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プロローグ
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朝六時。
夏の朝は既に暑さを増してきて室内温度は25℃を超えていた。
窓を覗けば、木造住宅のお隣さんの家とノビノビと背を高くする雑草。
若い男は「まったくだ」と溜息を吐いた。
『続いてのニュースです。東京品川区の住宅街で急遽として花が開花しました。自治体によるものではなく、誰か植
えたのではという声もあるようです』
朝のニュースは少しばかり緩すぎて、でも少しばかりゾッとする報道が流れる。
「おっと」
若い男は、家を出ようとしたがテレビの消し忘れに気付き急いで電源を消した。
彼は、面倒くさがりだったのだろう。
リモコンをソファーに投げ、家を出た。
「あと十分。これを逃したら次は、二時間後」
立て込んだ家の間を通る小道を走り、フェンスを軽々しく飛び越えて人の敷地に入る。
「今日も、使わせてもらいます」
家主の猫が日向ぼっこする猫に挨拶する。
「にゃー」
咎める挨拶を猫に若い男はされ「帰ってきたら、おいしいご飯あげるからね」と思いながら手で謝って、猫を宥めた。
木々が生い茂った未舗装の道を通ると、潮風が若い男の全身を包み込み、汗を乾かした、
「あと少し…」
海岸を全速力で走る。
海鳥が餌を待ち望むかのように「キャーキャー」と鳴く。
海開きというのが無い、この砂浜では春夏秋冬誰かがいることはほぼ無く誰かが海で遊んでいると叔母さま方のお昼の団欒で話題に上がり「青春ねー」だの「あの頃ね…」と始まるのがテンプレであった。
でも、今日は違った。
「誰かいる?」
年長者が九割を占めるこの街には不釣り合いの女性がバス停前の堤防の上に足をブラブラさせながら座っていた。
それを見て、まだバスが来てないと悟ったのか若い男は足をゆっくりとしていく。
額からは、汗が滲んでいて若い男は汗を服で拭った。
「間に合った」
小声で若い男は言って、膝に手をおいて休憩した。
「………」
女性は何も言わず、若い男を見る。
黒色の帽子を上げると幼さの中にある大人びた美貌が露わになる。
彼女は焦げ茶のシャツを捲り、白色のクロップドパンツを履いている。
「おはようございます」
若々しい声が聞こえ、振り向く。
「おはよう。珍しいな、同乗者がいるなんて」
「今日は特別です」
「ここ何もなかったろ」
悩んだ彼女は、海を指差して「いえ、海も素敵ですし、何よりあなた。山吹柾さんに用がありますので」と微笑みな
がら言った。
「………」
男即ち山吹柾は名前を突然言われ瞳孔が開いた。
「何処でそれを聞いたのかな」
「少し調べさせてもらいました。どうやら、今この街では一番若いのはあなたみたいですね」
「じゃあ、名前聞かせてくれますかね」
「いくら怪しくても警察は無しですからね」
柾は、小さく「チッ」と舌打ちをすると、「やっぱりか」と言うかのようにジト目で柾を見る女性。
「じゃ、じゃあ、警察には連絡しない。だから、名前は教えてくれないか」
「なら、仕方ないです」
女性は堤防から飛び降り、時折強く吹く海風に飛ばされそうになった帽子を抑えた。
「私の名前は、榎本楓音です。これからよろしくお願いいたします」
「これから?」
不可解な発言に首を傾げる柾。
「えぇ、これからです」
明らかに怪しげな影を見せる楓音。その表情からは、幼さは感じられない。
「ブロロロ」と低音を鳴らしながら走ってくる、オンボロバス。よく言えばレトロなバス。
どうやら、会社の資金は無く整備すらままならないらしい。
何もかも、乗客数が減少してるせいである。
「そろそろ来るみたいですね」
「付いてくるのか?」
「勿論、これからよろしくしてもらいますからね」
ポケットからICカードを出す。
柾はため息を吐いて、見て見ぬふりをする。
「嫌だ。次のバス乗れ」
「振られる気分というのはこういうことなんですね」
「振る気分が知れてよかった」
