俺この 番外編 / 天定&永海

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蛇男 出会編

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「で、出てきたぞー!」

天定が永海を連れて洞窟から出てくると、そこには多くの警備隊士たちがいた。
出入り口を囲う様に扇型にズラリと、幾重にもなって列を成している。
最初は蛇男が出てくるとても思ったのだろうか、皆それぞれ武器を構えていた。

「お侍様、ご無事ですか!?」

隊士たちの列の後方から法師が顔を出し、天定へ問う。

「ええ、ですが………。蛇男の居場所を突き止めましたが、さらに奥へと逃げてしまいました。深追いもせず……主様との約束を果たせず申し訳ありません。」

永海を抱える指先に若干力を込めてしまう。
天定とて、主との約束よりも永海を選んでしまった自覚はあった。

「結局助かったのは部外者のその女だけか!?」

とある隊士の1人が、声を上げる。

「町娘たちは全員助からなかったのに、その女だけが助かりやがった!それで結局は蛇男の居場所も不明のままだ!お前たちは何をした!?結局は何もしていねぇじゃねぇか!!」

その言葉を受けて俯く者、悔し涙を流す者、賛同して叫び始める者と反応が分かれた。
しかし少数ではあるが、天定に恩を抱く者もいた。
が、彼らたちは歯を食いしばり、俯くことしかできない。

「そうだそうだ!何も解決はしていねぇぞ!」

さすがの法師とて、この場を鎮めさせるのは困難な様子である。
一斉に一方的に主張してくる隊士たちは、天定だけではなく永海まで貶し始めた。

「囮っつっても、失敗してるじゃねぇか!」
「一体何しに来たんだ!何もしねぇ方がマシだったじゃねぇか!」
「そんな無能な奴をよく従者に選んだなぁ!」

何も言わずに静かに受けていた天定は、永海に視線を落とした。
永海は天定の胸で眠っている、ように見える。
隊士たちの怒声が永海に聞こえていなくて、正直ホッとしていた。

「………。」

天定は何一つ言い返さず、ただ真っ直ぐ警備隊士たちを静かに見つめる。
確かにそうだ。彼たちの言葉は真実である。
町娘たちは誰一人として助かっていない一方で、実際に永海だけが助かった。
蛇男の位置を報告すると約束したにもかかわらず、天定自らの手で蛇男を倒そうとしてしまった。
中途半端に手を止めた事で逃げられてしまったし、彼らからしたら天定と永海はただ彼たちの邪魔をしただけである。

天定は永海を抱えたまま、深々と頭を下げた。

「でしゃばった真似をして、誠に申し訳なかった…。」

そして天定は、前を向いて言い放つ。

「この事は主様に報告して構わない。が、私も主様に直接お詫びをしたい。法師様も、よろしいだろうか。」
「………。わかりました。主様には、私の方からお伝えいたしましょう。ですが本日のところは…。」
「…お気遣いいただき、ありがとうございます。」

天定は再び頭を下げた後、静かに歩き出した。
天定に合わせて法師と、天定に命を助けてもらった一部の警備隊士がついて行く。
残った者たちも複雑な胸中を抱えていたが、天定に向かって罵声を向ける者は誰一人としていなかった。

法師が天定に気を遣ったのは、ぐったりとしている永海を見かねてのことである。
洞窟内で何があったのかは法師にはわからないが、まずは彼女を医師へ診せようと思い、天定を案内し始めた。

この町一の医者がいる場所へとやってきた。
経過を見ないことにはわからないが、現時点では痺れと麻痺を発症していると医師が話してくれた。
調合した薬を投与し、一先ず安静にと一室で休ませてくれることになり、天定は医師に礼を述べる。

その日は天定も蛇男の巣窟へ入ったという理由により、診察を受けてそのまま別室で一晩休ませてもらった。
主に会いに行ったのは、翌日のことである。
まだ寝ている永海を医師に託し、天定は一人で主と対面した。

通された部屋で一人、主を待つ。
天定のその表情は、暗くて重い。
入室した主が目前に座るなり、天定は手をついて深々と、それこそ畳に額がつくまで頭を下げた。

「この度は…誠に申し訳ございません。」

天定の声が若干だが震えていたことを、主は感じた。
あの統領の息子である彼も、さぞかし責任感が強いのだろう。
昔の統領のある日の面影と、目の前にいる天定が重なって映った。

「天定殿、どうか顔を上げてくだされ。」
「それは…できません……。」

自ら協力を申し出たにも関わらず、何の成果もあげられないまま逆に皆の足を引っ張ってしまった結果に、天定は自身の力を過信したと痛感していた。
申し訳なさすぎて、ただ頭を下げ続けることしかできない。

「私は、私は…警備隊士の方々の邪魔をしてしまいました!蛇男を洞窟のさらに奥へと逃がした上、被害に遭ってしまった彼女たちを誰1人として救えていません!それに、私は…主様との約束を破り、この手で蛇男へ留めを刺そうとすら…。」

途中から声を震わせて報告してくる天定の様子に、主は小さく息を吐くと周りの家臣たちを皆退室させた。
静かな部屋に2人っきりになったところで、主が口を開く。

「天定殿、話を聞いてください。と言っても、私の勝手な独り言ですがな。」

穏やかな表情の主は、ゆっくりと話し出した。

「これは、法師殿から聞いた話だ。」

天定の背中が、ビクッと動く。

「1番の目的は確かに果たせていない。が、天定殿が警備隊士に紛れる手下を倒した話は聞いている。我が警備隊の壊滅を防いでくれたことについては、他の誰でもなく天定殿の功績だと私は思っている。」

全部が全部失敗に終わったわけではないと、主は天定を励まそうとしていた。

「しかし…しかし、俺は、私は……。」

主との約束を果たせなかった悲しみと、永海を救いたい一心で身勝手に動いてしまった自分への怒りで両の手が指先まで震える。
つい力がこもり、畳を傷つけしまいそうなほど爪を立てて強く強く握られたその拳は、主から見ても分かるほど震えている。
主はどうしたら天定が少しでも顔を上げてくれるようになるのか、考えた。

様子を見る限り、どんな言葉をかけたところで否定されてしまうだろう。
今の天定は強く自身を責めてしまっている。
他にも礼を述べたい話はあるのだが、それを伝えたところで彼は素直に受け止めない事は目に見えている。
彼には酷なことをしてしまうが、押して駄目なら引いてみろ、であった。

主は、天定に述べた。

「天定殿、私への報告は以上で良い。もう下がりなさい。あとは警備隊士や法師殿の指示に従うのだ。」
「……はい。本当に、申し訳ございません…。」

天定は上体を起こして立ち上がっても、視線は下げたままで主を見ようとはしなかった。
そのまま振り返り隅まで下がると、退室する間際に一礼して主の前から姿を消す。
主は眉尻を下げ、悲しみと申し訳なさを露わにしていた。
深いため息をつき、天定が去っていった方を見つめている。

「…法師殿、そこにいるか?」
「はい、主様。」

主に呼びかけられ、開いた襖から姿を現したのは法師だった。

「天定殿の事、そして昨日話した事は頼んだぞ。」
「仰せのままに。」

法師は深く頭を下げると、隣の部屋へ下がり襖を閉めた。
主は天井を仰ぐ。

「天雨殿。貴殿のご子息も、中々の頑固者ですなぁ。」

天雨とは、天定の父である。
まるで、昔の彼を見ているようであった。

天定の件については法師に任せることにし、自身は警備隊士を含め今後の事について考えることと決めた。
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