2 / 3
ある少年のお話
しおりを挟む
教会の子供たちは十をこえると街の商店街に奉公に行くことになっている。
僕は三年ほど前から八百屋で働き始めた。
泊まり込みではなく教会から通いだから、今日も日が明けない内からお店へと向かう。
給料が僅かではあるけど貰えて、それは神父様から自由に使っていいとされている。
神父様に渡そうとしても、はした金なんぞいらんと断られた。
仕方ないので働いてる皆と合わせて弟や妹たちにお土産を買ってきたり、たまに豪華な夕食を作ったりしている。
神父様は時々呆れたようにため息をつくが、何も言ってこないからいいのだろう。
基本的に一ヶ所に一人だけど、奉公先の八百屋は後継ぎがいなくて人手が足りていない。
ご主人がもう一人いいぞ、と言ってくれたから今日から二人で向かう。
不安そうにきょろきょろと落ち着かない妹の手を、少し強く握る。
目をまたたかせてこっちを見る妹は、しきりに帽子に手を当てている。
大丈夫、と笑いかけると、妹は少し肩が下がって薄く笑みを浮かべた。
いつの間にか薄日が差して、淡い朝日を受ける妹はとても綺麗だった。
皆の自慢の妹だ。
だけどそこで見とれてる悪がきどもには勿体ない。
さっさとどっかに行ってしまえ。
睨み付けて威嚇したら逃げていった。
意地のないやつらだ。
おっと、こんなことをしてる場合じゃない。
うちの息子は成人して間もなく戦争に行って死んだ。
このご時世どこにでもある話だ。
女房は気を病んでしまい、俺一人で八百屋を回していたがどうにも限界がある。
そこで神父様が訪ねてきたのは幸運だったのだろう。
奉公先を探している十を過ぎた子供がいるという話に、一も二もなく飛びついた。
そしてやってきたのは元気で笑顔の溢れる少年だった。
仕事を覚えるのが早く、教えてなくとも見て聞いて覚え、客からも大層評判のいい店子だ。
女房の世話も手伝ってもらうと、少年に癒されたのだろう。
どんどん体調も戻り、すっかり少年を可愛がっている始末。
今度少年に後継ぎになってほしいことを、神父様に相談しに行こうかと思っている。
今日来る少女は十を数えたばかりの、しかも角つきであると言う。
だが、少しばかり違うところがあるだけの人だ。
少年や先ほどいらした神父様が言うようにいい子なのだろう。
女房は少しばかり不安そうだが問題ない。
少年があれだけ誉める少女だ。
店先に出ると、小走りに駆けてくる手を繋いだ二人。
ほら女房出てこい、店を開けるぞ。
僕は三年ほど前から八百屋で働き始めた。
泊まり込みではなく教会から通いだから、今日も日が明けない内からお店へと向かう。
給料が僅かではあるけど貰えて、それは神父様から自由に使っていいとされている。
神父様に渡そうとしても、はした金なんぞいらんと断られた。
仕方ないので働いてる皆と合わせて弟や妹たちにお土産を買ってきたり、たまに豪華な夕食を作ったりしている。
神父様は時々呆れたようにため息をつくが、何も言ってこないからいいのだろう。
基本的に一ヶ所に一人だけど、奉公先の八百屋は後継ぎがいなくて人手が足りていない。
ご主人がもう一人いいぞ、と言ってくれたから今日から二人で向かう。
不安そうにきょろきょろと落ち着かない妹の手を、少し強く握る。
目をまたたかせてこっちを見る妹は、しきりに帽子に手を当てている。
大丈夫、と笑いかけると、妹は少し肩が下がって薄く笑みを浮かべた。
いつの間にか薄日が差して、淡い朝日を受ける妹はとても綺麗だった。
皆の自慢の妹だ。
だけどそこで見とれてる悪がきどもには勿体ない。
さっさとどっかに行ってしまえ。
睨み付けて威嚇したら逃げていった。
意地のないやつらだ。
おっと、こんなことをしてる場合じゃない。
うちの息子は成人して間もなく戦争に行って死んだ。
このご時世どこにでもある話だ。
女房は気を病んでしまい、俺一人で八百屋を回していたがどうにも限界がある。
そこで神父様が訪ねてきたのは幸運だったのだろう。
奉公先を探している十を過ぎた子供がいるという話に、一も二もなく飛びついた。
そしてやってきたのは元気で笑顔の溢れる少年だった。
仕事を覚えるのが早く、教えてなくとも見て聞いて覚え、客からも大層評判のいい店子だ。
女房の世話も手伝ってもらうと、少年に癒されたのだろう。
どんどん体調も戻り、すっかり少年を可愛がっている始末。
今度少年に後継ぎになってほしいことを、神父様に相談しに行こうかと思っている。
今日来る少女は十を数えたばかりの、しかも角つきであると言う。
だが、少しばかり違うところがあるだけの人だ。
少年や先ほどいらした神父様が言うようにいい子なのだろう。
女房は少しばかり不安そうだが問題ない。
少年があれだけ誉める少女だ。
店先に出ると、小走りに駆けてくる手を繋いだ二人。
ほら女房出てこい、店を開けるぞ。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔
しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。
彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。
そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。
なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。
その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。
【完結】小さなマリーは僕の物
miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。
彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。
しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。
※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる