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騎士団長マリウスは頭が痛い
しおりを挟む「頭が痛い……」
ズキズキする頭を押さえながら俺は水を飲む。
昨日飲み過ぎたせいで地獄の二日酔いだ。誰だ二軒目になんて行こうと提案したのは………俺だな。
「団長、しっかり仕事してくださいよ」
「やってんだろ?」
「いつもの半分も進んでいませんよ」
部下であり、俺の補佐をしている副団長が眼鏡を光らせながら小言を言ってくる。
いい加減な俺と真面目な委員長気質の副団長のおかげで騎士団は上手い事回っているが、部下から説教されるのは嫌だな。
「そういえば新入りはどうした?」
騎士団の詰所で団員達が書類の整理や警備巡路について話している中に飲みに付き合わせた新入りの姿が見えない。
「彼なら午後休で帰らせました」
「そうかそれなら……はぁ!?なんで!?」
「二日酔いで仕事になっていなかったので。体調管理も騎士の立派な役目だというのに」
「俺は!?この書類の山をなんとか頑張って処理している俺は帰れないのか?」
「元は団長が無理矢理連れ回したからなんですよ。これに懲りたら部下を遅くまで連れ回さないでください」
この二日酔いのまま今日一日仕事をするのが罰らしい。
まぁ、雑用係の新人の代わりはいても騎士団長である俺の代わりはいないから仕方ないか。
だとしても羨ましい限りだ。俺も早く仕事終わらせて寝たい。
昨日は夢見が最悪だったからなぁ……昔のあれやこれを思い出してしまった。
これも全部あの女のせいだ。
「団長、そろそろ会議の時間です。あとは引き継ぎますから」
「そうだな。じゃあ、後は頼んだ」
他のお偉いさん達と一緒に国の今後について話し合いをしないといけないので、俺は着崩していた制服を整えて剣を腰に差す。
やれやれ、堅苦しいのはガキの頃から嫌いだった面倒くさがりの俺がどうしてこんな役職に就いちまったのかさっぱり分からないな。
「なぁ、引き継ぎ出来るなら午前中は俺休みでよくなかったか?」
「遅刻しますよ団長?」
俺の背中を追い出すように押す副団長。
まさかコイツ、自分が楽しようとしてたんじゃねーだろうな?
「テメェ、後で覚えておけよ!」
部下にいいように扱われた後の会議。
財務卿やらも含めて話し合ったのは今後の国営やブリテニアの賠償金の請求やらについて。
正直、金の話になると眠たくなるんだが、居眠りしている間に騎士団の予算が減らされたりしたら困る。
国王相手に護衛なんていらないから予算減らすね?なんてされた日にはおしまいだ。
騎士団の予算には国王の暇潰しにへし折られた剣や破壊された鎧の修繕費が含まれているんだ。それが自腹にでもなったらゾッとするぜ。
そもそもなんであの暴君は自分の城をぶっ壊してんだ?職人達は仕事に困らないだろうが、意味わからん。
「体調悪そうだね騎士団長殿」
「その呼び方はよせよディル」
会議が終わった後も場に残る俺に近づいて来たのは新婚の将軍様。
幸せいっぱいって感じで血色良いのが腹立つ。
元はといえばこいつが独身同盟を裏切ったせいでムシャクシャして飲みに行ったんだ。全部こいつが悪い。
「昨日、マスターの店で飲んでてな。そこでアンジェリカに会ったんだよ」
「彼女、元気にしていたかい?」
「ピンピンしてたぜ。相変わらず嫌味ったらしい奴だったよ」
年をとってババァになったにも関わらずに未だに美しき女剣士なんて呼ばれていやがる。
トップリーグに在籍しているだけあってファンも多い。騎士団の中には俺にアンジェリカのサインを頼んで来た馬鹿もいた。
「アンジェリカか。今度こそ手合わせしてくれるように頼んでみるか」
「おやおや。まだ残ってらしたんですか殿下?」
ディルとの会話に入って来たのはジーク・ガルベルト王子だった。
「将軍に稽古をつけてもらおうと思ってだな」
「勘弁してくださいよ。家で愛しのトトリカが夕食を作って待っているんですから」
「殿下、その裏切り者をやっちゃってください」
何が愛しの妻だ。けっ。
結婚する前は人がいない自宅に帰るのが寂しいから夜の王都で遊ぼうとか誘って来やがったのに、結婚したら言い訳ばっかだ。
リア充には鉄拳制裁だっつーの!
「それならば仕方ないな。妻は大事にしろよ将軍」
「引き下がらないでよ殿下!そこは引き留めましょうよ」
しかしたがなぁ……と言い淀む殿下。
本当にどうしてあの親父からこんなよく出来た息子が生まれるんだ。母親の血か?
