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京都医科大学VS冷泉堂大学剣道部改め剣道サークル
審判。。。
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「ナイスファイト!」
松尾女史が浦賀氏の肩をたたく。正直に言うと、浦賀氏の健闘は私の予想を遥かに超えていた。負けたことは残念であったが、称賛に値する戦いぶりであった。
「申し訳ない。負けてしまった」
浦賀氏がペコリと頭を下げた。すると、ルーカスが浦賀氏を剛腕で抱き寄せ、
「何を言っているんだ、ベストを尽くしたじゃないか!」
と言って、熱く、そして、強く抱擁した。疲弊が頂点に達していたためか、あるいは、感動したルーカスが力加減を忘れてしまっていたのか、浦賀氏はルーカスが抱擁を解くと、泡を吹いてその場で倒れてしまった。
「中堅、前へ!」
審判の声で、木田氏が気合いを自らに入れるかのように、両手で自分の頬を叩いた。しかし、あまりにも強く叩きすぎてしまったのか、口の中がきれてしまい、口許から血がたらりと流れた。
「木田君、いつもの調子でがんばって」
松尾女史は今度も作戦を思い浮かばなかったようで、ごくありきたりの言葉で木田氏を送り出した。
一方で京都医科大学の熊寺は、例のごとく中堅の木村に耳打ちし、作戦を授けていた。
浦賀氏をノープランで送り出した松尾女史の所業を間近で見ていた木田氏は事前に自分自身で作戦を練っていた。他のメンバーには言わなかったが、相手の木村のことを木田氏は知っていた。高校生のときに対戦経験があったのだ。
木田氏が所属していた高校の剣道部は、京都市内では強豪に数えられ、ある意味木村が所属していた高校をカモにしていた。そして、木田氏は木村の癖を把握していた。木村は連続攻撃を得意としているものの、攻撃を終えた後に面の防御ががら空きになる弱点があった。
両者は一礼後、開始線まで歩みを進めた。両者の目と目が合う。その瞬間、木村は明らかに動揺した。過去の対戦を思い出し、分が悪いことを一瞬にして悟ったようだ。
審判が大声で開始の号令をかける。
「試合はちめ!」
試合会場全体が凍りつく。間近で審判の言い間違えを耳にした木田氏のショックはとりわけ大きかった。
『ウソや、はちめって何やねん!』
審判は赤面して下を向いている。試合前から気持ちの面で劣勢に立たされていた木村だったが、木田氏の隙を逃さなかった。
木田氏は目の前に迫る木村に気づき、慌てて防御を固めようとしたものの、時すでに遅し。見事な胴打ちが決まり、審判が木村の勝利を告げた。
意気揚々と引き上げる木村とは反対に、木田氏は納得がいかず、審判に詰め寄った。
「審判、今、はちめって言いましたよね、はちめって!」
「言っていない。私はちゃんと、はち、いや、はじめと言ったぞ」
「ほら、今も間違えそうになってましたよ!再試合させて下さい!こんなんじゃ納得いきません!」
「いや、認めない」
審判が自分の言い間違えを認める気はなさそうだ。冷泉堂大学陣営から主将のルーカスが言い争いを続ける木田氏と審判の下に駆けつけ、木田氏を審判から引き離した。
「確かに、あの審判は「はちめ」と言ったが、しょうがない。気持ちを切り替えて、俺と信夢を応援してくれ。俺たちが絶対にリベンジの機会を用意するから」
ルーカスに諭された木田氏はしぶしぶ冷泉堂大学陣営に戻ってきた。
松尾女史が浦賀氏の肩をたたく。正直に言うと、浦賀氏の健闘は私の予想を遥かに超えていた。負けたことは残念であったが、称賛に値する戦いぶりであった。
「申し訳ない。負けてしまった」
浦賀氏がペコリと頭を下げた。すると、ルーカスが浦賀氏を剛腕で抱き寄せ、
「何を言っているんだ、ベストを尽くしたじゃないか!」
と言って、熱く、そして、強く抱擁した。疲弊が頂点に達していたためか、あるいは、感動したルーカスが力加減を忘れてしまっていたのか、浦賀氏はルーカスが抱擁を解くと、泡を吹いてその場で倒れてしまった。
「中堅、前へ!」
審判の声で、木田氏が気合いを自らに入れるかのように、両手で自分の頬を叩いた。しかし、あまりにも強く叩きすぎてしまったのか、口の中がきれてしまい、口許から血がたらりと流れた。
「木田君、いつもの調子でがんばって」
松尾女史は今度も作戦を思い浮かばなかったようで、ごくありきたりの言葉で木田氏を送り出した。
一方で京都医科大学の熊寺は、例のごとく中堅の木村に耳打ちし、作戦を授けていた。
浦賀氏をノープランで送り出した松尾女史の所業を間近で見ていた木田氏は事前に自分自身で作戦を練っていた。他のメンバーには言わなかったが、相手の木村のことを木田氏は知っていた。高校生のときに対戦経験があったのだ。
木田氏が所属していた高校の剣道部は、京都市内では強豪に数えられ、ある意味木村が所属していた高校をカモにしていた。そして、木田氏は木村の癖を把握していた。木村は連続攻撃を得意としているものの、攻撃を終えた後に面の防御ががら空きになる弱点があった。
両者は一礼後、開始線まで歩みを進めた。両者の目と目が合う。その瞬間、木村は明らかに動揺した。過去の対戦を思い出し、分が悪いことを一瞬にして悟ったようだ。
審判が大声で開始の号令をかける。
「試合はちめ!」
試合会場全体が凍りつく。間近で審判の言い間違えを耳にした木田氏のショックはとりわけ大きかった。
『ウソや、はちめって何やねん!』
審判は赤面して下を向いている。試合前から気持ちの面で劣勢に立たされていた木村だったが、木田氏の隙を逃さなかった。
木田氏は目の前に迫る木村に気づき、慌てて防御を固めようとしたものの、時すでに遅し。見事な胴打ちが決まり、審判が木村の勝利を告げた。
意気揚々と引き上げる木村とは反対に、木田氏は納得がいかず、審判に詰め寄った。
「審判、今、はちめって言いましたよね、はちめって!」
「言っていない。私はちゃんと、はち、いや、はじめと言ったぞ」
「ほら、今も間違えそうになってましたよ!再試合させて下さい!こんなんじゃ納得いきません!」
「いや、認めない」
審判が自分の言い間違えを認める気はなさそうだ。冷泉堂大学陣営から主将のルーカスが言い争いを続ける木田氏と審判の下に駆けつけ、木田氏を審判から引き離した。
「確かに、あの審判は「はちめ」と言ったが、しょうがない。気持ちを切り替えて、俺と信夢を応援してくれ。俺たちが絶対にリベンジの機会を用意するから」
ルーカスに諭された木田氏はしぶしぶ冷泉堂大学陣営に戻ってきた。
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