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蛇男 出会編
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領主の屋敷から診療所へ戻る道中、天定は沢山のことを考えていた。
主との約束を果たせなかったことに対する後悔について。
同じく申し訳なさについて。
自身の実力不足について。
永海の体調について。
蛇男のその後について。
自身の中で考えをまとめたり、整理するより先に色々なことを思い出してしまってはさらに深く考えてしまうという悪循環に陥る。
天定の足取は重く、視線は下がり、何度目かわからないため息をついた。
やっと診療所へ到着する。
永海は少しでも回復していて、実はもう起きていたり話せる状態になっていたりしないか、淡い期待を抱く。
医師に一言戻ってきた旨を伝え、そのまま奥へ進み永海が休んでいる部屋へ進んだ。
襖を開けて永海の様子を見ると、永海はまだ寝息を立てている。
仕方ないと、天定は自身に言い聞かせながら永海の傍に胡座をかいた。
無言で永海の寝顔を見つめる。
初めてちょっかいを出された時も、初めて主の屋敷を尋ねた時も、蛇男と対峙していた時も特に意識をしていなかったが、改めて彼女を見て思うことがあった。
「…永海、綺麗だよ。とても。」
どこが、とは言えない。
他の男たちが永海について話したり、声をかける理由が分かった気がした。
しかし永海は天定と結ばれている。
如何なる者も、決して間に割って入ることは許されない。
真の姿の永海も、仮の女性姿の永海も、天定が共にいたいという唯一無二の存在であることには違いない。
天定は左手を伸ばして、永海の髪に触れた。
同じ紫色で同じ癖っ毛なのだが、女性の姿の方が本来の姿よりも長く感じるのは気のせいか。
指先で少し毛先をいじった後、掌で頭部を触れ、撫でた。
永海を救出し、手を伸ばせば届く場所に相手が居ることは天定にとってはかけがえの無い事。
天定の気持ちが、彼女に触れてほんの少し、落ち着いた。
しかし一方で主との約束を果たせなかった事や、一連の被害に遭ってしまった被害者や関係者たちには申し訳ない気持ちが心の奥底に重くのしかかり、その表情は暗い。
「なぁ、永海。起きてくれよ。」
ーーーーーもう下がりなさい。あとは警備隊士や法師殿の指示に従うのだ。
主の言葉が、脳内で再生される。
退室するまで主の顔を見ることが出来なかった。
なんとも情けないことか。
「いつもみたいに、俺をからかってくれよ。」
あの笑顔で。
あの声で。
そして"大丈夫だ"と、その一言だけでも良いから言って欲しい。
薬が効いて眠っている事は百も承知だが、今この瞬間、永海の声が聞きたい。
天定の目尻に涙が浮かび、流れ落ちる前に右手で拭った。
「お侍様、失礼しますよ。」
悲しみに浸る中、入室してきたのは法師である。
主の屋敷では会わなかった人物が突然目の前に現れ、天定は慌てて正座に座り直し背筋を正す。
法師は優しく微笑んだ。
「そんなに畏まらないでください。実は、お侍様にお願いがあって来たのです。」
「私に…ですか?」
今の自分に、一体何ができるというのだろうか。
「実は明日、お侍様にご一緒に来て欲しい場所があるのです。」
その後に続く説明を聞いたとき、返答に戸惑いながらも天定は了承した。
明日の夜明け後に、改めて蛇男の巣窟を一斉に調べることになったという内容である。
蛇男の居場所までのルートを知っているのは天定だけなので、法師が天定に依頼に来たのだ。
「では明日、現地にてお待ちしております。」
法師は頭を下げると、静かに退室して行く。
天定は、その日は寝ている永海に寄り添った。
とてもではないが、1人外へ出て気分転換をする気にもならない。
蛇男との戦いで身体的にも精神的にも異常が確認されなかった天定は、その日から元の宿泊先に戻り、体を休めた。
そして翌朝の早朝、天定は言われた通りに現場へと足を運ぶ。
「お待ちしておりました。」
天定が来た頃には法師と、多くの警備隊士が集まっていた。
警備隊士の隊長が、声を張り上げる。
「お侍殿、どうか我々にご協力ください!」
法師が天定にお願いをしたのは、蛇男がいた場所まで警備隊士を案内する事であった。
