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ボウボウ様
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京子さんという女性が小学生だった頃のお話。
京子さんが小学生の頃、学校ではあるおまじないが流行っていた。それは体育倉庫の裏にある、今は使われない焼却炉。そこでボウボウ様という架空の神様のような存在にお祈りをするというおまじない。
お祈りの手順は放課後焼却炉の前に行き、神社で祈るように手を合わせ「ボウボウ様、ボウボウ様」と二回唱えて、声に出して願いを言う。
ただし決して一人ではお祈りをしてはならない、そう言われていた。
本当に願いが叶うのか不確かなものだが、子供たちは下校前に焼却炉の前に行き、よくお願いをしていた。
京子さんも何度か友達とお願いをしたことがあったそうだ。
願いが叶ったことはなかったが、お祈りごっこという行為が楽しかったという。
そんな京子さんは当時クラスメイトのとある男の子のことが好きになった。
そこでボウボウ様に両想いになれるよう、お祈りをしようとしたらしい。ただ、いくら友達でも好きになった相手を知られるのは嫌だった。そこで一人で放課後焼却炉に向かうことにした。
幸い京子さん以外に焼却炉には誰もいなかった。
京子さんは安心してお祈りをしようとしたが、いつもと何か様子が違うことに気が付く。
何だろうと焼却炉をジッと観察してみると、いつもは閉じているはずの焼却炉の扉が開いてることに気付いた。そしてほのかに焦げ臭い匂いがした。
今では焼却炉は使われていないはずなので、おかしいなとは思ったものの、たまたま焼却炉を使ったのかもしれない。そう思い直してお祈りをする。
「まことくんと両想いになれますように!」
手を合わせ、固く目を閉じて、熱心に祈った。
すると焦げ臭い匂いが強くなった気がした京子さんは、不思議に思い、目を開けて焼却炉を改めて見た。
焼却炉の中。ほとんど中が見えない暗い空間。そんな中で何かが動いたように見えた。
何だろう、と京子さんが焼却炉に近付いて中を覗こうとした瞬間――。
「何してるの!」
京子さんが振り向くと、そこにはに一人の女性が立っていた。その女性は音楽の先生。
いつもは優しく、怒ったところは一度も見たことない先生なのだそうだが、その時は「そこで何してるの!」「焼却炉の前なんかで!」「そこは危ないのよ!」などと物凄い剣幕で京子さんに詰め寄ったそうだ。
突然のことに戸惑う京子さん。先生はそんな京子さんの手を引いて、焼却炉から急いで離れたそうだ。
そして先生は焼却炉が見えなくなる場所まで京子さんを引っ張ると、一度息を吐いて今度は落ち着いた様子で「何をしていたの?」と再度尋ねてきた。
それで京子さんは「ボウボウ様にお願いをしてたの」と、ボウボウ様にお祈りすることが友達の間で流行っていると話した。それを聞いた先生は顔から血の気が引いて、真っ青な顔をしながら「もう絶対にしちゃ駄目よ」とそれだけ言って、京子さんに家に帰るよう促したそうだ。
音楽の先生の普段と違う様子に、京子さんは素直に従って家に帰った。
優しい音楽の先生の普段と違う様子に、驚いた京子さん。悲しいというより、戸惑いの方が大きく、家に帰ってからもそのことを引きずっていた。そんな京子さんの様子に彼女のお母さんは何かあったと察したようで「どうしたの?」と尋ねてきた。
それで今日あったことを話すことにした。
「焼却炉で……お祈りしてたら……先生に、注意されて……」
「焼却炉? ああ、あそこはね……危なくないけど、気味が悪いし……さっさと撤去すればいいのにね」
「え? 気味が悪い……?」
「あそこでね……前に亡くなった子がいるの」
京子さんのお母さんはこの地域で生まれ育ったので、過去のとある出来事を知っていた。
三十年以上前、その学校の焼却炉の中で児童が一人焼け死んだことがあったそうだ。ただ、どうして焼却炉の中で死んでいるのかは分からない。
燃えてる中に自分で飛び込んだにしては、抵抗した跡や悶え苦しんだ様子はない。また、誰かに殺されて燃やされた可能性もあったが、特に不審者の情報もなかったそうだ。いったいどうしてその児童は亡くなったのか、何も分からない。
そして京子さんはふと音楽の先生が初めての授業の時に、自分がこの学校の卒業生だと言っていたのを思い出す。先生は四十代でその事件の時期と被っていても不思議ではない。
もしかすると、その児童は先生の友達だったのかもしれない……それで注意したのではないか。そう思い、京子さんは「ボウボウ様」にお願いをすることはやめた。そしていつの間にか周りの友達もボウボウ様にお願いをしなくなっていた。
それから何もなく小学校を卒業することになった京子さん。最後に音楽の先生と話す機会があって、思い切って焼却炉のことを聞いてみることにした。
というのも京子さんはずっと気になっていたことがあった。
京子さんから「ボウボウ様」のことを聞いた時の先生の顔が、どこか怯えているように見えて、ずっと気になっていたのだ。
すると先生は最初「何も知らない」と言っていたが、しつこく京子さんが尋ねると答えてくれた。
「実は……先生が小学生の時にクラスメイトが焼却炉の中で亡くなったの。その子はちょっと不思議な子でね、何もいないところに向かって話しかけたりしてたの。それで焼却炉に向かって喋りかけることもあったんだけど……その時に『ボウボウ様』って……」
ボウボウ様というのはどういった存在かは分からない。どうして三十年以上経ってからボウボウ様の噂が挙がったのかも分からない。
