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蛇男 出会編
最終話
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天定は、目を覚ました。
頭が痛い。
でも気持ちや思考を含めて、身体はとても軽い。
昨夜はぐっすり眠れたと、天定は上体を起こす。
隣を見ると、一緒に寝たような気がする彼がいない。
部屋中を見ても、どこにも姿が見えなかった。
「永海?」
どこか外に出ているのだろうか。
今の時刻を見ようと天定は置き時計を見た途端、思考が止まった。
なんと、時計の針は午後2時を過ぎている。
昨日、宿に戻ってきてからの事を思い出そうとしたが、正直ほとんど覚えていない。
実際は提供されたご飯を食し、風呂に浸かり、その後すぐに同じ布団に就寝した。
天定は取り敢えず着替えに取り掛かる。
その途中、永海が窓から室内へ入ってきた。
「お?やっと起きたか。おはよう、天定。」
「ああ、……おはよう、永海。」
戻ってきた永海は、早速天定に報告する。
巣窟だった場所から回収した物は屋敷へ持ち帰り、遺骨を除いて遺族に確認作業をしてもらっていること。
主は警備隊士の中に蛇男の手下が他にいない事を確認し、より強化するために編成など見直していること。
町の様子も、以前のように活気を取り戻しつつあること。
それは蛇男という脅威が居なくなったから、と安易に推測できた。
報告を受ける間に着替えを済ませた天定は永海を座らせ、その隣に自身も座る。
昨日は取り乱してしまった事を、申し訳なさそうに永海に謝った。
「永海、昨日は…すまない。その…永海を見たら思わず、その…。」
「大丈夫、わかってるさ。」
永海も改めて天定へお礼を伝える。
「俺の方こそ、助けてくれてありがとな。」
蛇男と対峙した時の天定の言動は、永海だけが知っている。
改めて、天定に惚れた気持ちである。
だが、ここでおちょくるのが永海という男だ。
「あーあ、でも残念だったな。昨日の夜、絶対に抱いてくれると思ったのに。」
次の瞬間には影纏の術で女性になっている永海を見て、天定は目を丸くした。
ぱっちりとした瞳に、華奢な肩、細い腕や腰に、嫌でも見てしまうたわわな胸。
「だ、だだだだだ…抱く…?」
「だってそうでしょ?私、あの蛇の野郎に裸にされた上におっぱいを揉まれたのよ?天定だけにしか触られたくなかったのにー。あーもうムカついちゃうなー。」
天定は蛇男との戦闘中に永海の裸を見ているはずなのだが、今は耳まで赤く染めて固まってしまっている。
「ほら。天定も悔しくない?私のこの体、蛇男にたくさん触られたのよ?」
「そ、それは……やはり、その、俺だって……。」
その後の言葉は、もにょもにょと発音にならずに次第に小声になる。
「………触りたく、ないの?天定は、触ってくれないの?」
永海がまだ明るい時間から、天定を誘う。
今の永海は町娘に扮しておらず、いつもの忍び装束のまま。
その衣装は、特に上半身のラインがくっきり出ている。
つまり、魅惑の膨らみが天定の目の前で存在感を出している。
さらに言うと、永海は両腕で胸を挟むことでより強調させていた。
天定は懸命に胸から目を逸らそうとしたが顔が動かず、真っ赤な顔のまま目元を右手で隠す。
天定とて、蛇男に触られたままでは非常に不快である。
しかし、女性を抱くという行為にものすごく戸惑ってしまう。
同じ永海だというのに。
「わ、分かったから……頼む、元の姿に一旦戻ってくれないか?い、色々と整理したいことがあるんだ。」
にんまりと笑みを浮かべた永海が、言われた通り元の姿へと戻る。
やっと永海を直視できるようになった天定は、大きく深呼吸をしてから整理をし始めた。
永海が蛇男に連れ去られた瞬間のこと。
天定が何故永海の所へ辿り着けたのかということ。
警備隊士の中に蛇男の手下が紛れ込んでいたこと。
永海が男であることを、法師が途中から気づいていたこと。
だから最後に言葉を交わしたときに「彼女」ではなく「彼」と言ったこと。
その他にも、言葉を交わして多くの事を確認した。
蛇男の目的など一部の謎を残したが、大部分は整理が出来て理解もでき、天定の中でようやく今回の件について一区切りついた。
「それじゃあ、一通り整理もできたことだし。ほら天定、いつでも来ていいよ?」
「ま、待て待て待て!まだ、心の準備が…!」