目的は、遺族たちの為に遺骨や遺品を見つけ出すこと。
そして、この洞窟を爆破して塞いでしまう事。
自分が役に立つのならと、天定はここへ来た。
先頭組に天定が加わり、松明を持つ隊士たちが次々と洞窟内に入る。
松明を持たない天定を挟むように前後に警備隊士が立ち、天定の言葉を聞きながら奥へ奥へと進んでいく。
天定の後ろにいる隊士の腹部に外と通じる縄が巻かれているのは、洞窟内探索中の外へ通じる目印とする為であった。
天定は当時の事を思い出しながら、蛇男を追い詰めた場所まで隊士たちを誘導する。
かなり奥へ進んできた一行が、蛇の死骸の中に蛇男の手下になっていた者の隊服を見つけた。
彼たちは悲痛な表情で、それを回収する。
もう少しだけ先に進むと、ついにその場所へ到着した。
「こ、ここがその……。」
狭いトンネルのような通路を進んできた、その先。
この開けた場所こそが永海が囚われていた場所であり、天定が蛇男と対峙した場所である。
後に続いていた隊士たちがあちらこちらに散らばり、松明をかざしながらかつて拐われた娘たちに関わりのある物を探す。
天定はただ静かに立ち位置を変えながら、彼たちの活動の様子を邪魔にならないように見つめていた。
この日の活動を終えた隊士たちは、目印となる縄を木の根の一部に結びつけてから洞窟の外へ出る。
洞窟内の捜索は、初日を含めて4日間に及んだ。
捜索が終わるギリギリの時間まで、娘たちが当時身につけていた簪や櫛などの小物、巾着や着物といった生地の断片、そして白骨の一部と思われるものを回収する。
生存者の確認ができなかった事が、残念でならない。
捜索を終えた隊士たちは最後に、洞窟の出入口や内部に設置した爆弾の導火線に火をつけた。
大きな爆発音が連発して響き、蛇男の巣窟だったその場所は完全に塞がれる。
「お侍様、ご協力いただきどうもありがとうございました。」
完全に封鎖された事を確認してから、法師が天定へ声をかけた。
天定は無言で頭を下げる。
「では、私は警備隊士の皆と共に屋敷へ戻ります。お侍様方には、この一件で大変お世話になりました。蛇男も洞窟内にいない事が確認できましたので、あとは私たちが責任を持って対処します。」
法師が静かに右手を差し出した。
意図を読み、天定も右手を差し出して法師の手を握る。
「どうかお侍様と彼の未来が、明るく幸せに満たされますよう、祈っております。」
「……ありがとう、ございます。」
手を離すと、法師は警備隊士を連れて去っていった。
その様子を1人で見送った天定は、最後の挨拶とも取れる法師の言葉を聞いても、浮かない顔をしていた。
「おいおい、まーた暗い顔になってるぞ。」
天定の瞳が、大きく見開かれる。
恐る恐る声がした方へ向くと、警備隊士の衣装を着た人物が1人、封鎖された出入口の岩の高いところに座っていた。
どうして1人だけ残っているのだろうかと考えたが、あの足を開いて肘をつく座り方はもしかして、と天定の瞳が揺れる。
バッと隊士服を脱ぐと、永海が笑っていた。
「…永海…?」
「よぉ天定。俺がいねぇ間、寂しくなかったか?」
永海は病み上がりとは思えないほどの身軽さで跳躍し、地表に降り立った。
天定の前に軽やかに着地した永海は、いつもと同じ飄々とした笑みを浮かべて腰に手を当てる。
永海を見つめる天定は、嬉しさよりも驚きの方が勝っていた。
「永海、もう…大丈夫なのか?そんなに動いて、良いのか?」
「んー?ああ、ここの探索2日目あたりからだったかな?リハビリも兼ねて俺も参加してたんだぜ、気づかなかっただろ?」
永海の告白に、天定の顔がくしゃっと歪んだ。
思わず、永海に抱きつき背中に回した手に力が入る。
「永海……永海…!」
「ちょ、ちょっと天定ちゃ~ん?どうし……。」
予想外の天定の反応と、小さく嗚咽を漏らしている様子に永海は途中で口を閉じた。
天定はどうやら、永海自身が思っていた以上に抱え込んでいたようである。
永海は申し訳なさそうに眉根を寄せると、ゆっくりと天定を抱きしめて後頭部を優しく撫でた。
「天定、ごめんな。もう大丈夫だ、宿へ戻ろう?な?」
自身が蛇男に捕まってしまったから、天定が苦しんでしまった。
とても申し訳なく思う。
永海の言葉に頷いた天定は、幼子のように涙でぐしゃぐしゃになった顔を懸命に袂で拭う。
