【本編完結】イケメンの皆様、主人公はあちらですよ。

Shizukuru

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第9章☆アルとルナ

7本当の事

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ディオのカミングアウトで、その場が静かになった。

「で、シリウス様は安心されましたか?それとも、信じられないなら…閨を共に過ごしてみますか?」

さっき、組み敷きたいって…シリウス兄様を?

思わず兄様を見ると──無表情。

「嫌ですね。冗談ですよ。本気にしないで下さい。さ、ルナ様、今日は帰りましょう。アルファルド殿下も寮に戻られますか?少し厳しくし過ぎたようなので、この後は2人でゆっくりされて構いませんよ」

なんか、ちょっと……しっくりこなくて。


「アル、ごめん!先に帰るから、レグルス様達とゆっくりしてて」

思わず、そう言って──

ディオの腕を掴んだ。
「ルナ様?」

「シルフィ様、来て」
そう呼ぶと、空間が揺れて優しい風が頬を撫でる。

「ルナ、どうした?」
いつものイケボが聞こえてくる。

「ダレン兄様のいる王都の邸に連れて行って下さい。ディオと2人だけで」

「分かった」


「じゃ、夜までには寮に戻るから、なんなら皆で食事して来てね!
カストル様、今日はありがとうございました」


『おい!』

カストル様の別邸を後にする。






「精霊様を呼びつけただけではなく、移動に使うとか……信じられない」

ディオが呆れてるけど、聞きたい事はもっとあるから。

「とりあえず、ここは僕の部屋だし、結界もあるし防音もしたし大丈夫です。座って下さい」

ソファに座る前にシルフィ様にお礼を言う。
「ありがとうございます。また、呼んでいい?」
頷き、消えていく。



「あの。さっきのが、普段のディオなの?」

紅茶を用意して、薦めながら話しかける。

一口飲んで、柔らかい表情になったディオが、カップをテーブルに置いた。


「そうだよ。で、他に何が知りたい?今日だけで話そうか?一応講師だから」

気になるから皆のいない所で話したい。そう思って連れてきた。

「うん。さっきの話の全部が、本当とは思えなくて。その」

「──アルとの婚約が嫌かどうかって所?それとも抱く側かどうかが気になる?」

「それもあるけど、男爵と婚約するのって本気だったんですか?アルの為ですか?」


「ああ、それの事?」

「いくら、アルとの婚約が嫌でもそこまで考えるのかが気になって。なんか、そんな歳の離れた人とか想像つかないから。か他に理由があったのかと思って。
すみません。嘘ついてますよね?」

参ったな。精霊の加護とか?どこから話せば……
そんなことを呟いて、僕に向き直す。
「なら、アルファルド殿下には言わないで下さい」

そう言って、覚悟を決めたように話始めた。



伯爵家うちは厳格で、それは息が詰まる家なんだよね。上位貴族のお茶会とかもよく連れて行かれて、息子自慢をしたかったんだと思う。それなりに、だったから。
お茶会より、庭で騎士の訓練があるって、殿下も来ているって聞いて。ちょっとした出来心だった。少しだけ隠れて見るつもりだったんだ。招待されていた侯爵家の庭の奥に1人で行ったんだ。

──運悪く騎士達の訓練の後で、興奮していた1人の騎士に襲われて死にかけた」

死にかけた?
え?どう言うこと?

「いっそ、殺してくれたら良かったんだ」

何も声がかけれなくて、黙ってしまう。

「その後しばらくは、引きこもりになって、散々叱責されたりで疲弊していったんだ。
それでも伯爵家の役割りだとかで家庭教師とかついて、でも大人とか体格のいい奴が近くに来ると駄目だった。
歳の離れた兄は学園だったから、助けてもらえない。
そんな、不安定な俺の所に何故かアルファルドが家に来るようになったんだ。歳も近いし、親も都合が良かったんだろ、第2王子と学友になるし後継人の様に振る舞える。
俺も部屋に子供が居てくれる事で気が紛れた。馴れ馴れしく接触するタイプじゃなかったから、一緒に居ても楽だったよ」

ニコッと笑って、少し懐かしそうにしている。


「アルファルドには、悪いけど自分より苦労している奴が頑張ってるなら、俺も頑張ろうって思えたんだ。最低だろ?
だが、話が変な方向に進み出した。婚約しろとか、意味分からなくて。
だいだい、その頃にはアルファルドは鏡の中の誰かさんと仲良くしてたしね。
知識を得る事に貪欲で、誰かの為に頑張ってたんだろう。俺は、監視役とか言われてたけど、鏡みて、ニヤニヤしているって言ったらそんなの報告するなって」


そこの報告が、大事だったと思うよな?なんて、僕を見る目は優しい。
また、一口紅茶を含む。
今度は少し嫌そうな顔をした。


「あんな目に遭っても、見た目が軽症だったからか、父上は気にして無くてね。ま、軽症に見せかけてくれた人のおかげでもあるけど。

閨教育を早々に聞かされて、あの時の事を思い出して吐き続けた。
押さえつけられ感触も忘れられないのに。

好きな子がいる奴と婚約するのも嫌だし、この話が無くなっても伯爵家うちの為に役に立てって煩いだろうから。

──どうせそれしか道がないのなら、早く死んでくれそうな奴なら、数年我慢したらいいだろう?政略結婚で初夜を嫌がる場合は媚薬を使って乗り切るだろう?
数年の我慢で領地が手に入るから、その後は縁を切ってくれって父上に言ったら、流石に強く反対されたよ。一応、息子だったんだなって思った」


「そんな……」

「ま、それで、襲われた時の恐怖で未だに駄目な事も洗いざらい話して、側近って立場で良くなった。
だから、嘘だよ。体格の良いやつを組み敷きたいとか全部。

ルナ様は、神聖な感じがして触れられても気持ち悪く無いんだよ。アルはルナ様の事だけだから大丈夫だし。今日の面子も俺に敵意しかないから、平気。
厄介だろう?大口たたくしか、身を守れない。オーウェン殿下は俺の事情を知っているから、多分俺の居場所を用意したんだろうな。ルナ様の側には、悪意のある者は近づけないってね」

「オーウェン殿下?」

「襲ったのは、殿下の従者の1人だったんだ。助けてくれたのは、殿下だよ。騎士の訓練を見た後、息抜きで別の従者と庭にいたらしくて、俺の悲鳴を聞き付けて助けてくれたんだ。全部、秘密裏に処分してくれたんだ。
たぶん、婚約の話も隠れ蓑的な物だったんだと思う。ルナ様の事知ってたんだ、あの人は。

これが真実。
とりあえず、最後まではされて無いよ。それでも、怖いって……笑うか?」


ぼろぼろ、涙が落ちて、ディオを抱きしめた。
泣きたいのは、ディオだ。

「泣いて良いんだよ。僕も、怖いものがいっぱいあって、それを皆が助けてくれて……僕のせいで亡くなってしまったお母様の事も、責めないんだ。
皆、僕が生きてて良かったって。亡くなったお母様もそう思っているって。
ディオも、生きてて良かったんだよ。ディオが怖いものがあっても、いつかそれを包んでくれる人に出会うから。
怖かったよね。本当に…ごわがっだよ、ね……」

ディオが僕の肩に顔を埋めてて、小さな嗚咽が聞こえてくる。シャツが濡れてきたのも分かる。

泣けなかったんだね。
ずっと、強がってきたんだね。

しばらく、2人で泣き続けた。









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