【完結】うさぎ亭の看板娘♂は、第1王子の運命の人。

Shizukuru

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第4章(終章)

2ライラの覚悟

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嫌だ。嫌だ。嫌だ。
こんなの。間違ってる。母さんから離れようと身を起こすつもりが、体勢を保てない。ぐらついて落ちそうになった所を支えられる。



『──ロイドの所に送る。レンドルも転移陣を張る準備をして待ってる───自由に生きろ』

耳元で、声をかけられて泣きそうになった。俺だけ、ここから逃がすつもり?手を伸ばして必死にジェイの首元にしがみついた。

「ライラ、離して欲しい」
抱きつき回した手に力を込める。腕を掴まれて剥がされそうになっても、必死にしがみついた。

「やだ」

「なら、このまま傷をもう少し治す。完治させるのは、俺には無理だがロイドや君の母親……育ての親ならきっと傷も消してくれるはずだ」

抱き着いたまま胸に注がれる魔力が、優しく俺を包んでいく。コレを俺以外に……注ぐの?指に力が入り思わず爪を立ててしまった。

「つ……」

「あ、ごめんなさい」

でも俺のなのに。
違う、俺のじゃない。

「──帰れって言うなら」
「なら?」
「───番にして」

びくりとジェイの身体が揺れた。

「出来ない。今番にしたら……オメガのライラは」

それは、望んでた言葉だったはずなのに。胸が苦しくて気が狂いそうになる。

「番の出来たオメガは、番を求めヒートの度に狂ってしまう。さらに番のアルファが死んだら……番のオメガはどんどん弱っていくってことだよね?アルファは、オメガを失ってもだけど」

ジェイには影響がない。

ライラとは番にならない」

望んでた言葉だ。
受け入れて──しまえば終わる。




ジェイの体に絡めてた手を緩めた。

「ライラ?」
それに気づいたジェイが、ぴたりとくっついてた身体を離して俺の顔を怪訝そうに覗き込んできた。もう、いいや。更に心は闇に堕ちていく。半魔の番……有り得ない。汚点にしかならない。

今更、番にしてとか。
死んでしまいたい。


「──生まれて来なければ、良かった」

その時、皆がどんな顔をしてたか分からない。兄さんはここにいないけど、聞こえてても構わない。なんなら、別れが言えるだけいいのかも知れない。

「身の程知らずだったね」
ドンッとジェイを押し退けた。傷口に触れてひと撫でして、覚悟を決めた。母さんの姿は見えない。きっと本体に戻ったんだ。

父親の前に進んでいく。水晶のような棺の中にいる人が母親。

「俺にも魔族貴方が混ざってるんだね」

「何が言いたい?」
俺の事なんて、興味が無いくせに。


「さっき言ったよ。って。あはは。身体ごと全部この人にあげるけど、ただし条件がある。王子にも王国民にも手を出さないで欲しい。それからもう子供とか作らないでよ。子供が可哀想だ。終わったら二人でこの世界から消えて。ついでに他の魔族も連れて行ってくれる?」


「な、ライラ何を言ってる?」

振り返る。
なんで?そんなに驚くのかな?だって、身内の事だよ。それに、ジェイはいつか王妃が必要になるのだから。そんなの見たくない。でも生きて欲しいから。

早く消えてしまいたいんだ。悲しくなんてないのに涙が溢れそうになる。いつからこんなに弱くなったんだろう?

「お望みどおり自由に生きるよ。兄さん、王子を返す」
多分聞こえたと思う。

水晶に触れるとそのまま、指が水晶の中へと沈んでいく。手首、腕。それからもう少しで肩という所まで通過すると母さんの指に触れることが出来た。細い指に指を絡めると、ゆっくりと身体が水晶に引き込まれていく。頭が飲み込まれてしまう前に呪文を……

最後の力を振り絞って、王子をレンドルさんたちの所へ飛ばそうとしたんだ。





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