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第2章 出会い
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温かい。
なんだろう?いい匂いがする。
スンスンと匂いを嗅いでみると不思議と落ち着く。思わずスリスリと擦り寄ってみた。
「こら、やめろ。耳が当たるからくすぐったい」
誰?
知らない声が降ってくる。いつも聞いていた声と違う。
いつもって誰のことだっけ?
思い出せない。
でも落ち着く匂いがするこの人の顔がみたい。確かめたいけど、体が重い。まぶたさえも重いので目も閉じたまま温もりの方へと少し体を預けてみた。
心地良い。不思議な感じがする。
そんな風に思っていたら、耳を軽く引っぱられた。
思わず目を開ける。でも痛い訳ではない。触れてきた指は、優しくて暖かいからもっと触って欲しくなる。
それでも、声を出すのも億劫になるくらい動きたくない。
「なんで、さっきはこの猫の耳が消えたのか分からない。今は元に戻ってるとか…飾りじゃないだろうし。自由に隠せるのか?ユラは獣人なのに魔術師だったりするのか?」
モヤがかかったような頭の中で思考はめちゃくちゃだ。聞き慣れない言葉も出てきて、頭の中が余計に混乱してきた。
「─── 獣人?魔術師ってなに?」
思わず、口にだす。
獣人?人?違う……私は何者なんだろう?魔術……聞いたことないけど。特別な力のことかな?
この人は、誰だったっけ?
「ユラお前、本当にどこから来たんだ?ずっと雨なんて降っていない。あの辺も水源はなかったはずだ。なのにずぶ濡れだった理由は分かるか?」
「──濡れてた?」
雨は降ってないんだ。
水?
冷たくて動けなくて、どんどん水面から離れて胸が苦しくなっていった。
誰かがいた。
助けて───さ、ま。
誰?
頭の中は、ぐちゃぐちゃのままだ。
ぼろぼろと涙が溢れては、流れていく。
「どうしょう……」
「あっ、ちょい待て。おい泣くな」
すっぽりと腕の中に抱き寄せられて背中をさすられる。
大きな手が優しく触れてくれるので、なぜか切なくてたまらなくなった。
訳が分からないまま、ただ泣くことしか出来ない。
ただ黙って背中をさすってもらえるのが心地いい。ゆっくりと時間が流れていく気がした。温かい大きな手が気持ちがいい。
このまま。触ってて──
涙が止まった頃、話しかけられた。
「昨日は、熱が高かったんだ」
コツンと額を合わせられる。
間近に顔を寄せられると、その美しい瞳から目が離せない。深い深い青は、黒に近いのだけれどきらきらして見える。
満天の星が見えそうな夜空を思い出す。
この人……綺麗だ。
何でだろう?
月光のような白い色が好きだったと思う。青い宝石みたいな瞳を見ていた気がする。
目の前のこの人とは違うのに、今は、この人を見ていたい。
「どうした?顔が赤いぞ。熱がまた上がって来たのか?」
ふと抱きしめられたままの自分に我に返る。
あれ。ずっと同じベッドで寝てたのかな?一緒に寝てはダメって誰か言わなかったかな?
『婚姻するまでは、共寝はいけません。』婚姻?
分からない。
この人も誰なのか何者か分からない。それなのに同じベッドで横にいる。
「あの。名前……教えて」
「俺は、ガイアだ。フラン辺境伯爵付きの魔術師だ」
「ガイア……さま?へんきょーはく?」
「この国の名前知ってるか?」
「──国の名前?」
「お前、一体どこから来たんだ?誘拐でもされたのか?まあ獣人は奴隷扱いされるから…あまり教育は受けている奴は少いないよな」
「獣人って……」
「ここは、アクアライト王国だよ。この国に限らず大陸にある国は、獣人を奴隷か戦士として扱うことが多いな。耳と尻尾がある奴は皆、獣人ってことになる」
耳と尻尾のない人もいたよね?ガイア様もないんだ。
「耳と尻尾があると問題でもあるのですか?どうして奴隷にさせられるのですか?」
「──姿が違うから、じゃないのか?」
「それだけ?見た目が違うだけで奴隷になんて、ひどい」
「そういう世界にいるとしか言いようがない」
「私は、奴隷だったのかな?でも誰かが、優しくしてくれてたと思うのに……思い出せない。どうしてここにいるのか分からない」
「魔術師でもなく、獣人としての奴隷扱いの記憶もないのなら、どこからか堕ちて来たのかもしれないな」
「堕ちてきた?」
水の中に落とされて……誰かが笑ってた。
恐怖と苦しさが一気に甦えっていく。
体が震え始める。
呼吸が早く浅くなって目の前が暗闇に堕ちていくみたいだ。
怖い。息が出来ない……
「おい。ユラ!落ち着け。息を吐くんだ」
『ユラは私のものだよ』
誰?誰なの?
分からない。
また、唇が重なる。
だめ。キスとかしたら駄目なんだ。穢れたらだめだよって言われたんだ。
思わず、のけぞり顔を背けると苦しさが増した。
「だめ。や、だ」
「真っ青なんだ。じっとしろ。これは治療だから問題ない」
ちりょう?治療なら、怒られない?
みっちりと口が重なる。頭は大きな手で固定されて逃げられない。
口の中を探られているような何かが動いている気がする。思考が停止して、ただガイア様を受け入れる。
苦しさが消え、力が抜けた頃、ガイア様が口を解放してくれた。その時ツゥと銀色の糸が引いた。
羞恥で、目を逸らした時にガイア様が言ったんだ。
「──ユラの猫耳が消えた」と。
なんだろう?いい匂いがする。
スンスンと匂いを嗅いでみると不思議と落ち着く。思わずスリスリと擦り寄ってみた。
「こら、やめろ。耳が当たるからくすぐったい」
誰?
