時間とはいえ、天定は彼女から目を離してしまった。
慌てて後を追って彼女を探すが、どこにも姿がない。
すっかり見失ってしまったようだ。
どこへ行ったというのか。
急いで探し出そうと、一歩踏み込んだ時である。
ーーーーーアマ…サダ……
名前を呼ばれて振り返ると、天定自身の足元から地に伸びる影に波紋が生じていることに気づき、驚き眼で視線を下げる。
水面のように波打つ影は人の頭から鎖骨あたりまでの姿を形成していくのだが、その姿は天定は決して見間違うことのない人物で。
天定の脳内に、永海の声が流れてくる。
ーーーーーヘビオトコ…ハ…ヒトニ…バケ………
そして人の姿を形成していたそれは溶けるように形が崩れ、元の平面の影へと戻る。
脳内に聞こえていた彼女の声も、何も聞こえなくなった。
「永海…まさか……。」
天定の頬に、一筋の汗が滑り落ちていった。
町の主と法師の二人と話をして、5日後。
その間に蛇男がいるという洞窟を遠くから見てきたり、蛇男の特徴を聞いたり、呪樹の時のように永海の身にもしものことがあった時にどうやって天定に知らせるかなど出来る限りのことを話し合った。
天定と永海の役割は、元凶である蛇男の居場所を突き止める事。
討伐をするのは警備隊士の務め。
洞窟内に煙を充満させて外へ誘き出す案も出たが、拐われた娘たちの中で万が一生存者がいる場合のことを思うと実行に移すことができず、没案に至ったなどのこれまでの話も聞いた。
その時に知った話だが、一番最初に犠牲になってしまった娘の父が、かつて警備隊士の副隊長の任に就いていたという。
父の無念も晴らしたいとあれば、なおさら二人がそのまま退治するわけにはいかない。
町の様子は大きく変わってしまった。
女性が、急用がない限り外に出歩かなくなってしまったのである。
それでも生活をしていかなければならないと男たちは店を開いたり、食べ物を買いに出た女性がいたり、警備隊士でもないのに町中をパトロールしたり、誰も連れ去られていないか外から声をかけたりしている。
そんな町の中で、注目を浴びる女性が一人いた。
「お嬢ちゃん、家に居なくていいのかい?」
「ここ数日の間によく見かける顔だな。旅人かなんかか?」
「俺が守ってやろうか?」
一人でいる永海に、商人の男や甘味屋の店主、ぶらぶらとほっつき歩いている輩までもが声をかける。
その度に永海は適当にあしらってその場から離れるのだが、少し離れたところから見ている天定からしたら、まるで子を見守る親のような複雑な心境である。
「おじさん、まったね~。」
また向こうから声をかけてきた男に対して手をひらひらと振りながら、永海はとある角を曲がる。
天定の位置からは死角になってしまうので、一定の距離を維持しつつ同じ角を曲がる。
町の中で娘たちが次々と襲われ、連れていかれるのだ。
どこから対象者を見ているか今だに分かっておらず、唯一わかっているのは過去に襲われた女性は皆外にいたという共通点のみ。
なので、永海が女に変化してこうして外を歩き回っているのだ。
囮作戦である。
永海はまた別の男に話しかけられていた。
この日何度目かの苛立ちを感じ、あからさまに眉間にシワを寄せてしまうものの、懸命に理性を働かせて一先ず様子を見る。
男が永海と並ぶように立ち、その手が彼女の背中から腰へと回された。
無意識に刀の柄へ手を伸ばす天定だが、ふと、なんでここまであの男にイライラしてしまうのか正直疑問にも感じている。
この気持ちは、もしかしてーーー。
「そういうのはお断りなの。…じゃあね。」
永海は腰に回されている男の手に自分の手を重ねたと思いきや、手首を掴んで身を回転させ、その手を捻りあげる。
苦痛に歪む男に別れを告げた後に手を離すと、足早にまた別の場所へと移動していく。
永海が永海で、天定が安堵した瞬間であった。
「いてて…。くそぉ、あのアマ覚えてろよ…。」
キッと永海が去っていった方向を睨む男に対し、天定が男に話しかけた。
「俺の連れに手を出すのは構わんが、その時は覚悟をするんだな。」
「だ、誰だお前は…!」
天定が突然声をかけた事で、男は痛めた手首を押さえながら天定を睨みながら声を荒げる。
「俺は彼女の……。つまり、彼女は俺の大事な連れだ。彼女に手を出してみろ。その時は俺が、お前を許さないからな。」
「ひ、ひぃぃぃ…!」
パッと見た感じでは穏やかで爽やかな好青年だが目が据わり、声音も低くて、腰に帯びる刀をチラつかせるように脅してくるではないか。
すっかり男は怯えてしまい、地を這うようにしてその場から居なくなった。
「…さて、永海は…。」
短い時間とはいえ、天定は彼女から目を離してしまった。
慌てて後を追って彼女を探すが、どこにも姿がない。
すっかり見失ってしまったようだ。
どこへ行ったというのか。
急いで探し出そうと、一歩踏み込んだ時である。
ーーーーーアマ…サダ……
名前を呼ばれて振り返ると、天定自身の足元から地に伸びる影に波紋が生じていることに気づき、驚き眼で視線を下げる。
水面のように波打つ影は人の頭から鎖骨あたりまでの姿を形成していくのだが、その姿は天定は決して見間違うことのない人物で。
天定の脳内に、永海の声が流れてくる。
ーーーーーヘビオトコ…ハ…ヒトニ…バケ………
そして人の姿を形成していたそれは溶けるように形が崩れ、元の平面の影へと戻る。
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