俺とディルにとって殿下は守るべき王族であり、ガキの頃から見てきたので甥っ子みたいに接してしまう。
我が子を崖どころか奈落に突き落とそうとした国王に代わって剣を教えたのも俺だ。
騎士団員の中に紛れて木剣で素振りしていた頃が懐かしいぜ。
「妻がいるというのは素晴らしいです。王子もいつか分かる日が来ますよ」
「だといいんだかなぁ……」
遠い目をする殿下。
経緯を知っている俺やディルからすれば難儀な性格だと思うぜ。
まぁ、自分から求婚したいというのは男らしいと思うけど相手がシャイナ嬢ちゃんだからなぁ。駆け引きはあっちが上手そうだし。
「それに早く結婚しないとこのマリウスのようになりますよ」
「おい。それはどういう意味だよ」
俺を憐憫の目で見る殿下。
確かに俺は行き遅れの独身だけどそれは相手が見つからねぇだけだ。
騎士団長なんて役職をしていたら言い寄る女は結構多いんだからな!
「シャイナに勝つにはレッドクリムゾン流をもっと知らなくてはな」
「それでアンジェリカの出番か。まだ戦った事無いんでしたっけ?」
「あぁ。何度も頼みに行くのだが断られてしまうのだ。シャイナの敵になるつもりはありませんと言ってな」
王族相手によく断れたなぁ。
俺らが殿下に甘いようにアンジェリカもシャイナ嬢ちゃんには甘い。
それに一子相伝の技を教えた愛弟子だからな。
「焦らなくても王子は十分に強いですよ」
「そうですぜ殿下。この前だって惜しいところまで行きましたって」
「その言葉、去年も聞いたぞ」
殿下から指摘されて固まる大人二人。
そういえばそんな事を言ったような気がする。
とはいえ、嘘は言っていない。殿下の強さは騎士団の連中より高いし、闘技場のトップリーグにだって余裕で参加出来るだろう。
ディルも殿下相手だと気を抜く事なく本気になる。
それなのにシャイナ嬢ちゃんに勝てないのは運が無いのか爪が甘いのか。
両方かもしれないな。
「まぁいい。次こそは勝つ。そのためにもっと鍛練して強くならなくてはな。マリウスは暇だろうから付き合えるよな?」
俺だと普通に負けるっつーの。
お互いが同じ流派を使うから癖まで見抜かれているし、次の動きが読める。
それに加えて殿下は勉強熱心でディルの技を盗んだり他の流派の技も研究していて、戦いにかける情熱が桁違いだ。
まるで若い頃にがむしゃらだった俺らみたいに。
「そうしてやりたいのは山々なんですが、ちょっと仕事がありましてな」
「父上なら今日は大人しくしているぞ?」
それは二日前に癇癪起こして大暴れしてスッキリしたからですよとは言えない。
「違いますよ。騎士団長として調べないといけない事件がありましてね」
「事件だと?」
「私も気になるな。さっきの会議では話していなかったよね」
俺は目の前の二人以外に人がいない事を確認して口を開いた。
「実はこのところ王都近郊で死人が増えててな」
「そんなにかい?私の所にはそれらしい噂は流れて来ていないけど」
「俺も聞かんぞ」
「死人の数はそんな多く無いんだよ。気になるのは死んだ連中の経歴だ」
服の内ポケットからメモを取り出す。
そこには今朝団員達が提出した聞き込みで調べた死人の情報だった。
「年齢は中高年が多いね」
「性別は男が殆どだな。しかしこれだけでは……」
「それだけなら俺も気にしなかったんだがな」
一般人から貴族まで。
共通しているのはただ一つ。
「そいつら全員、戦争に参加してた元兵士だ」
「「っ!?」」
慌ててメモを読み直す殿下とディル。
負傷して前線を離れた奴や指揮官をしていた貴族。
俺やディルの知っている名前もいくつかある。
「それも、そいつら全員が勲章を貰っているんだよ」
戦争で功績を残した連中ばかりだった。
マリウスが騎士団長の座に収まっているのも、戦争で国王と共に終戦に貢献して勲章を授与されたからだ。
「さっきの会議に参加していた連中にも勲章持ちは多いからな。まだ確証が持てない段階で不安を煽りたく無かったんだ」
「これを私や王子に話した理由は?」
「犯人の狙いが戦争の関係者なら一番恨みを買ってそうなのが俺らだからだよ」
まだ調べきれていない。
あくまで推測の域を出ていないのだ。
「ディルは嫁にも気をつけとけ。この前の事もある。殿下はあまり一人にならないように頼みますよ」
「トトリカは私が守る」
「道場破りや闘技場の観戦は控えておくか」
この二人なら心配はいらないだろう。
となると、俺の頭に浮かんでくるのは他に狙われそうな奴の顔だ。
例えば、名前や顔と一緒にどこで目撃証言が多いから出回っている有名人とか。
「嫌な奴の顔でも拝みに行くか」
昨日は酔っていたし、まだ事件の詳しい情報が入っていなかった。
でも今日は違う。アイツも被害者になる可能性があるのだ。
しょーがねぇから昔馴染みとして忠告しておいてやろう。
そうじゃないと今夜の夢見も悪くなりそうな気がするな。
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