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赤備え
赤甲冑の軍団
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北村は不動明王のような顔でこちらを睨んでいる。すべての不幸を私のせいにしている顔だ。北村の声が震えている。
「お前さえいなければ。お前さえいなければ」
私は精神を統一させるために軽く目を閉じた。すると、なぜか見渡す限りの草原に私は一人で佇んでいた。私は赤い甲冑姿で、手には真剣を握っていた。そして、私は実家で飼っている馬のアラモに乗っていた。
しばらくすると地平線の向こうから、黒い甲冑を着た数十人、いや、数百人もの武士が姿を現した。ある者は馬に乗り、ある者は弓を構えていた。
そして、白馬に乗った若い武将が表れた。この黒の軍勢を率いている武将は、北村雄平であった。現実の北村雄平と同じように、表情に強い怒りがにじみ出ている。
私は恐怖で動けなくなってしまった。
その時、誰かが私の肩を軽く叩いた。隣にはいつの間にか試合前に現れた赤い甲冑姿の武将がいた。
「案ずるな、我が子孫よ」
武将はなぜか楽しそうに迫りくる軍勢を見つめていた。
「あの言葉を口にせよ」
赤い甲冑の武将が言う。私は大きく息を吸うと、
「疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵し掠めること火の如く、動かざるごと山の如し」
と口ずさんだ。
すると、赤い甲冑の武将の隣に一人、そして、また一人と、赤い甲冑を身にまとった武士が姿を現した。赤い甲冑の軍団は瞬く間に数百人に、いや数千人に膨れ上がった。
軍旗には「風林火山」の四文字が踊っていた。
そして、隣にいた赤い甲冑の武将は、手下が用意した立派な栗毛の馬にまたがると、自ら率いる赤甲冑の軍勢に向けて、割れんばかりの大きな声で叫んだ。
「皆の衆、久しぶりじゃのう!今日は、武田信玄の願いをきいてもらいたい。このできそこないの子孫におぬしらの力を貸してもらいたいのじゃ」
赤い軍勢から野太い歓声が上がる。
武田信玄は軍勢を満足そうにみつめると、今度は北村雄平の軍勢の方に馬の向きを変え、再び大きな声で宣戦布告した。
「北村とやら、今からお主の首を取る!」
赤い甲冑の軍団から「オー!」という声が上がり、大地にこだました。
私は竹刀を胸の前に引き寄せると、北村に向けて一気に走り始めた。
私に続いて赤甲冑の軍団も走り出す。
北村は金縛りにあったように固まっていた。
北村もまた私が見た戦場に立っていたのだ。
「た、武田信玄だと・・・」
幻想を振り払うように北村はかぶりを振ると、遅れて踏み込んできた。
両者の竹刀がそれぞれの相手の面に向けて鋭く振り下ろされた。
どちらも手応えはあった。
三人の審判に注目が集まる。
三人全員が白い旗を上げた。
「勝負あり!」
主審が私の勝利を告げた。
その瞬間、北村は膝をつき、竹刀を地面に叩きつけて悔しがった。
私は北村に礼をすると、試合場から冷泉堂大学陣営に戻ろうとした。しかし、戻る必要はなかった。
冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルのメンバーたちの方から全速力で駆け寄ってきた
ためだ。
ルーカスと松尾女史からハグという名のベアハッグ(鯖折り)を受け、作り笑いを浮
かべたダンディーからは、見えないところで脇腹を殴られた。
私は決勝戦のプレッシャーと、北村雄平の怒涛の攻撃を受け、心身ともに疲労困憊であり、前のめりに倒れそうになった。しかし、佐々木由紀が細い腕で私を支えてくれた。そして、この細い腕にどんな力があるのかと思うほどの剛腕で私を抱き寄せた。
「ありがとう、武田君」
「お前さえいなければ。お前さえいなければ」
私は精神を統一させるために軽く目を閉じた。すると、なぜか見渡す限りの草原に私は一人で佇んでいた。私は赤い甲冑姿で、手には真剣を握っていた。そして、私は実家で飼っている馬のアラモに乗っていた。
しばらくすると地平線の向こうから、黒い甲冑を着た数十人、いや、数百人もの武士が姿を現した。ある者は馬に乗り、ある者は弓を構えていた。
そして、白馬に乗った若い武将が表れた。この黒の軍勢を率いている武将は、北村雄平であった。現実の北村雄平と同じように、表情に強い怒りがにじみ出ている。
私は恐怖で動けなくなってしまった。
その時、誰かが私の肩を軽く叩いた。隣にはいつの間にか試合前に現れた赤い甲冑姿の武将がいた。
「案ずるな、我が子孫よ」
武将はなぜか楽しそうに迫りくる軍勢を見つめていた。
「あの言葉を口にせよ」
赤い甲冑の武将が言う。私は大きく息を吸うと、
「疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵し掠めること火の如く、動かざるごと山の如し」
と口ずさんだ。
すると、赤い甲冑の武将の隣に一人、そして、また一人と、赤い甲冑を身にまとった武士が姿を現した。赤い甲冑の軍団は瞬く間に数百人に、いや数千人に膨れ上がった。
軍旗には「風林火山」の四文字が踊っていた。
そして、隣にいた赤い甲冑の武将は、手下が用意した立派な栗毛の馬にまたがると、自ら率いる赤甲冑の軍勢に向けて、割れんばかりの大きな声で叫んだ。
「皆の衆、久しぶりじゃのう!今日は、武田信玄の願いをきいてもらいたい。このできそこないの子孫におぬしらの力を貸してもらいたいのじゃ」
赤い軍勢から野太い歓声が上がる。
武田信玄は軍勢を満足そうにみつめると、今度は北村雄平の軍勢の方に馬の向きを変え、再び大きな声で宣戦布告した。
「北村とやら、今からお主の首を取る!」
赤い甲冑の軍団から「オー!」という声が上がり、大地にこだました。
私は竹刀を胸の前に引き寄せると、北村に向けて一気に走り始めた。
私に続いて赤甲冑の軍団も走り出す。
北村は金縛りにあったように固まっていた。
北村もまた私が見た戦場に立っていたのだ。
「た、武田信玄だと・・・」
幻想を振り払うように北村はかぶりを振ると、遅れて踏み込んできた。
両者の竹刀がそれぞれの相手の面に向けて鋭く振り下ろされた。
どちらも手応えはあった。
三人の審判に注目が集まる。
三人全員が白い旗を上げた。
「勝負あり!」
主審が私の勝利を告げた。
その瞬間、北村は膝をつき、竹刀を地面に叩きつけて悔しがった。
私は北村に礼をすると、試合場から冷泉堂大学陣営に戻ろうとした。しかし、戻る必要はなかった。
冷泉堂大学剣道部改め剣道サークルのメンバーたちの方から全速力で駆け寄ってきた
ためだ。
ルーカスと松尾女史からハグという名のベアハッグ(鯖折り)を受け、作り笑いを浮
かべたダンディーからは、見えないところで脇腹を殴られた。
私は決勝戦のプレッシャーと、北村雄平の怒涛の攻撃を受け、心身ともに疲労困憊であり、前のめりに倒れそうになった。しかし、佐々木由紀が細い腕で私を支えてくれた。そして、この細い腕にどんな力があるのかと思うほどの剛腕で私を抱き寄せた。
「ありがとう、武田君」
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