霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第1章 天職~旅立ち~

第9話 底辺

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「あっはっはっは!!」
 鬼人の形相。
まさしくこの言葉が当てはまる目の前のコアン先輩の姿は異様ともいえるものだった。両手を淡く光らせ妖怪の体に軽くタッチをする。友達同士でやるハイタッチよりも軽く触れているその行為がまさか妖怪の腹に風穴を開けているなんてだれが想像できるだろうか。
「楽しいなぁ!ヤゲン!!私はこのために生きているのかも知れん!!」
 笑い。ひたすら笑って妖怪を殺し続ける先輩をみているとなんかいたたまれないというか・・・別の言葉がわいてくるというか・・・。
「あの先輩ちゃんを見てるとどっちが妖怪かわかんないね。」
 僕の言いたい事はどうやらメイトが言ってくれたようだった。
ていうか先輩を見守って軽く10分、地面に大穴を空けてそれに落ちていった無残な妖怪や、腹に穴だけを空けられて放置された妖怪が大量に生まれたのか、あれだけの数で攻めてきていた妖怪もいつしか数は少なくなり、激しく耳うるさかった戦場歌もそろそろ終止符を打とうとしていた。
「コアンせんぱーい!そろそろいいですよぉ!」
「何を言っている!!まだまだ殺し足りないぞ!!」
 もう・・・止まらないな。妖怪の方もだいぶ情けない声で鳴くようになっていた。周りでは、コアン様応援団と書かれた旗を掲げたマニアックどもらがギャーギャーと獣めいた声でエールを送り続ける。
 そうしているのもつかの間、やがて雑魚妖怪を倒していたコアン先輩がその司令塔であろうハーピィとにらみ合いをしていた。
「貴様がこの騒動を起こしたボスか。よくもまぁこんなことをしてくれたもんだ。挙句の果てに私のかわいいかわいい後輩にけがを負わせようとしたな?」
 先輩の声に反応してか、ハーピィは短い嗚咽のような声を漏らす。体が人のだけであって脳は鳥頭なのだろうか。
「しゃるるるるるる」
 巻き舌風な発音の鳴き声が回りに響きわたるとともに見たことのない光景が目の前に広がった。
 キィン・・・
軽い金属音のような音が鳴ったと同時に虚空に一つの円が生まれる。その円の中には読めない文字や不思議な図形や記号が描かれていた。
「これは・・・非科学的単重陣・・・?」
 コアン先輩の表情が強張り、真剣な顔つきになる。コアン先輩は今、たしかに「非科学的単重陣」と言った。
 そもそも非科学的単重陣とはなんなのか。それは非科学的能力者が使う能力である。単重陣、二重陣などとよばれ、これを生成することにより非科学的能力者の能力は発動される。非科学的能力者には魔術師なんていう呼び名もあるからか、基本的に非科学的陣は魔法陣とよばれてた。
「しゃるるっ!!」
 瞬間、敵の声がひときわ強くなったかと思うと、それに呼応するかのように魔法陣が光を発し、一本の光の光線を射出した。
「やばいっ!!」
 コアン先輩は地を蹴り回避行動をとる。しかし、あまりにはやすぎたその攻撃は、地面に当たった余波でコアン先輩の体を吹き飛ばした。
「先輩!!大丈夫ですか!?」
「ぐ・・・う・・まさか奴がここまでの力を持っているとは」
 地面にあたった衝撃が強かったのか、コアン先輩は苦痛の表情を浮かべていた。
「きしゃるるる!」
 だが、そんなやりとりを悠長に待っていてくれる敵などもいない。敵のハーピィは二度目の攻撃を試みようと新しい魔法陣を生成していた。
「ご主人くん!!!」
「わかってる!!テイム!!」
 僕はメイトに言われ声を張り上げた。体に力がみなぎってくる、メイトのテイムに成功させた僕は続けt能力の発動を進める。
「きしゃあ!!」
「赤性雷電!!!」
 僕は右手を突き出して能力を出力させる。刹那、無数の赤電が壁を作りとんできた敵の攻撃と衝突しあう。小規模な爆発に体を揺さぶられるもどうにか体位は確保する。
「知能が少ないだけあって単重陣しか組み替えれてないね。ボクの力だったら指二本で倒せるけど・・・」
「僕はDランク・・いくらメイトの能力が強くてもDランクまで下がってしまったら・・・」
