ある街のある教会とそれにまつわる人々のお話

みしやそれとも

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ある少年のお話

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教会の子供たちは十をこえると街の商店街に奉公に行くことになっている。
僕は三年ほど前から八百屋で働き始めた。
泊まり込みではなく教会から通いだから、今日も日が明けない内からお店へと向かう。

給料が僅かではあるけど貰えて、それは神父様から自由に使っていいとされている。
神父様に渡そうとしても、はした金なんぞいらんと断られた。
仕方ないので働いてる皆と合わせて弟や妹たちにお土産を買ってきたり、たまに豪華な夕食を作ったりしている。

神父様は時々呆れたようにため息をつくが、何も言ってこないからいいのだろう。



基本的に一ヶ所に一人だけど、奉公先の八百屋は後継ぎがいなくて人手が足りていない。
ご主人がもう一人いいぞ、と言ってくれたから今日から二人で向かう。

不安そうにきょろきょろと落ち着かない妹の手を、少し強く握る。
目をまたたかせてこっちを見る妹は、しきりに帽子に手を当てている。
大丈夫、と笑いかけると、妹は少し肩が下がって薄く笑みを浮かべた。

いつの間にか薄日が差して、淡い朝日を受ける妹はとても綺麗だった。
皆の自慢の妹だ。
だけどそこで見とれてる悪がきどもには勿体ない。
さっさとどっかに行ってしまえ。

睨み付けて威嚇したら逃げていった。
意地のないやつらだ。

おっと、こんなことをしてる場合じゃない。





うちの息子は成人して間もなく戦争に行って死んだ。
このご時世どこにでもある話だ。
女房は気を病んでしまい、俺一人で八百屋を回していたがどうにも限界がある。

そこで神父様が訪ねてきたのは幸運だったのだろう。
奉公先を探している十を過ぎた子供がいるという話に、一も二もなく飛びついた。

そしてやってきたのは元気で笑顔の溢れる少年だった。
仕事を覚えるのが早く、教えてなくとも見て聞いて覚え、客からも大層評判のいい店子だ。
女房の世話も手伝ってもらうと、少年に癒されたのだろう。
どんどん体調も戻り、すっかり少年を可愛がっている始末。
今度少年に後継ぎになってほしいことを、神父様に相談しに行こうかと思っている。



今日来る少女は十を数えたばかりの、しかも角つきであると言う。
だが、少しばかり違うところがあるだけの人だ。
少年や先ほどいらした神父様が言うようにいい子なのだろう。

女房は少しばかり不安そうだが問題ない。
少年があれだけ誉める少女だ。

店先に出ると、小走りに駆けてくる手を繋いだ二人。
ほら女房出てこい、店を開けるぞ。

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