俺この 番外編 / 天定&永海

RiO

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蛇男 出会編

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蛇男の舌と手が、ピタリと止まった。

「……は?」

お楽しみ中に水をさされた蛇男は、不快を全面に醸し出す。

「聞こえなかったのか?俺の、永海から、今すぐ、離れろ。」

その者は蛇男にも理解しやすい様、先程よりも声を張った。
力なく永海が視線を向けた先に立っている彼を見た時、様々な感情が溢れた彼女は視界を滲ませた。
ぼろぼろと涙が流れていく。

どうしてここまで来ることができたのか。
不思議に思うものの、今はただ、目の前に彼がいる事実がとても嬉しかった。

「お前誰だ。どうやってここへ…。」

もちろん蛇男は天定の言葉を無視し、ギロッと縦長い瞳の双眸を向ける。
天定は眉一つ変えずに受け流し、静かに答えた。

「お前が永海から離れれば教えてやってもいい。」
「それは無理だな。」
「だろうな。」

この状況を見ずとも、永海を拐った時点で想像はついていた返答である。
刀の柄を握り、いつでも抜刀ができるように膝を軽く曲げた。

「殺せ。なんなら食い尽くせ。」

蛇男の言葉に、その場にいた蛇が一斉に天定へ牙を向けた。
天定は目にも止まらぬ速さでスッと刀を抜くと、無駄のない一振りで何匹もの蛇を斬っていく。
ここへ来るまでに既に多くの蛇を斬ってきた天定は、蛇の行動パターンを記憶していた。
基本、噛みつかれたり巻きつかれたりされなければ、怖くない。
あとは雑念を払い、自分の腕を信じるだけである。
天定の刀で斬られた蛇たちの残骸が、ボトボトと地に落ちていく。
しかし蛇の群れに対し、天定は1人。
いつ蛇に咬まれるかと思うと、永海は天定を案じた。

「んんー…ん…っ。」

蛇男の動きが止まっている内に少しでも拘束を解ければと、永海は脱出を試みる。
モゾモゾと腕と脚を動かしていたら、強い刺激が胸元から上半身に響いた。

「んぅっ!」

不意に乳首を強く摘まれた永海が、おもわず声を出し、背中をのけぞらせる。
そんな反応をすぐ後ろで楽しむ蛇男は、状況をきちんと把握もしないままヘラヘラと余裕を目の前のことだけに集中した。

「おい女。お前は俺だけを見ろ。」

そのまま指先を引き抜く様に胸の突起から指が離れた途端、小さく体を震わせてから荒い呼吸を繰り返す。
その後も蛇男は、永海の胸を大きく円を描くように揉みしだく。

「あいつはすぐ死ぬ。1人で敵うはずがねぇ。」

蛇男の舌が、太ももと太ももの間へ割って入ろうとしてくる。
天定が登場した事により、永海は気持ちを奮い立たせた。
両手を強く握りしめ、そしてできる限りの力で口内の尾に思いっきり歯を立てる。
鱗が予想以上に硬く大した傷を残せなかったが、予想を反する行動をとられて蛇男は驚きを隠せなかった。

「!?」

蛇男が反射的に尾を引き抜いたことで、永海は大きく息を吸う。

「…っ……。お前、バカだから……教えて、あげる……。」

ようやく話せるようになった永海は、フッと笑った。

「天定を、止めることは…お前には、不可能、だから……。」

蛇男はその言葉に頭にきたが、途端に別の箇所から痛みを感じた。
天定の刀が、永海の太ももや胸元に纏わりつく蛇男の舌を、次いで両腕を、そして彼女を拘束する複数の蛇を順に斬り裂いていく。
永海の肌を微塵も傷つけずに切断するその刀捌きは、まさに神業であった。

「なにっ…!?」

油断していたとはいえ、舌や腕を斬られ思わず声を上げる。
口内に血の味が広がり、それぞれの切断部から痛みを感じるもものの、今はそれどころではない。
束縛するものが無くなった永海は、天定へ手を伸ばす。
天定も永海を引き寄せる為に、懸命に手を伸ばした。

だが折角捕まえた極上の獲物を取られまいと、蛇男は尾の部分で永海の下腹部から喉元に掛けて幾重にも巻き付き高々と持ち上げ、2人を引き離す。
蛇男も必死なのか、永海を締め付ける力が強すぎるあまり、彼女は十分に呼吸が出来ず呻き声を上げた。

