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第8章 スピカの恋愛事情
5本心
しおりを挟む目が覚めたら、ルナ様の姿が見えた。
「──ここは?」
あ、あの男……は?
俺の手をルナ様が握りしめた。
「スピカ、もう大丈夫だよ。ソレイユ様が男を捕まえたんだ。
この学園にはもういないから。騎士団に引き渡したって」
「──捕まえて?」
あの時の、口を被う男の手の感触が思い出されて、鳥肌がたった。
「あ」
怖い、あ、どうしたら……
身体が震えて来る。
ルナ様が、ギュッと抱きついてきた。
「ごめんね。僕じゃ頼りないよね…誰か呼ぶ?」
そう言いながら、背中を摩ってくれる。
「──カストル様、呼ぶ?」
涙が出て来た。ここは安全だからカストル様はここに連れてきてくれたんだ。
俺が怖く無いように。
「大丈夫、です。これ以上迷惑をかけたくないです。いざって時に何にも出来ないなんて……情けない。頑張るって、決めたのに。何やってんだろう。もう、大丈夫ですから。自分の部屋に戻りますね」
そんな俺の顔をジッとルナ様が見つめて来る。
そんな、泣きそうな顔、ルナ様までしなくて大丈夫だから。
暴行を受けたり、してないし。
「あはは。平気。平気。ランニングで酸欠の所を口を塞がれちゃって……だから、力が出なかっただけで。不意打ちを防ぐ方法、ルナ様の護衛騎士の人に聞いて見ようかな~。本当、筋肉が付きにくくて……か弱い主人公の体仕様なんですかね?」
なるべく、明るい声を心がけて。
笑顔で……
ルナ様が俺をさらにジーっと見つめて、俺の両頬をムニッと引っ張った。
「嘘つき」
まだ、ルナ様は俺の頬っぺたをムニムニと摘んでいる。
「はなゃして、くだひゃい」
地味に痛い。
「僕には、色々言ったよね?」
色々って。あの事?
いや、だってあの3人は……丸わかりだったし。
3人で牽制しあってて。
ルナ様は、主人公じゃないからって邪魔にならないようにしていたと思う。
だから。
背中を押してあげたかった。
本物は、ルナ様だから。
傷つき過ぎて、見てられなくて、幸せになって欲しかったから。
3人にも発破をかけたんだ。
もっと、リードしてやれって。
「キャンプの時に熱を出しちゃって、夜中に皆と話すの出来なかったんだよね。僕の夜ふかしに付き合ってくれる?
だいたい、アルは心配し過ぎなんだよ。僕とスピカが2人で話すのが、心配とか。スピカのおかげで、アルと付き合えたのにね。
過保護過ぎるから、今日は出禁にして僕の部屋に入れなくしたから」
ちょっとだけ笑って、そんな話をしてくる。
本当、可愛い。アルファルド殿下が心配するのも分かる。分かるけど俺とルナ様を心配なんて、それは無いよ。見守り隊に入っちゃったけど。
思わずつられて笑ってしまった。
「お腹空いてると変な方に考えるからね」
そう言って軽食とか果物を用意してくれて、ほらほら早く食べてと勧めてくる。
ルナ様は、もらったんだ~って言いながらチョコ菓子を食べている。
勧められるまま、食べ終わると、結構遅い時間になっている事に気がついた。
そろそろ部屋に戻ろうと、思った時に何にやら、クリーム色の布を押し付けられた。
「何ですか?これ……」
「お父様達にもらったんだよ。これ似合うのスピカかなと思っててさ。あげる。寝衣に使って。
それから……今日は辺境伯子息の僕の我儘に無理矢理付き合わされて泊まりになるんだから。良い?命令だから」
「泊まり?いや、でもアルファルド殿下に」
──怒られないのそれ?
「いいから。運ばれて来た時に汗びっしょりだったからクリーンは、かけてるよ。ベタベタとかしないでしょう?」
なんか楽しそうに貴族の権力を振るっている。
クリーム色の柔らかい寝衣、細かい刺繍が襟と袖口にある。これ結構良い値段なのでは?良いのかな?色はまぁ良しとして、ちょっと可愛い作りで、戸惑う。
「なんか、さ。大きめを買ってきて指先が少ししか出ないようなのが多いし、成長遅いからぶかぶかなんだよね。色もさ青系が好きなのに。
お母様に似ているからって、可愛い物が多くて嫌になるよ。耳付きフードとか、目立って嫌なのに部屋の中なら良いとか、着せ替えて遊ぶ気満々なんだよ、お父様もお兄様も」
可愛いルナ様を愛でたいんだろうな。
そう言うルナ様の寝衣は薄いブルーの膝丈の上衣に下衣は長ズボンだ。これはこれで、可愛いけど。
そう言ったら嫌がるのかな?
ルナ様は……クッションをベッドに何個か置いた。
ソファを借りたら良いのかな?キョロキョロしていると俺の手を引いて、ベッドの上に乗る様に言われる。
俺は、疑問符が浮かんでいた。
「今日は一緒に寝よ。怖い時は1人じゃない方が良いよ」
見た目は、女の子よりだけど、一応男ですよ!去年よりは筋肉が少しついたからルナ様より体格良くなっているけど!
と、突っ込みそうになった。
「男同士なんだから、平気平気」
いや、不味いと思います。BLの世界ですよね?ここ!
これ、アルファルド殿下にバレたら超やばいのでは!
「スピカの本心を聞くまでは、寝かさないから」
なんか、薄っすら頬が赤いけど……?
まさか、あの、ルナ様の食べてたチョコ菓子って。
「さっきのお菓子、お酒っぽいの入ってた?」
「んー?子供が食べても大丈夫だって。果汁を固めたゼリーにチョコがけしてるって。ふは」
残っている一つを口にすると、芳醇な香りとともに甘酸っぱさが広がる。特にアルコールぽくもないけど…数滴香り付けに入ってるのかな?超微々的なのに?これで、酔うなんて、あり得ない。
やばい。ルナ様がめちゃくちゃ弱い体質なのかも。
これは、アルファルド殿下に伝えとかないと駄目なやつだ。
殿下と入れ替わった方が良くないかな?
「アルファルド殿下を呼びましょう。ね、ルナ様」
「嫌」
「ルナ様」
「嫌」
──困った。
「今、1番優先するの、スピカの事だから。アルはいーの」
俺、怒られたくないけど!
「スピカは、誰に、触れて欲しいの?
この部屋で寝かせている時、名前呼んでたよ」
「いやだな~寝言だから。気にする事じゃないから」
名前呼ぶなんて、嘘だよね?
「誤魔化さないで。本心隠すのやめようよ……カストル様の事、呼んでた」
ああ。
「それは、あの時駆けつけてくれたから。そのせいです」
「嘘」
「だからっ」
「もう、嘘つかなくていいから。もう、何でもいいから。言葉にしないと、態度に示さないと、後悔するよ。僕を救ってくれたのは、スピカだよ」
「だって、身分が……」
無理だよ。子爵家も弟のものだ。
俺は、平民と変わらない。
「そう思っているの、多分スピカだけだよ……ね、カストル様」
ルナ様のベッドの上、2人向き合っている。
ルナ様がソファの方に視線を送ると、空間が揺らいだ。
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