自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

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【七ノ章】日輪が示す道の先に

第二一八話 会合、そして秘密を知る《後編》

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 ──鬼のアヤカシ族。
 他のアヤカシ族と違い、頑強かつ高い身体能力に再生能力を持つ。
 加えて鋭敏な感覚器として機能する角を保有する代償としてか、一般的に幼年期や青年期に強い食人衝動に見舞われる。
 衝動にさいなまれる際は偏執的な思考におちいり、社会生活に不穏な影響を与えるそれは、鬼や国家から見ても悩みの種であった。
 結果として食人衝動を知る者は鬼というだけで一族を嫌悪、忌避し迫害する。

 数が少ないアヤカシ族全体に見ても鬼の総数は非常に少ない。それでも目敏めざとく発見され、後ろ指をさされ、心無い言葉を掛けられる。
 そして内包する危険性を自覚しているが故に、鬼は日輪の国アマテラスから姿を隠し日陰で生きてきた。
 国から一つの種族、派生した者たちが身を引き、共生という形を取ったのだ。

それがしとて若い身空に苦労させられた。他の鬼も同様であろうな」

 過去を思い出しているのか、ナナシは瞳を伏せ、押し黙る。
 ……ツクモの元にいたゴズ、ギュウキもそうだったのだろうか。人の世から別たれた空間にいた理由も、複雑な事情があると察せられた。

「鬼のアヤカシ族が抱える重大な問題だってのはよく分かった。今の今まで、どうして隠してたかはオキナさんに改めて問いただすとして……対策や予防策はあるのか?」
「それこそが少彦すくなひこ鈴留すずどめだ。言ったであろう? 製作に使用した特殊な素材、製法は心身の乱れを整え健やかな成長を促進させる、と。元は鬼の衝動を抑制する目的で作った物だが、病床へ伏せる者にも効果が発揮される」
「だからこそ、病に悩む人へ贈られたって訳か。巡りに巡ってカグヤの手に渡り、形見の品となって身に着けていたから、今まで衝動が現れることは無かった」

 そもそもの話としてナナシが奪いさえしなければ、こんな事態にはならなかったのに。……過ぎた話で、謝意の気持ちがあったとはいえ、何度も蒸し返すのは不毛か。

「詳細はオキナさんに聞くとして、ひとまずカグヤの容態も落ち着いた。……目を覚ました後に、しっかり説明しないといけないか」
「だが、安心するのはまだ早い。これまでは鈴の音で衝動が抑えられていた分、反動が強く露出してくるはずだ。鈴留すずどめを着用すれば、ある程度は普通の生活を送れる用にはなるが、そう遠くなく決壊するだろう」
「つまり、カグヤ自身が衝動を乗り越える必要があるってのか」

 突如として判明したカグヤの秘事が尾を引き過ぎてる。どうしろと?
 思わず頭を抱え、うつむく。風靡ふうび霊桜れいおうのざわめきがわずらわしく感じてしまうほどに、思考の邪魔をしてくる。

「そこで、こちらから提案したいことがある」

 そんな時、ナナシが鈴留すずどめをこちらに近づけてきた。

少彦すくなひこ鈴留すずどめを、現時点をもってそちらに返す。そして衝動を解消するべく彼女に必要な行動を教え、こちらの目的を完遂することに協力してほしい」
「……鈴留すずどめを返してもらえるのは助かるが、協力?」
「そうだ。これはカラミティや魔剣に関する事項でなく、極めて個人的で利己的なもの。それがしは、その目的を達する為にカラミティへ籍を置いていただけに過ぎん」

 強烈な、確固たる信念で発言するナナシは真面目な面持ちで見つめてきた。
 気圧される雰囲気に息を呑みつつも、差し出された鈴留すずどめを受け取り、懐に仕舞い込む。

「返却はありがたく受け取るが、簡単には信じられない。元より敵対した陣営同士。ニルヴァーナの時は事の重大さからファーストやセカンドと手を組んだが……こうも似たような事例が続くのは、裏があると思ってしまう」
「だろうな。何をしたいのか、明確に分からなくては迂闊うかつに頷けんだろう」

 こちらの内心を見透かしたようなナナシは、顎に手を当て思案する。
 熟考し、カグヤへ視線を送り、次いで焔山ほむらやまの天辺を睨んだ。

「──では、明言させてもらおう。それがしはかつて日輪の国アマテラス蔓延はびこり、猛威を振るった死刻病しこくびょう。それだけでなく、あらゆる病の元凶たる存在……焔山ほむらやまいただきに座すモノを断ち切りたい」
「あらゆる、病の元凶。そんなのが、焔山ほむらやまに?」

 オウム返しな聞き返しに、拳を固く握り締めたナナシは頷く。
 一切の迷いが見られない反応に、伊達や酔狂でないことを知る。
 カラミティ……いや、ナナシが提唱する内容は、日輪の国アマテラス全体を苦しめ、くすぶっていた遺恨を亡き者とする共闘の申し出。
 真か嘘か、定かでなくとも興味を惹かれる内容としては十分。
 何よりカグヤの衝動を解決する方法が知りたかった俺は、ナナシが語る目的を聞き入れる他に選択肢は無かった。
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