霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵

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第5章 蠱惑、カマラアサマラ

第36話 白の街ホープレイ

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  「いやぁー久しぶりだねぇー、実に何ヶ月ぶりだい?軽く2、3ヶ月かい?いやはやいやはや、もしかしてレオンくん身長伸びたかな?伸びてないかな?元気そうで先生はもう嬉しいよぉー、君を見て2年、すっかり大人になってしまったレオンくんは先生の元を巣立ち、新たな世界に一歩一歩、確かに足を出し大地を踏みしめその場を歩く。先生はね、そんな風に育つ教え子を見るのがとても好きなんだよ。」

   「そうですね。」
   久しぶりに聞くカルクス先生のマシンガントークを軽く受け流していく。よくもまぁこれだけの言葉を一度も噛まずにペラペラ言えるもんだ。
   とまぁ、カルクス先生もホープレイに行くと言うので結局僕らは馬車に乗せてもらう事にしたのだ。
   「うるさいオッサンにはうんざりだが、まさかこんな更地で私の大事な後輩に会えるとは、もしかして君は私と結ばれてるんじゃないかい?」
   「ほんとですね、奇跡が起きました。」
   カルクス先生だけでも驚きだと言うのに、まさかのこの馬車の持ち主は嘗て自分が居た学校の寮の部屋の同室人、コアン・シェルガイネだったのだ。
   レオンはそれだけでお腹いっぱいだと言わんばかりに表情を綻ばす。
   「な、なぁレオン…。この喋りまくるオヤジさんとそこの綺麗なお姉さんは誰なんだ?」
    レントがおそるおそる耳打ちをする。
   「あぁ、この人、オヤジさんの方がカルクス先生と言ってな、霊飼い術師のスペシャリストだ。専門医としての腕は一級品だ。無駄口が多い所がダメなところだが。」
   「またまたぁ、カッコイイイケメン先生だなんてそんなぁ…照れちゃうなぁ☆」
   「言ってませんし気持ち悪いです。まぁ、こっちの人は僕の寮の同室人だったコアン先輩で、霊飼い術師専門学校の不動のAランクだ。」
   「どうも、レオンくんの不動のフィアンセだ。」
   「「フィアンセ!?」」
   「な訳ないだろ。ちょっとこの人は変なだけだ。」
     一緒に驚くアカネとレントの誤解を解く。コアン先輩はクツクツと楽しそうに歯を見せてイタズラに笑う。その笑顔はあの時とは変わっていなかった。
   「しかし驚きました。コアン先輩がまさか国周兵になっているなんて。」
   「まぁ、私は生憎頭も出来て力もあって、皮肉な事に顔も良い。これだけ揃っていれば面接で落ちるわけがないだろう?楽しかったぞ?試験に名前だけ書いて必死に問題を解く愚鈍な者共の前で問題を破き合格するのはな。あの時見た奴らの顔は忘れんよ。」
   コアン先輩はまたしても笑う。僕ら一同はこんな人間が国を守っていくような国周兵でいいのだろうかとため息を吐く。
   「と、それより、一緒にいるその可愛い女の子と黒髪がクールでカッコイイ男の子はレオンくんの友達かい?」
   「か…かわいぃ…だなんて…ぁの…」
   「カッコイイ言わないでくれ……」
    アカネは頬を赤く染めて俯く。対するレントの顔は青くなっていてダメージが大きいように思われた。いや、気のせいだろう。
   「はい、アカネとレントって言います。小さい頃からの親友です。あ、もう一人レイチルって女の子も居たんですけど、残念ながら誕生祭には呼ばれませんでした。アカネは科学的能力者、レントは非科学的能力者です。」
    説明をするとカルクス先生は腕を組みうんうんと2回頷き喜ばしそうに表情を緩める。
   「そういえば聞いていなかったが、レオン。なぜ君達はホープレイに向かっている?」
    コアン先輩が手綱の感触を確かめながら言葉を紡ぐ。その質問に答えたのはレオンではなく躍り出たレントだった。
   「カマラアサマラを捻りに行くんだよっ」
   レントの言葉にコアン先輩は横目で見て流す。おもむろにレザー製で出来た小さい筒の中から木の枝のような物を取り出し、口に咥えたコアン先輩はそれを犬歯で噛み言葉を続けた。
   「カマラアサマラ…か。つまり君は筋力硬化の被害者というわけだ。」
   「な、どうして…」
   「カマラアサマラと言えば筋力硬化ぐらいしかないからな。」
   「ほれ。」と言ってコアン先輩は木の枝のような物を取り出したレザー製の筒をレントに投げ渡す。
   「これは一体…?」
   「カマラの木の枝だ。名前の通りカマラアサマラの呪術である筋力硬化のその症状の進行速度を多少だが抑えてくれる。その木を咥えて歯で少し傷つけて中の樹液を吸うんだ。甘くて中々に美味だぞ。レオン達も、自覚が無いだけでかかっているかも知れない。飲んでおけ。」
   コアン先輩に言われるがままレオン達はカマラの木の枝を咥えて噛みちぎる。細い枝だが中々強靭な物で、意外に傷をつけるのに顎の力を使った。
   「そういえば、コアン先輩と先生はどうしてホープレイに向かってるんですか?」
   「学校から休暇を貰えてね。帰省中って訳。先生の故郷はホープレイだからね。」
   「私は国周兵の仕事だ。カマラアサマラの生態調査もとい死体でも持って帰る事にするよ。」
   「あ、そうだったんですか。てかコアン先輩さらっと酷い事言ってますね。」
    昔と変わらないコアン先輩の反応に複雑な思いを混ぜていると、ふとカルクス先生が何かに気付いたように声を出す。
   「そういえば筋肉硬化には4日が限界だけど、レントくんはいつ頃気付いたんだい?」
   「は、はい。昨日の朝っす。いつも髪とか逆立ててるんすけど、全然できなくておかしいなーって、原因探ったらあのカマキリみたいな奴の魔術だったって感じっす。」
   「なるほどね、ちなみに歩いていくとホープレイまでどんだけかかると思うかな?」
   「「「へ??」」」
   「そうだね、睡眠、食事を含めるとあと3日はかかってたねー。」
   「「「3日ぁ!?!」」」
    そ、それってもう……
   「俺南無三してんじゃん!!!」
    本当にそうだ。あと3日もかかっていたら着くころにレントは死んでいる計算になる。それ以前に、自分たちだけでは路頭に迷いホープレイに3日以内で着くなんて事が不可能なのだろう。改めて自分の不甲斐なさと知識の無さを思い知らされて歯を強く噛みしめる。
   「せ、先生、俺の命の恩人っす。」
   「いや、全然良いよぉ~。あ、ちなみに馬車だとすぐ着くから、ほら、もう見えてるよ。」
   そして改めて馬車の偉大さに気付いた瞬間だった。
   「先生、ホープレイに着くぞ。さっさと顔出せ顔パス人間。」
   「……(しゅん」
    あ、先生落ち込んだ。
   「あ、ほら、ここが西の街、ホープレイさ。」
   立ち直りはやっ。と、馬車を降りて一目見てある感想がレオンの口から飛び出した。
   「し、白い……」
   そう、何処を見ても白いのだ。門も白い、家屋も白い、街を囲む塀も白い、もちろん、片隅に見える教会も白く染め上げられている。とにかく全てが白い石で構築された街はなんとも清潔感の溢れる街だった。
   「早速案内しよう。」
   こうしてレオン一行はレントが生きている間に無事にたどり着く事ができた。後はカマラアサマラを倒すだけだ。
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