知らない声が降ってくる。いつも聞いていた声と違う。
いつもって誰のことだっけ?
思い出せない。
でも落ち着く匂いがするこの人の顔がみたい。確かめたいけど、体が重い。まぶたさえも重いので目も閉じたまま温もりの方へと少し体を預けてみた。
心地良い。不思議な感じがする。
そんな風に思っていたら、耳を軽く引っぱられた。
思わず目を開ける。でも痛い訳ではない。触れてきた指は、優しくて暖かいからもっと触って欲しくなる。
それでも、声を出すのも億劫になるくらい動きたくない。
「なんで、さっきはこの猫の耳が消えたのか分からない。今は元に戻ってるとか…飾りじゃないだろうし。自由に隠せるのか?ユラは獣人なのに魔術師だったりするのか?」
モヤがかかったような頭の中で思考はめちゃくちゃだ。聞き慣れない言葉も出てきて、頭の中が余計に混乱してきた。
「─── 獣人?魔術師ってなに?」
思わず、口にだす。
獣人?人?違う……私は何者なんだろう?魔術……聞いたことないけど。特別な力のことかな?
この人は、誰だったっけ?
「ユラお前、本当にどこから来たんだ?ずっと雨なんて降っていない。あの辺も水源はなかったはずだ。なのにずぶ濡れだった理由は分かるか?」
「──濡れてた?」
雨は降ってないんだ。
水?
冷たくて動けなくて、どんどん水面から離れて胸が苦しくなっていった。
誰かがいた。
助けて───さ、ま。
誰?
頭の中は、ぐちゃぐちゃのままだ。
ぼろぼろと涙が溢れては、流れていく。
「どうしょう……」
「あっ、ちょい待て。おい泣くな」
すっぽりと腕の中に抱き寄せられて背中をさすられる。
大きな手が優しく触れてくれるので、なぜか切なくてたまらなくなった。
訳が分からないまま、ただ泣くことしか出来ない。
ただ黙って背中をさすってもらえるのが心地いい。ゆっくりと時間が流れていく気がした。温かい大きな手が気持ちがいい。
このまま。触ってて──
涙が止まった頃、話しかけられた。
「昨日は、熱が高かったんだ」
コツンと額を合わせられる。
間近に顔を寄せられると、その美しい瞳から目が離せない。深い深い青は、黒に近いのだけれどきらきらして見える。
満天の星が見えそうな夜空を思い出す。
この人……綺麗だ。
何でだろう?
月光のような白い色が好きだったと思う。青い宝石みたいな瞳を見ていた気がする。
目の前のこの人とは違うのに、今は、この人を見ていたい。
「どうした?顔が赤いぞ。熱がまた上がって来たのか?」
ふと抱きしめられたままの自分に我に返る。
あれ。ずっと同じベッドで寝てたのかな?一緒に寝てはダメって誰か言わなかったかな?
『婚姻するまでは、共寝はいけません。』婚姻?
分からない。
この人も誰なのか何者か分からない。それなのに同じベッドで横にいる。
「あの。名前……教えて」
「俺は、ガイアだ。フラン辺境伯爵付きの魔術師だ」
「ガイア……さま?へんきょーはく?」
「この国の名前知ってるか?」
「──国の名前?」
「お前、一体どこから来たんだ?誘拐でもされたのか?まあ獣人は奴隷扱いされるから…あまり教育は受けている奴は少いないよな」
「獣人って……」
「ここは、アクアライト王国だよ。この国に限らず大陸にある国は、獣人を奴隷か戦士として扱うことが多いな。耳と尻尾がある奴は皆、獣人ってことになる」
耳と尻尾のない人もいたよね?ガイア様もないんだ。
「耳と尻尾があると問題でもあるのですか?どうして奴隷にさせられるのですか?」
「──姿が違うから、じゃないのか?」
「それだけ?見た目が違うだけで奴隷になんて、ひどい」
「そういう世界にいるとしか言いようがない」
「私は、奴隷だったのかな?でも誰かが、優しくしてくれてたと思うのに……思い出せない。どうしてここにいるのか分からない」
「魔術師でもなく、獣人としての奴隷扱いの記憶もないのなら、どこからか堕ちて来たのかもしれないな」
「堕ちてきた?」
水の中に落とされて……誰かが笑ってた。
恐怖と苦しさが一気に甦えっていく。
体が震え始める。
呼吸が早く浅くなって目の前が暗闇に堕ちていくみたいだ。
怖い。息が出来ない……
「おい。ユラ!落ち着け。息を吐くんだ」
『ユラは私のものだよ』
誰?誰なの?
分からない。
また、唇が重なる。
だめ。キスとかしたら駄目なんだ。穢れたらだめだよって言われたんだ。
思わず、のけぞり顔を背けると苦しさが増した。
「だめ。や、だ」
「真っ青なんだ。じっとしろ。これは治療だから問題ない」
ちりょう?治療なら、怒られない?
みっちりと口が重なる。頭は大きな手で固定されて逃げられない。
口の中を探られているような何かが動いている気がする。思考が停止して、ただガイア様を受け入れる。
苦しさが消え、力が抜けた頃、ガイア様が口を解放してくれた。その時ツゥと銀色の糸が引いた。
羞恥で、目を逸らした時にガイア様が言ったんだ。
「──ユラの猫耳が消えた」と。
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