この後、天定は女性に姿を変えた永海と向き合う試練に挑むことになるのだが、それはまた別の話である。
-了-
頭が痛い。
でも気持ちや思考を含めて、身体はとても軽い。
昨夜はぐっすり眠れたと、天定は上体を起こす。
隣を見ると、一緒に寝たような気がする彼がいない。
部屋中を見ても、どこにも姿が見えなかった。
「永海?」
どこか外に出ているのだろうか。
今の時刻を見ようと天定は置き時計を見た途端、思考が止まった。
なんと、時計の針は午後2時を過ぎている。
昨日、宿に戻ってきてからの事を思い出そうとしたが、正直ほとんど覚えていない。
実際は提供されたご飯を食し、風呂に浸かり、その後すぐに同じ布団に就寝した。
天定は取り敢えず着替えに取り掛かる。
その途中、永海が窓から室内へ入ってきた。
「お?やっと起きたか。おはよう、天定。」
「ああ、……おはよう、永海。」
戻ってきた永海は、早速天定に報告する。
巣窟だった場所から回収した物は屋敷へ持ち帰り、遺骨を除いて遺族に確認作業をしてもらっていること。
主は警備隊士の中に蛇男の手下が他にいない事を確認し、より強化するために編成など見直していること。
町の様子も、以前のように活気を取り戻しつつあること。
それは蛇男という脅威が居なくなったから、と安易に推測できた。
報告を受ける間に着替えを済ませた天定は永海を座らせ、その隣に自身も座る。
昨日は取り乱してしまった事を、申し訳なさそうに永海に謝った。
「永海、昨日は…すまない。その…永海を見たら思わず、その…。」
「大丈夫、わかってるさ。」
永海も改めて天定へお礼を伝える。
「俺の方こそ、助けてくれてありがとな。」
蛇男と対峙した時の天定の言動は、永海だけが知っている。
改めて、天定に惚れた気持ちである。
だが、ここでおちょくるのが永海という男だ。
「あーあ、でも残念だったな。昨日の夜、絶対に抱いてくれると思ったのに。」
次の瞬間には影纏の術で女性になっている永海を見て、天定は目を丸くした。
ぱっちりとした瞳に、華奢な肩、細い腕や腰に、嫌でも見てしまうたわわな胸。
「だ、だだだだだ…抱く…?」
「だってそうでしょ?私、あの蛇の野郎に裸にされた上におっぱいを揉まれたのよ?天定だけにしか触られたくなかったのにー。あーもうムカついちゃうなー。」
天定は蛇男との戦闘中に永海の裸を見ているはずなのだが、今は耳まで赤く染めて固まってしまっている。
「ほら。天定も悔しくない?私のこの体、蛇男にたくさん触られたのよ?」
「そ、それは……やはり、その、俺だって……。」
その後の言葉は、もにょもにょと発音にならずに次第に小声になる。
「………触りたく、ないの?天定は、触ってくれないの?」
永海がまだ明るい時間から、天定を誘う。
今の永海は町娘に扮しておらず、いつもの忍び装束のまま。
その衣装は、特に上半身のラインがくっきり出ている。
つまり、魅惑の膨らみが天定の目の前で存在感を出している。
さらに言うと、永海は両腕で胸を挟むことでより強調させていた。
天定は懸命に胸から目を逸らそうとしたが顔が動かず、真っ赤な顔のまま目元を右手で隠す。
天定とて、蛇男に触られたままでは非常に不快である。
しかし、女性を抱くという行為にものすごく戸惑ってしまう。
同じ永海だというのに。
「わ、分かったから……頼む、元の姿に一旦戻ってくれないか?い、色々と整理したいことがあるんだ。」
にんまりと笑みを浮かべた永海が、言われた通り元の姿へと戻る。
やっと永海を直視できるようになった天定は、大きく深呼吸をしてから整理をし始めた。
永海が蛇男に連れ去られた瞬間のこと。
天定が何故永海の所へ辿り着けたのかということ。
警備隊士の中に蛇男の手下が紛れ込んでいたこと。
永海が男であることを、法師が途中から気づいていたこと。
だから最後に言葉を交わしたときに「彼女」ではなく「彼」と言ったこと。
その他にも、言葉を交わして多くの事を確認した。
蛇男の目的など一部の謎を残したが、大部分は整理が出来て理解もでき、天定の中でようやく今回の件について一区切りついた。
「それじゃあ、一通り整理もできたことだし。ほら天定、いつでも来ていいよ?」
「ま、待て待て待て!まだ、心の準備が…!」
この後、天定は女性に姿を変えた永海と向き合う試練に挑むことになるのだが、それはまた別の話である。
-了-
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