「あ…く、ぅ…。」

やっと永海を解放できたと思った天定だったが、喉元に食い込むそれをどうにか懸命に引き離そうと足掻く永海を見て舌打ちを鳴らす。

「ちっ…!」

刀を持ち直し、蛇男の顔を強く睨んだ。
早く永海を救出しなければならぬと、そう強く思う一方で交わした約束を思い出す。

「…仕方ない。」

天定は、あえてここで一呼吸間をおいた。
主と交わした約束を守りたい気持ちがあるものの、天定とて許せないことがある。
永海を拐い、辱め、苦しめている化物。
その化物がしでかした事の重大さを、その身を持って受け入れるべきだと、天定は瞳を細めた。
柄を強く握り、自分から逃げようとする憎き怪物を目掛けて一直線に突きを繰り出す。

永海を連れて奥の方へ退避しようと、蛇男は天定に背を向けて逃げ始めていた。
天定の渾身の一突きを寸前のところで気づいて交わし、永海を盾にすることで天定の攻撃から身を守ろうとする。
しかし、蛇男の眼差しは焦りと恐怖が滲み出ていた。

「来るな!来るんじゃねぇ!おい、お前らも何をしている、さっさとこの男をやれ!」

眷属たちは何をしているのかと眼だけを動かして洞窟内を見渡すと、天定の圧に負け洞窟内の隅で束になり縮こまってしまっている。
蛇男の指示を受けても蛇たちはその場に止まっているだけで、一向に天定へ向かおうとしない。

「これが最後の警告だ。今すぐ永海を離せ。今すぐにだ。」

弱点の首を締め上げられ、呼吸が浅くなり顔色が悪くなっている永海の後ろにいる化物へ、天定が言葉を投げる。
主として。
友として。
そして、この先もずっと隣にいてほしい相手だからこそ、天定は危険を冒してでも永海を助ける。

「女を盾にするとは、卑怯な奴だな。」

蛇男の表情が怒りで歪む。

「だ、黙れ!黙らねぇとこの女を殺すぞ!」
「なら、その前にお前を殺す。」

天定が静かながらも殺気をここまで露わにするのは、非常に珍しい。
刀身の鋒を永海の方へと向けるが、対象は彼女の背後にいる蛇男。

「あ…ま……、だ……。」

恐怖と苦しみに歪んだ表情の永海の体が小刻みに震えている様子に、彼は真剣に答える。

「永海。あと10秒だけ耐えてくれ。」
「はぁ!?それで俺を倒せるとでも思っているのか!?」
「やってみせる。」

フッと微笑んだ天定が跳躍し、一瞬で間合いを詰める。
永海に巻きつく根本から蛇男の胴体を一振りで切断し、締め付けが弛んで落ちてきた永海を先に着地した天定が受け止めた。
すかさず踏み込み蛇男の心臓を狙おうとする天定だったが、蛇男が後退りした事であとわずかの所で刃先が空を切る。

胸元で激しく咳き込み、そして大きく呼吸を繰り返す永海の様子に天定は、蛇男から永海へ視線を向けた。
その視線は蛇男を見るそれとは全くの別物で、永海を優しく見つめながら背中に手を添える。

その隙に蛇男はさらに胴体を切断されたことで天定に恐れをなしたのか、純粋に永海を諦めたのか。
交互に身をくねらせながら、どんどん奥へと逃げていく。

蛇男へ視線を戻した天定は、再生し始めている両腕や胴体を見て僅かながらも驚きを隠せなかった。
おそらく、切断した舌も元通りに治るのだろう。
天定は目つきを鋭くして追いかけようとしたが、胸元から天定を小さく呼ぶ声が聞こえて足を止めた。

「あま、さだ……。」

喉元に手を添え、懸命に呼吸を繰り返す彼女に名前を呼ばれてようやく、天定は冷静さと落ち着きを取り戻した。
永海を抱えながらその場に膝をつかせると、緑の着物を脱いで裸同然の永海に羽織らせる。

「永海、どこか怪我は…?」

天定の問いかけに、永海は小さく左右に首を振る。
締め付けから解放されたとはいえ、まだ十分に息が出来ていないように見える。
改めて蛇男の方を見やるが、大きな体の割に移動速度が速く、数百メートル離れた所まで既に離れていた。

追いかけたら、追いついたかも知れない。

しかし今、永海救出という天定の本来の目的は達成された。
永海を傷つけた代償を与えることは出来なかったが、ここはぐっと堪える。
腕の中でぐったりしている永海を、早くここから連れ出さなければ。

「次に永海に手を出すなら、その時は覚えておけ。」

刀を納めて着物でしっかりと前を隠してから、天定は永海を抱え上げる。
そして外を目指して、来た道を戻って行った。
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