ソウサクスルカイダン

山口五日

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浅い井戸

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 大学の映画研究会に所属していた村田さんという女性のお話。

 映画研究会ではホラー映画の撮影の為に、とある廃村で撮影をすることになった。その廃村は研究会の会長の祖父母が以前暮らしていた村。祖父母が最後の村人で、十年前に村を出てからは、すっかり自然の浸食を受けて荒れ放題。

 その退廃的な雰囲気が今回のホラー映画の内容に合っていて、撮影をすることになったそうだ。

 ただ、一番最近まで使われていた会長の祖父母の家も荒れていて、住めるような状態ではなかった。その為、近くの町の民宿から毎日通って撮影を行った。

 撮影は順調に行われて一日目、二日目の撮影を終えた。
 そして撮影の三日目。撮影中に会長が突然全員を集めて、とある家と崖の間にある井戸を見つけたことは報告した。そしてそこをラストシーンの撮影にどうかと提案する。

 一度、井戸をひとまず全員で見に行くことに。
 
 会長が案内した場所も自然の浸食を受けて荒れていたが、井戸だけは自然の浸食に呑み込まれずに、ポツンとその場所にあった。傍に生えた大きな木の枝葉によって木漏れ日が良い感じに井戸に注がれ、神秘的な雰囲気を纏っていた。

 有名なホラー映画の井戸のような寂れた雰囲気はなく、ホラー映画のクライマックスとしてはどうだろうと後になって村田さんは思うが、その時は不思議とそこが良いと思ったらしい。

 その時から、誰もがラストシーンを早く撮影したいと浮足立っていたそうだ。
 村田さんもその一人。ただ、スケジュールの都合で四日目から合流した副会長だけは、民宿でラストシーンを井戸で撮影すると聞いて顔をしかめた。

「ラストシーンを井戸でって……本当なら村の入口でラストを撮る予定だったでしょ? てか、そうじゃないと台本と辻褄が合わないだろ」

 そう言われて研究会の一同は副会長の言う通りだ思い直したそうだ。そして次に思ったことは、どうして誰もそのことに気付かなかったのか。明らかにおかしい。

 そこで撮影の五日目。撮影を始める前に全員で井戸に向かうことにした。木漏れ日が注がれる神秘的な井戸というのは三日目に見た時と変わらない。だが、最初に見た時には、まったく気付かなかったあるものに、全員血の気が引いた。

 それは枝葉から垂れる古びれたロープの数々。どれも井戸に向かって伸びていて、途中で千切れているように見える。

 嫌な予感がしながら会長が恐るおそる井戸の中を覗き込んでみる。そしてすぐに「うわぁ!」と声をあげ、その場で腰を抜かしたそうだ。

 村田さんは覗かなかったそうですが、会長や他に覗いたサークルメンバーの話によると、井戸の中には目視できるほどの高さまで死体が折り重なっていたらしい。

 その後、警察に連絡をして、撮影は当然中止となった。

 後日、警察からは、死体は廃村マニアや登山に訪れた人で、井戸の上で首を吊って死亡。その後ロープが切れたか、枝が折れて井戸に落ちたと発表された。



 会長が祖父母から聞いた話では、その井戸は村ができたばかりの頃、夫の暴力を苦に身を投げた女性がいて、それ以来女性の幽霊が村人を井戸に誘い込む……という話があり、祖父母が物心つく頃から井戸には蓋がしてあったそうだ。

 誰かが蓋をどけてしまって、女性の幽霊が再び現れてしまった。
 そのせいで多くの人がそこで首を吊ったのではないか。あの神秘的な雰囲気は人を誘い込む餌のようなもので、自分の命をここで絶っても良いと思わせるのではないか。

 だとすると自分たちも同じように……と村田さんは当時のことを思い出すと、今でも恐怖で身体が震えるそうだ。
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