生産性の無い会話を続けていると今度は高音を出して止まる。
柾が乗ろうとすると、楓音が「本当に乗りますか?後悔しますよ」
「なんだよ、急に。今日は用事があるんだよ」
「嘘だ」
「いや、本当だ」
「最寄りの喫茶店でコーヒーを飲むだけでしょ」
「うるせ」
「分かりやすいんですよ。クーポンをポケットに入れて」
「………悪いかよ」
クーポンの入った右ポケットに手を入れた。
「私もそういうの大好きですけど柾さんにはそれ以外にやってほしいことがあります」
「とりあえず、バス乗ってから考えないか」
「それは、嫌です。ココじゃないと」
楓音は、柾の手をとってバスから降ろす。
その力は小柄な体からは想像できないほど強く、油断していた柾は呆気をとらずにバスの外に体を出してしまっていた。
「何やって」
落ちた柾は楓の懐に落ち、地面が地肌に当たってはいないもののコンクリートに膝立ちしているので赤くなった。
一方、楓音は柾が落ちてきたことで尻もちをついて小声で「んー」と唸っていた。
「説得が無理なら力尽くです」
「乱暴な。尻もちつくまでやることかよ」
バスの運転手も我慢に耐え切れず「そろそろ出発していいですか」と怒声を放った。
その言葉に反応し、会話を中断した二人は大声を出した。
「だ…」
「いいですよ」
柾の声は楓音の声でかき消されてしまった。
「わかった。それじゃあ、扉閉めるからね」
バスは、扉を閉めて再び歪な音を出しながら次のバス停へ走り出す。
「いや、まだ間に合う」
気を緩めたのか、楓音の柾を止める手が緩み、バスに追いつこうと走り出す。
先程も走っていたせいか、インターバル走の五周目くらいの走り出しでゆっくりであった。
「ま、まって」
「待たないよ」
楓音も楓音で尻もちをついた代償が大きかったらしく、足のリズムを崩して走り出した。
また、楓音は堤防上に上ってインコースを攻める。
「卑怯だぞ」
「作戦勝ちって言ってください」
そして、楓音は柾に追いつく。
「お前、足早すぎるんだよ」
「柾さんが遅すぎるだけです」
楓音はボヤいている柾の背中に堤防の上から飛び乗る。
「乱暴すぎだろ」
「ここからです」
首から出てきたアクセサリーを握り閉めて「転移!」楓音が叫んだ。
夏の朝は既に暑さを増してきて室内温度は25℃を超えていた。
窓を覗けば、木造住宅のお隣さんの家とノビノビと背を高くする雑草。
若い男は「まったくだ」と溜息を吐いた。
『続いてのニュースです。東京品川区の住宅街で急遽として花が開花しました。自治体によるものではなく、誰か植
えたのではという声もあるようです』
朝のニュースは少しばかり緩すぎて、でも少しばかりゾッとする報道が流れる。
「おっと」
若い男は、家を出ようとしたがテレビの消し忘れに気付き急いで電源を消した。
彼は、面倒くさがりだったのだろう。
リモコンをソファーに投げ、家を出た。
「あと十分。これを逃したら次は、二時間後」
立て込んだ家の間を通る小道を走り、フェンスを軽々しく飛び越えて人の敷地に入る。
「今日も、使わせてもらいます」
家主の猫が日向ぼっこする猫に挨拶する。
「にゃー」
咎める挨拶を猫に若い男はされ「帰ってきたら、おいしいご飯あげるからね」と思いながら手で謝って、猫を宥めた。
木々が生い茂った未舗装の道を通ると、潮風が若い男の全身を包み込み、汗を乾かした、
「あと少し…」
海岸を全速力で走る。
海鳥が餌を待ち望むかのように「キャーキャー」と鳴く。
海開きというのが無い、この砂浜では春夏秋冬誰かがいることはほぼ無く誰かが海で遊んでいると叔母さま方のお昼の団欒で話題に上がり「青春ねー」だの「あの頃ね…」と始まるのがテンプレであった。
でも、今日は違った。
「誰かいる?」
年長者が九割を占めるこの街には不釣り合いの女性がバス停前の堤防の上に足をブラブラさせながら座っていた。
それを見て、まだバスが来てないと悟ったのか若い男は足をゆっくりとしていく。
額からは、汗が滲んでいて若い男は汗を服で拭った。
「間に合った」
小声で若い男は言って、膝に手をおいて休憩した。
「………」
