ソウサクスルカイダン

山口五日

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気付いたこと

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 住んでいるマンションのエレベーターの横には、屋外に設けられた階段へと出る扉がある。

 階段へと出る扉は常に開けっ放しになっていて、向かいのマンションが見える。

 向かいのマンションの窓が見えて、室内で干された洗濯物が見えたり、窓のところに置かれたぬいぐるみが見えたり、また人が生活している様子が見えたりした。

 エレベーターが来るのを待っている間、何気なく向かいのマンションを見て時間を潰していた。

 ある日、そんなふうにマンションを眺めていると一つ気になったことがあった。
 それはとある一室でその場からまったく動かない人がいたのだ。部屋の中が暗くて黒いシルエット状だがおそらく女性。

 最初気付いた時には、会社の出社時間に間に合うかどうか、ギリギリの時間だったのでエレベーターが来るとさっさと乗ってしまった。

 次の日、またエレベーターの前で向かいのマンションを見た。
 すると、昨日見た女性が、また同じ場所に立っているようだった。まるで昨日からずっとその場に立っているのではないかとも思えてしまう。

 気になってエレベーターにすぐには乗らず、その場で立ち止まってその女性を観察してみることにした。

 女性はまったく動かなかった。五分は見ていたが、いつまでも動く様子はない。

 会社に行かなくてはならないし、他のマンションの住人がエレベーターを利用するかもしれない。そろそろエレベーターに乗ろうと思った。その時だ。女性に動きがあった。

 だが、歩き出すような動きではない。

 足を動かす様子もなく、その場で、すーっと横に回ったのだ。それもくるり、くるりと二回転。足どころか、腕など他の身体の部位を一切動かさずに。

 そこでようやく気付いた。女性の首から上に向かって一本の線が伸びていることに。
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