ただ、京子さんが見た焼却炉の中で動いたもの。それはもしかするとボウボウ様だったのかもしれないと京子さんは思ったそうだ。
京子さんが小学生の頃、学校ではあるおまじないが流行っていた。それは体育倉庫の裏にある、今は使われない焼却炉。そこでボウボウ様という架空の神様のような存在にお祈りをするというおまじない。
お祈りの手順は放課後焼却炉の前に行き、神社で祈るように手を合わせ「ボウボウ様、ボウボウ様」と二回唱えて、声に出して願いを言う。
ただし決して一人ではお祈りをしてはならない、そう言われていた。
本当に願いが叶うのか不確かなものだが、子供たちは下校前に焼却炉の前に行き、よくお願いをしていた。
京子さんも何度か友達とお願いをしたことがあったそうだ。
願いが叶ったことはなかったが、お祈りごっこという行為が楽しかったという。
そんな京子さんは当時クラスメイトのとある男の子のことが好きになった。
そこでボウボウ様に両想いになれるよう、お祈りをしようとしたらしい。ただ、いくら友達でも好きになった相手を知られるのは嫌だった。そこで一人で放課後焼却炉に向かうことにした。
幸い京子さん以外に焼却炉には誰もいなかった。
京子さんは安心してお祈りをしようとしたが、いつもと何か様子が違うことに気が付く。
何だろうと焼却炉をジッと観察してみると、いつもは閉じているはずの焼却炉の扉が開いてることに気付いた。そしてほのかに焦げ臭い匂いがした。
今では焼却炉は使われていないはずなので、おかしいなとは思ったものの、たまたま焼却炉を使ったのかもしれない。そう思い直してお祈りをする。
「まことくんと両想いになれますように!」
手を合わせ、固く目を閉じて、熱心に祈った。
すると焦げ臭い匂いが強くなった気がした京子さんは、不思議に思い、目を開けて焼却炉を改めて見た。
焼却炉の中。ほとんど中が見えない暗い空間。そんな中で何かが動いたように見えた。
何だろう、と京子さんが焼却炉に近付いて中を覗こうとした瞬間――。
「何してるの!」
京子さんが振り向くと、そこにはに一人の女性が立っていた。その女性は音楽の先生。
いつもは優しく、怒ったところは一度も見たことない先生なのだそうだが、その時は「そこで何してるの!」「焼却炉の前なんかで!」「そこは危ないのよ!」などと物凄い剣幕で京子さんに詰め寄ったそうだ。
突然のことに戸惑う京子さん。先生はそんな京子さんの手を引いて、焼却炉から急いで離れたそうだ。
そして先生は焼却炉が見えなくなる場所まで京子さんを引っ張ると、一度息を吐いて今度は落ち着いた様子で「何をしていたの?」と再度尋ねてきた。
それで京子さんは「ボウボウ様にお願いをしてたの」と、ボウボウ様にお祈りすることが友達の間で流行っていると話した。それを聞いた先生は顔から血の気が引いて、真っ青な顔をしながら「もう絶対にしちゃ駄目よ」とそれだけ言って、京子さんに家に帰るよう促したそうだ。
音楽の先生の普段と違う様子に、京子さんは素直に従って家に帰った。
優しい音楽の先生の普段と違う様子に、驚いた京子さん。悲しいというより、戸惑いの方が大きく、家に帰ってからもそのことを引きずっていた。そんな京子さんの様子に彼女のお母さんは何かあったと察したようで「どうしたの?」と尋ねてきた。
それで今日あったことを話すことにした。
「焼却炉で……お祈りしてたら……先生に、注意されて……」
「焼却炉? ああ、あそこはね……危なくないけど、気味が悪いし……さっさと撤去すればいいのにね」
「え? 気味が悪い……?」
「あそこでね……前に亡くなった子がいるの」
京子さんのお母さんはこの地域で生まれ育ったので、過去のとある出来事を知っていた。
三十年以上前、その学校の焼却炉の中で児童が一人焼け死んだことがあったそうだ。ただ、どうして焼却炉の中で死んでいるのかは分からない。
燃えてる中に自分で飛び込んだにしては、抵抗した跡や悶え苦しんだ様子はない。また、誰かに殺されて燃やされた可能性もあったが、特に不審者の情報もなかったそうだ。いったいどうしてその児童は亡くなったのか、何も分からない。
そして京子さんはふと音楽の先生が初めての授業の時に、自分がこの学校の卒業生だと言っていたのを思い出す。先生は四十代でその事件の時期と被っていても不思議ではない。
もしかすると、その児童は先生の友達だったのかもしれない……それで注意したのではないか。そう思い、京子さんは「ボウボウ様」にお願いをすることはやめた。そしていつの間にか周りの友達もボウボウ様にお願いをしなくなっていた。
それから何もなく小学校を卒業することになった京子さん。最後に音楽の先生と話す機会があって、思い切って焼却炉のことを聞いてみることにした。
というのも京子さんはずっと気になっていたことがあった。
京子さんから「ボウボウ様」のことを聞いた時の先生の顔が、どこか怯えているように見えて、ずっと気になっていたのだ。
すると先生は最初「何も知らない」と言っていたが、しつこく京子さんが尋ねると答えてくれた。
「実は……先生が小学生の時にクラスメイトが焼却炉の中で亡くなったの。その子はちょっと不思議な子でね、何もいないところに向かって話しかけたりしてたの。それで焼却炉に向かって喋りかけることもあったんだけど……その時に『ボウボウ様』って……」
ボウボウ様というのはどういった存在かは分からない。どうして三十年以上経ってからボウボウ様の噂が挙がったのかも分からない。
ただ、京子さんが見た焼却炉の中で動いたもの。それはもしかするとボウボウ様だったのかもしれないと京子さんは思ったそうだ。
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