俺この 番外編 / 天定&永海

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蛇男 出会編

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天定は急いで蛇男の巣窟へと向かった。

中の構造がとても複雑と聞いている洞窟内部へは、流石の天定も今すぐ踏み込むにしては無謀すぎる。
永海が蛇男と接触して居場所を突き止めた後、警備隊士へ連絡をして討伐をしてもらう。
しかしそれは、永海が自力で洞窟内部から脱出できた場合の話である。

あの時の自分の影から発せられた言葉を聞く限り、おそらく永海は捕まってしまった。
あのわずかな時間でさえ、彼女から目を離してしまった変わらぬ事実に悔やむ。

「永海…出てきてくれ…。」

中が暗い闇で覆われた洞窟を食い入るように見つめて、呟く。
自責の念により余計に焦ってしまうが、どうすることもできない。

「天定殿!」

名を呼ばれ振り返ると、そこには10名の警備隊士がいた。
どうしてここにいることを知っているのかと聞くと、気絶していた町人を発見した別の町人から連絡を受けたと言う。
同時に従者の女性も何者かに連れて行かれる様子を遠くからだが目撃したという証言もあり、町の主の指示を受けて来たと説明をしてくれた。

「それで、彼女は?」
「それが、おそらくこの中に…。無事でいるといいんですが…。」

その場にいる全員が、洞窟内を見る。
天定が意を決して、口を開いた。

「私が中へ入ります。」
「!?それは無茶です!中は迷路なんですよ!?」
「私の従者が危機に陥っているんです。何も出来ずにここにい続けることは、私にはできません。」

集中剣技を発動すれば、もしかしたら永海の居場所まで行けるかもしれない。
もちろん発動後のハイリスクを考えると善策とは言い難いが、かと言って何もしないまま永海を放っておくこともしたくない。

「…ククク。無事に辿り着けるかな?」

警備隊士の最後方にいた男が、突然口を開いた。
瞬く間に刀を抜き、一番近くにいる二人の仲間の背中を突然斬る。

「ぐぁ!?」

何が起きたのか分からず、目を見開いてうつ伏せに倒れる隊士たち。
鮮血を流して倒れる仲間と、突然の行動に驚いて全員が斬りつけた隊士を見つめた。

「お、おい!何をしているんだ!?」
「無事か!?しっかりしろ!」

ただでさえ時間が惜しい状況だが、駆けつけた隊士の一人が別の隊士を斬りつけたことで、まずこの場をどうにかしなければならない事態になってしまった。
天定も剣の柄に手をかけ、いつでも抜刀できる姿勢のまま斬りつけた隊士を凝視する。
先程まで焦っていて気づかなかったが、先日の違和感が彼の中で甦った。
当時と同一人物が確かめる方法がないが、おそらく、間違いない。

「お前、もしや蛇男の手下か?」

天定の問に、警備隊士が皆天定を見る。
斬りつけた隊士は、口元を歪めて笑った。

「手下?そうだなぁ、手下になるのかもしれないな。でもそんなこと、どうだっていい。俺は永遠の命を与えられた選ばれし人間なんだ。蛇神様を退治する奴は、俺が殺してやる。」

どこかで聞いたことがある言葉に、天定はピンときた。
この隊士もまた、いつかの商人の男と同じである。
既に命を落としているのだが、魔物から精気を与えられることで、まるで生きているかのように話し、動く。

「今まで侍と女を泳がせて様子を見ていたが、女は蛇神様から俺以上に気に入られてやがる。ムカつくから、ここにいる奴らは全員殺してやる。」
「し、正気か……。」

隊士たちはこの者の言葉にすっかり怯んでしまっている様子である。
つい数分前まで仲間と思っていた者が、実は蛇男の手下になっていたことに驚きと恐怖心を同時に感じてしまったのだろう。