女性は何も言わず、若い男を見る。
黒色の帽子を上げると幼さの中にある大人びた美貌が露わになる。
彼女は焦げ茶のシャツを捲り、白色のクロップドパンツを履いている。
「おはようございます」
若々しい声が聞こえ、振り向く。
「おはよう。珍しいな、同乗者がいるなんて」
「今日は特別です」
「ここ何もなかったろ」
悩んだ彼女は、海を指差して「いえ、海も素敵ですし、何よりあなた。山吹柾さんに用がありますので」と微笑みな
がら言った。
「………」
男即ち山吹柾は名前を突然言われ瞳孔が開いた。
「何処でそれを聞いたのかな」
「少し調べさせてもらいました。どうやら、今この街では一番若いのはあなたみたいですね」
「じゃあ、名前聞かせてくれますかね」
「いくら怪しくても警察は無しですからね」
柾は、小さく「チッ」と舌打ちをすると、「やっぱりか」と言うかのようにジト目で柾を見る女性。
「じゃ、じゃあ、警察には連絡しない。だから、名前は教えてくれないか」
「なら、仕方ないです」
女性は堤防から飛び降り、時折強く吹く海風に飛ばされそうになった帽子を抑えた。
「私の名前は、榎本楓音です。これからよろしくお願いいたします」
「これから?」
不可解な発言に首を傾げる柾。
「えぇ、これからです」
明らかに怪しげな影を見せる楓音。その表情からは、幼さは感じられない。
「ブロロロ」と低音を鳴らしながら走ってくる、オンボロバス。よく言えばレトロなバス。
どうやら、会社の資金は無く整備すらままならないらしい。
何もかも、乗客数が減少してるせいである。
「そろそろ来るみたいですね」
「付いてくるのか?」
「勿論、これからよろしくしてもらいますからね」
ポケットからICカードを出す。
柾はため息を吐いて、見て見ぬふりをする。
「嫌だ。次のバス乗れ」
「振られる気分というのはこういうことなんですね」
「振る気分が知れてよかった」
生産性の無い会話を続けていると今度は高音を出して止まる。
柾が乗ろうとすると、楓音が「本当に乗りますか?後悔しますよ」
「なんだよ、急に。今日は用事があるんだよ」
「嘘だ」
「いや、本当だ」
「最寄りの喫茶店でコーヒーを飲むだけでしょ」
「うるせ」
「分かりやすいんですよ。クーポンをポケットに入れて」
「………悪いかよ」
クーポンの入った右ポケットに手を入れた。
「私もそういうの大好きですけど柾さんにはそれ以外にやってほしいことがあります」
「とりあえず、バス乗ってから考えないか」
「それは、嫌です。ココじゃないと」
楓音は、柾の手をとってバスから降ろす。
その力は小柄な体からは想像できないほど強く、油断していた柾は呆気をとらずにバスの外に体を出してしまっていた。
「何やって」
落ちた柾は楓の懐に落ち、地面が地肌に当たってはいないもののコンクリートに膝立ちしているので赤くなった。
一方、楓音は柾が落ちてきたことで尻もちをついて小声で「んー」と唸っていた。
「説得が無理なら力尽くです」
「乱暴な。尻もちつくまでやることかよ」
バスの運転手も我慢に耐え切れず「そろそろ出発していいですか」と怒声を放った。
その言葉に反応し、会話を中断した二人は大声を出した。
「だ…」
「いいですよ」
柾の声は楓音の声でかき消されてしまった。
「わかった。それじゃあ、扉閉めるからね」
バスは、扉を閉めて再び歪な音を出しながら次のバス停へ走り出す。
「いや、まだ間に合う」
気を緩めたのか、楓音の柾を止める手が緩み、バスに追いつこうと走り出す。
先程も走っていたせいか、インターバル走の五周目くらいの走り出しでゆっくりであった。
「ま、まって」
「待たないよ」
楓音も楓音で尻もちをついた代償が大きかったらしく、足のリズムを崩して走り出した。
また、楓音は堤防上に上ってインコースを攻める。
「卑怯だぞ」
「作戦勝ちって言ってください」
そして、楓音は柾に追いつく。
「お前、足早すぎるんだよ」
「柾さんが遅すぎるだけです」
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