毎年花束を受け取りに来る人。

Kixxxki

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小さな花屋

毎年花束を受け取りに来る人。

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鄙びた町の一角に佇む小さな花屋。
先月兄が亡くなり、私が経営することになった此処に、花束を受け取りに来たと一人の男性が来店した。私の兄を訪ねたそうだが、事を説明すると、何も言わずに行ってしまった。
様子を振り返ると、兄とは親しき仲にあったようで、私よりずっと大きな背中が小さく見えた。
伸びた前髪が、兄とそっくりだった。

兄の使っていた部屋、今では物置と化して、掃除をする度に思い出を掘り返すのに明け暮れた。
今日は初めて机を整理する。埃の被った卓上に鼻を擽られ、何度も浮かないくしゃみを繰り返し、見栄えが良くなったところで、引き出しに手を掛けた。
兄は文章を書くのが好きだった。デジタルに埋もれるこの世界で、兄は最期まで手紙を書き続けていた。でも、それらは未だに行方知れずのまま。あまり気に留めてはいなかったが、もしかしてと思い、唾を飲み込みそれを引き出した。
予感は当たった。敷き詰められたそれらは底を隠すように何層にも重ねられていた。一体何通の手紙があるのだろう。
真っ白な封筒で溢れ返った中から、一通だけ花柄の封筒を見つけた。


─ 〇月〇日 花束 準備する ─ 


確かに兄の字だった。たったそれだけしか書かれていない手紙は、不思議と私の手から離れようとしない。
明確に書かれた日付は、三日前を示している。その日は、男性が一人花束を受け取りに来た日。この文面からして、兄はあの人のことを言っているのだろうか。

だとすれば、どうして。

花束の依頼なんて、頻繁に無いにしろ、ほんのメモ書きに留まらず、封筒と便箋まで用意して書き留めておくなんて。
書くことが好きな兄、こだわりも強かったが故、こういったことも珍しくないのか。


「…っ……、」


お兄ちゃん、会いたい。




























翌年、兄の一周忌を控え、自ら花を束ね、兄の眠る石碑に足を運んだ。両親と共に眠る兄の石碑。私もいつか、此処に…


『あの、』


正に今、涙が溢れようとした時、風が吹くように耳横を抜けていった音。振り向くのと同時に、涙は振り落とされ、風の元へ体を向けた。


「…、」


目の前で立ち尽くしたその人は、昨年私の、兄の元へ花束を受け取りに来た、あの人だった。その両手には、何も持っていない。


『人違いじゃなければ、もしかして…』


花屋の子なのかと尋ね、私が縦に頭を振ると、また何も言わずに行こうとする。


「待ってください…!」

『っ…、』


立ち去ろうとするのではない。まるで、逃げるように、その場を後にしようとするのだ。
すっかり冷たくなった風に、花の香りも薄れてきた。
生前、兄は花と筆に尽くした。でも、その姿を間近で見た者はいないだろう。しかし、花に関して言うならば、数少ないお客様と接する時間によって、私の知らない兄の一面を知っているのかもしれない。特に、目の前で目を伏せた人は、兄を深く知っている気がする。
あの手紙に、刻まれているのだから。


「兄…、私の兄について、教えてください。」


晴れ晴れとした空が、次第に暗くなりつつあった。
折り畳み傘も持ち合わせていない今、私達は花屋へ向かった。





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