天定の肩に永海は手を回して支えながら、2人並んで宿へ向かって歩き出した。
主との約束を果たせなかったことに対する後悔について。
同じく申し訳なさについて。
自身の実力不足について。
永海の体調について。
蛇男のその後について。
自身の中で考えをまとめたり、整理するより先に色々なことを思い出してしまってはさらに深く考えてしまうという悪循環に陥る。
天定の足取は重く、視線は下がり、何度目かわからないため息をついた。
やっと診療所へ到着する。
永海は少しでも回復していて、実はもう起きていたり話せる状態になっていたりしないか、淡い期待を抱く。
医師に一言戻ってきた旨を伝え、そのまま奥へ進み永海が休んでいる部屋へ進んだ。
襖を開けて永海の様子を見ると、永海はまだ寝息を立てている。
仕方ないと、天定は自身に言い聞かせながら永海の傍に胡座をかいた。
無言で永海の寝顔を見つめる。
初めてちょっかいを出された時も、初めて主の屋敷を尋ねた時も、蛇男と対峙していた時も特に意識をしていなかったが、改めて彼女を見て思うことがあった。
「…永海、綺麗だよ。とても。」
どこが、とは言えない。
他の男たちが永海について話したり、声をかける理由が分かった気がした。
しかし永海は天定と結ばれている。
如何なる者も、決して間に割って入ることは許されない。
真の姿の永海も、仮の女性姿の永海も、天定が共にいたいという唯一無二の存在であることには違いない。
天定は左手を伸ばして、永海の髪に触れた。
同じ紫色で同じ癖っ毛なのだが、女性の姿の方が本来の姿よりも長く感じるのは気のせいか。
指先で少し毛先をいじった後、掌で頭部を触れ、撫でた。
永海を救出し、手を伸ばせば届く場所に相手が居ることは天定にとってはかけがえの無い事。
天定の気持ちが、彼女に触れてほんの少し、落ち着いた。
しかし一方で主との約束を果たせなかった事や、一連の被害に遭ってしまった被害者や関係者たちには申し訳ない気持ちが心の奥底に重くのしかかり、その表情は暗い。
「なぁ、永海。起きてくれよ。」
ーーーーーもう下がりなさい。あとは警備隊士や法師殿の指示に従うのだ。
主の言葉が、脳内で再生される。
退室するまで主の顔を見ることが出来なかった。
なんとも情けないことか。
「いつもみたいに、俺をからかってくれよ。」
あの笑顔で。
あの声で。
そして"大丈夫だ"と、その一言だけでも良いから言って欲しい。
薬が効いて眠っている事は百も承知だが、今この瞬間、永海の声が聞きたい。
天定の目尻に涙が浮かび、流れ落ちる前に右手で拭った。
「お侍様、失礼しますよ。」
悲しみに浸る中、入室してきたのは法師である。
主の屋敷では会わなかった人物が突然目の前に現れ、天定は慌てて正座に座り直し背筋を正す。
法師は優しく微笑んだ。
「そんなに畏まらないでください。実は、お侍様にお願いがあって来たのです。」
「私に…ですか?」
今の自分に、一体何ができるというのだろうか。
「実は明日、お侍様にご一緒に来て欲しい場所があるのです。」
その後に続く説明を聞いたとき、返答に戸惑いながらも天定は了承した。
明日の夜明け後に、改めて蛇男の巣窟を一斉に調べることになったという内容である。
蛇男の居場所までのルートを知っているのは天定だけなので、法師が天定に依頼に来たのだ。
「では明日、現地にてお待ちしております。」
法師は頭を下げると、静かに退室して行く。
天定は、その日は寝ている永海に寄り添った。
とてもではないが、1人外へ出て気分転換をする気にもならない。
蛇男との戦いで身体的にも精神的にも異常が確認されなかった天定は、その日から元の宿泊先に戻り、体を休めた。
そして翌朝の早朝、天定は言われた通りに現場へと足を運ぶ。
「お待ちしておりました。」
天定が来た頃には法師と、多くの警備隊士が集まっていた。
警備隊士の隊長が、声を張り上げる。
「お侍殿、どうか我々にご協力ください!」
法師が天定にお願いをしたのは、蛇男がいた場所まで警備隊士を案内する事であった。
目的は、遺族たちの為に遺骨や遺品を見つけ出すこと。
そして、この洞窟を爆破して塞いでしまう事。
自分が役に立つのならと、天定はここへ来た。
先頭組に天定が加わり、松明を持つ隊士たちが次々と洞窟内に入る。