「死ねぇ!」

手下が刀を振り上げて、隊士の一人に振り下ろそうとする。
体が硬直し動けずにいる隊士の前に、刀を抜いた天定が割って入った。
刀と刀のぶつかる鈍い音が、響いた。

「あ…天定……殿。」
「この者は私に任せて、二人は主様へ伝えに行け!あとの者は残り、彼らの手当を!」
「か、かたじけない!」

天定に言われた通り、隊士たちは二手に分かれた。
片方は主へ伝令に行き、片方は倒れている者の手当を始める。

「おぉい、逃げるなぁ!」

裏切り隊士が主へ伝令に駆ける二人を追おうとするが、天定が遮る。

「お前の相手は私だ。」
「ククク、おもしれぇ。」

よく見ると、男の目の瞳孔が異様に縦に細長く見える。
蛇男から精気を与えられた事により、この男の目も蛇っぽく見える。

「…考えすぎか。」

この間にも男の刀が天定目掛けて振りおろされるが、天定はその都度その刀を弾き返す。
永海との長年の鍛錬もあり、ある程度素早い動きをする相手との交戦は対応ができる。

「す、すげぇ…。」

手当に当たる警備隊士の彼らにとっては、この速度でも反応が難しいようだ。

「へへっ、お前やるなぁ!俺の部下にしてやってもいいんだぜ!?」
「お前の部下?それは無理な話だ!」
「じゃあ死ねぇ!」

男の攻撃が激しくなるが、まだ天定には余裕があった。
攻撃を防ぎつつ、どうしたら永海の居場所まで行けるのかを考える。
しかしその前に目の前の男をどうにかするのが先と切り替え、一瞬の隙をついて男の脇腹を深く斬りつけた。
普通の人なら倒れて動けず、中には命を落とすほどの重傷である。
しかしこの男、倒れるところが深く斬られたというのに表情も変わらない。
斬った感触は確かにあった。
しかしその深傷が、たちまち治っていく。
天定にはその理由も知っているが、何も知らない隊士たちは驚きを隠せないでいるようだ。

「う、うそだろ…。」
「化物だ、あいつも化物だったんだ…。」

正確には死人で、蛇男に精気を与えられていることで動けるし怪我も治せるのだが、それをゆっくり説明している時間は、今はない。
天定とてなぜ男が傷を治せるのか理由を知っていても、倒し方までは分かっていない。
精気を与える本体を倒せば目の前の男も消えるのだろうが、今は本体の居場所が不明である。

「…困ったな…。」

男の動きを警戒しつつ、洞窟を一瞬見る。
この中にいるのは間違いない。
早く助けないと、永海が危ない。

「なぁによそ見してんだ!」

男が不気味な笑みを浮かべて、天定に襲いかかる。
反応した天定は応戦し、その後も通常なら致命傷になるほどの深傷を負わせるのだが斬っても斬っても回復をしてしまう。
一体、どうやって倒せばいいのだろうか。

「死ねぇ!死ねよ!」

男がイラついている様子が剣筋から伝わってくる。
しかしそれは天定も同じだが、彼は必死に焦りを抑えている。

『ねぇ、天定?』

永海のあどけない笑顔が、脳裏に浮かぶ。
女性姿の永海が自分の腕にしがみついて来た時、自分が思っていたよりも小さくて華奢な体をしていたことを思い出す。

『ふざけてなんか無いけど?』
『天定が意識しすぎなんじゃ無いの?』

永海の言う通りである。
男たちが変な目で見ている対象が永海だから、天定は余計に変な意識をしてしまう。
術の効力で性別が変わろうとも、永海は永海である。
そんな当たり前なことなのに、"女性が苦手だから"という理由で接触や関わりを避けてしまっていたように思った。

だけど。
大切で、特別な存在には変わらない。
いろいろと不快に感じてしまうのは、永海をそういう目で見てほしくなかったからと、少しだけ気持ちの説明ができた。
なにより、「これからも自分の傍にいてほしい」と伝えたのは他でもない天定自身ではないか。



ーーーーーヘビオトコ…ハ…ヒトニ…バケ………



数日前に町でふざけていた時の笑顔で、振り向く永海の顔が脳裏に浮かんだ。
しかし次の瞬間、彼女の笑顔が消えた。
永海は眉を寄せ、苦しそうに視線を逸らし、一生懸命に絞り出したような細い声で訴えてきた。



ーーーーーたすけて。



柄を握る手の力が、より強くなった。

「俺は、お前相手に負けん!」

天定の目つきも、より細く鋭さを増す。
迫り来る刀を弾き、相手がバランスを崩したところで左肩から右脇腹へ対角線状に斬りつけた。

「…が……ぁ…。」

男の反応が、変わった。
傷口を左手で押さえ、苦痛に顔を歪めて片膝をつく。

「な、何故だ……俺は、選ばれし…人間…。」

自分でも信じられないと目を見開き、呼吸が荒い。
傷口が中々塞がらない様子に、天定は一つの仮定を立てた。

「お前、その"精気"とやらが枯渇してきたんじゃないのか?」
「なん…だと…。」
「俺から受けた傷を回復し続けて、その分精気の消耗が激しかったんじゃないのか?」
「………!?」

図星なのか、男の肩が小刻みに震え出す。

「く、くそぉ…!」

フラフラと男は立ち上がり、洞窟内部へ向かってフラフラな足で向かっていく。
ここでトドメをさすと、この男を倒すことができるだろう。
しかし、ここで倒してしまうと永海の元へ辿り着けなくなるような気がした天定は、隊士たちに声をかけた。

「私は奴を追って蛇男のところまで行きます。」
「ま、待ってください!本隊を待つべきでは…。」
「奴を見失えば、もう二度とチャンスは来ない…!」

制止する隊士たちの言葉を振り切り、天定も男に続いて洞窟内に入っていった。
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