【本編完結】イケメンの皆様、主人公はあちらですよ。

Shizukuru

文字の大きさ
70 / 129
第8章 スピカの恋愛事情

4身分

しおりを挟む
寮に戻り、30分後に待ち合わせて、修練をする。

ソレイユ様は、騎士団長の息子で幼い頃から剣技を鍛えている。
身長も殿下達より高く体格も良いから迫力がある。
力が強いだけじゃ無くて、動きも速い。

俺と練習して、利があるようには思えないけど……続ける事が大事だからって付き合ってくれてて、本当にありがたい。
ソレイユ様との打ち合いはまだ無理だから、動きを見せてもらったり、素振りを見てもらったり。
本当に、勉強は未来の宰相候補に剣技は未来の騎士団長候補に教わっているってめちゃくちゃ贅沢な事なんだよね。


それにしても、わざわざ教室まで来たのは何でだろう?カストル様に伝言は頼んだけれど。

おかげで、マークからの告白は保留に出来た。
俺は好きにならないと付き合えないタイプだったから、話した事もないのは……正直悩むんだよね。

でも。今まで自分が相手を好き過ぎて、我慢していたり、ご機嫌を伺ってきたから駄目だったのでは?と思うようになっていて、せっかくのやり直しなら……好かれている相手と付き合ってみるのも良いのかな?

そんな風にも思ってしまう。

ただ、1番の問題は身分かな。

気軽に付き合えるものなのか?別れたら報復とかあったりするのか?子爵家実家に何かあっては困る。

この世界でお友達からってあるのかな?

すっかり集中力を欠いてしまった。振っていた木剣は、簡単に弾き飛ばされてしまった。

やばいって、思った時には反応が遅くて、足を払われて地面に倒されていた。

「余裕なの?」
ソレイユ様に倒されて、木剣を突きつけられている。

「すみません。集中出来てませんでした」

手を差し出されて、掴んだ途端に引き上げられる。

「本物の剣じゃなくても、怪我するよ?本気でやらない理由は何?」

騎士団長の子息として、ずっと真剣に訓練して来た人に教わっているのに……何やっているだろう。

「すみません。生まれて始めて……告白されてしまって。なんで俺かな?ってグルグルしてしまって。ははっ。駄目ですね。今日、剣は無理そうです。ランニングを多めにして戻ります。先に戻って下さい。本当にすみませんでした」

頭を下げて、木剣を木の幹に立てかけた。

もう一度、礼をして走り出す。

どこかで浮かれてしまったんだ。
こんな自分でも、好きになってくれる人がいるのかもって。

考えないようにして、思いっきり走った。




流石に走り過ぎた。5周目を終えた時に、軽く流してからゆっくりと木剣の所へ向かうつもりだった。

その途中で声をかけられる。

「はぁ。はぁ。あ、誰?」息苦しい。

「スピカ君だよね?ちょっと話がしたいんだけど」

誰だろう?見た事ないけど。でも新入生っぽくは無い。先輩なのかな?

「はぁ。ご、ごめんなさい。ちょっと息が、また今度、でいいですか?」

頭を下げて、背を向ける。

木剣を取りに行ってから、さっさと帰ろうと思って歩き始めた。無理し過ぎたなぁなんて、背後の人の事なんて全く気にしなかったんだ。

急に背中から抱きしめられて口を塞がれる。

「うっ」

何?ちょっと、待って。

「ちょっと付き合ってくれる?」

走り過ぎて、息が上がっていたから抵抗しようにも力が入らない。酸欠状態の所で口を塞がれた為に意識が遠退きそうになる。



やばい、やばいってって思うのに大した抵抗も出来ない。




─怖い。逃られない。連れていかれたら……

───誰か、助けて。



誰か───


濃紺の髪色が浮かぶ。

カ、カストルさ、ま──助けて。
気を失ったら、不味い。

苦しぃ……クラクラし始めた。



その時、引きずられていた地面がぐらついた。

「う、わ。なんだ!」
土が盛り上がり、植物の蔦のような物が出てくる。
バランスを崩した男が、口を塞いでいた手を外した途端に身体が傾いていく。

倒れかけた所を抱きとめられる。

嫌だ、怖い。離して……身じろぐとさらに抱きしめてきた。
「い、やだ。離して」

「落ち着け、俺だ」

この声……カストル様?

涙が溢れてきた。
「カ、カストルさま、助けて」

「ああ、もう大丈夫だ」

大丈夫?本当に?

「ソレイユ!逃すな!」

ソレイユ様も来てくれてたの?俺は、主人公じゃ無いよ。
なんの、役にも立たないけど。

せめて、ルナ様と弟の為に頑張ろって……
告白されて、浮かれたからなのかな?お前なんて──調子に乗るなって事かな?

震えが止まらない。

「大丈夫だ。ルナの所に行こう。それなら、怖く無いだろう?」

ルナ様?

ルナ様の優しい顔が、思い浮かんだ。
「──は、い」
それだけ言うのがやっとだった。

「ルナの所は安全だから心配するな。連れて行くから、落ちないように捕まって」

ただただ、怖くて安心したくてカストル様にしがみ付いた。離されたく無かった。
口が悪かったりするのに、時々……優しい。




今だけ、許して下さい。

──身分が、違い過ぎる事。
十分過ぎるほど分かっているから。









しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...