松明を持たない天定を挟むように前後に警備隊士が立ち、天定の言葉を聞きながら奥へ奥へと進んでいく。
天定の後ろにいる隊士の腹部に外と通じる縄が巻かれているのは、洞窟内探索中の外へ通じる目印とする為であった。
天定は当時の事を思い出しながら、蛇男を追い詰めた場所まで隊士たちを誘導する。
かなり奥へ進んできた一行が、蛇の死骸の中に蛇男の手下になっていた者の隊服を見つけた。
彼たちは悲痛な表情で、それを回収する。
もう少しだけ先に進むと、ついにその場所へ到着した。
「こ、ここがその……。」
狭いトンネルのような通路を進んできた、その先。
この開けた場所こそが永海が囚われていた場所であり、天定が蛇男と対峙した場所である。
後に続いていた隊士たちがあちらこちらに散らばり、松明をかざしながらかつて拐われた娘たちに関わりのある物を探す。
天定はただ静かに立ち位置を変えながら、彼たちの活動の様子を邪魔にならないように見つめていた。
この日の活動を終えた隊士たちは、目印となる縄を木の根の一部に結びつけてから洞窟の外へ出る。
洞窟内の捜索は、初日を含めて4日間に及んだ。
捜索が終わるギリギリの時間まで、娘たちが当時身につけていた簪や櫛などの小物、巾着や着物といった生地の断片、そして白骨の一部と思われるものを回収する。
生存者の確認ができなかった事が、残念でならない。
捜索を終えた隊士たちは最後に、洞窟の出入口や内部に設置した爆弾の導火線に火をつけた。
大きな爆発音が連発して響き、蛇男の巣窟だったその場所は完全に塞がれる。
「お侍様、ご協力いただきどうもありがとうございました。」
完全に封鎖された事を確認してから、法師が天定へ声をかけた。
天定は無言で頭を下げる。
「では、私は警備隊士の皆と共に屋敷へ戻ります。お侍様方には、この一件で大変お世話になりました。蛇男も洞窟内にいない事が確認できましたので、あとは私たちが責任を持って対処します。」
法師が静かに右手を差し出した。
意図を読み、天定も右手を差し出して法師の手を握る。
「どうかお侍様と彼の未来が、明るく幸せに満たされますよう、祈っております。」
「……ありがとう、ございます。」
手を離すと、法師は警備隊士を連れて去っていった。
その様子を1人で見送った天定は、最後の挨拶とも取れる法師の言葉を聞いても、浮かない顔をしていた。
「おいおい、まーた暗い顔になってるぞ。」
天定の瞳が、大きく見開かれる。
恐る恐る声がした方へ向くと、警備隊士の衣装を着た人物が1人、封鎖された出入口の岩の高いところに座っていた。
どうして1人だけ残っているのだろうかと考えたが、あの足を開いて肘をつく座り方はもしかして、と天定の瞳が揺れる。
バッと隊士服を脱ぐと、永海が笑っていた。
「…永海…?」
「よぉ天定。俺がいねぇ間、寂しくなかったか?」
永海は病み上がりとは思えないほどの身軽さで跳躍し、地表に降り立った。
天定の前に軽やかに着地した永海は、いつもと同じ飄々とした笑みを浮かべて腰に手を当てる。
永海を見つめる天定は、嬉しさよりも驚きの方が勝っていた。
「永海、もう…大丈夫なのか?そんなに動いて、良いのか?」
「んー?ああ、ここの探索2日目あたりからだったかな?リハビリも兼ねて俺も参加してたんだぜ、気づかなかっただろ?」
永海の告白に、天定の顔がくしゃっと歪んだ。
思わず、永海に抱きつき背中に回した手に力が入る。
「永海……永海…!」
「ちょ、ちょっと天定ちゃ~ん?どうし……。」
予想外の天定の反応と、小さく嗚咽を漏らしている様子に永海は途中で口を閉じた。
天定はどうやら、永海自身が思っていた以上に抱え込んでいたようである。
永海は申し訳なさそうに眉根を寄せると、ゆっくりと天定を抱きしめて後頭部を優しく撫でた。
「天定、ごめんな。もう大丈夫だ、宿へ戻ろう?な?」
自身が蛇男に捕まってしまったから、天定が苦しんでしまった。
とても申し訳なく思う。
永海の言葉に頷いた天定は、幼子のように涙でぐしゃぐしゃになった顔を懸命に袂で拭う。
天定の肩に永海は手を回して支えながら、2人並んで宿へ向かって歩き出した。
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