 意味がない・・・と喉の奥で呟く。ハーピィの能力はおそらくBランクに近いだろう。Dランクの僕のあの能力で打ち消せた事すらが奇跡なくらいだ。
「私の能力は・・・」 
 ふと、コアン先輩は何を思ったのか、小さく声を紡いで話す。
「私の能力は、敵に触れなければまるで無力だ。どんなに身体能力が高かろうと、さすがにあの攻撃をよける事はできない。」
 「だから・・・」とコアン先輩は立ち上がる。その瞳にはまだ闘志の炎が燃え盛っていた。
「だから私があいつに突っ込んで殺してやろう。」
「な・・なにを、それって」
「ああ、私も死んで奴も殺す。」
「何言ってるんですか・・・そんなこと許されるわけ。」
「だれの許可も必要としないっ!!」
 地を蹴る。小石や砂を巻き上げてコアン先輩は進んで行く。ボクがのばした右手は、寸でのところで空を掻いた。
「はぁあぁああ!!」
 コアン先輩はもう一度、両手に淡い白色の光を纏わせ、突き進む。もちろん、黙ってみている敵なんてどこにもいない。
 敵はすぐさま魔法陣を生成。光の束がうみだされ、その一本一本が明確に分かるほど、すべての矛先はコアン先輩に向けられていた。
「貴様が私を倒せるとでも?お前も道連れにしてやろう!!」
 コアン先輩が右手を突き出したのと敵が能力を発動させたのはほぼ同時だっただろう。だが、無数に飛ばされる光の一閃も、コアン先輩が突き出した右手も、両者にあたる事はついに訪れなかった。
「レオンくん・・なにをしてるんだ!?」
「こっちのセリフですよっ、何勝手にヒーローになろうとしてるんですか!そんなの・・許されるわけないじゃないですか!!」
「だから・・誰の許可もいらないと・・っ」
「僕が許さない!!!」
 おとなしかった後輩が声を張り上げたからか、コアンは心底驚いたような顔になって硬直する。
「勝手に突っ込むとか・・道連れとか・・・自分勝手すぎます。」
「そ・・・それは」
「死なないでくださいよ。」
「・・・え?」
「数少ない友人ですし・・・死なれたら困りますし」
「ほぉ!?」
「さみしいじゃないですか」
「くっくっくっくっく!!」
 コアン先輩は不気味な声で笑い始める。腹をかかえバシバシと僕の肩を叩いてきて本当に腹立たしい。
「はっはっはっは!生きる希望が湧いてきた!!」
「と・・・とにかく、先輩は黙っててください」
 あとは僕が倒します。とレオンは背中で語る。その立ち振る舞いと誇りは、なにものにも代え難い、Dランクという存在からは考えられないなにかのパワーがそこにはあった。
「我、命失った者に第二の命を与える者、レオン也。」
 レオンを中心に紫色の淡い光が発せられる。
「召喚、メイト・クランリス。テイム。」
 ひときわ強く発せられた後、レオンの左目は赤色に変わっていた。
「きしゅるるる」
 無論、いままでだまっていた相手もまた動き出す。いままで単重陣が打って変ったかのように二重陣になっていた。
「たとえ、僕がDランクだろうと、敵がSランクだろうと。僕はみんなの力を借りて戦える。そうだろう?メイト。」
「そうだね、ボクがいればもちろん戦える。でもボクを操るご主人がいなければいけない。ボクは二回、人に助けてもらったよ。だからボクも人助けをしてやろうかなってね。」
 レオンは今一度、右手を敵の顔面向けてのばす。その眼に揺れなどは一切なかった。
「赤性雷電・・・っ!!」
 瞬間、どれだけの音も、風も、光も、すべてを置き去りにした、あるいはそれらすべてを凌駕した一閃が放たれる。射出した雷は爆発に近い音を奏で、爆風に似た風を巻き起こし、膨大な光がハーピィを襲う。組み上げられていた二重魔法陣もまるで紙のように壊れ、敵本体を飲み込んでゆく。その力は、とてもDランクとは言い難いものだった。現に、その攻撃を後ろで見ていたコアンがそれを証明するだろう。有り得ないものを見てると言わんばかりのような眼でその光景を見ていた。
 その場にいたであろう敵も、光の一閃を残した後では、ついにその姿すらも存在しない物へと変貌していた。
「・・・・。」
 直後、耳が痛くなるほどの沈黙が訪れる。しばらくしてその沈黙を破ったのは誰かの小さくまばらな拍手だった。それが次第に大きくなり、やがて学校全体に広がるような大きな拍手へと変貌していった。
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