史上最恐の悪役令嬢には婚約破棄したい王子ですら敵わない!!そんな国の話。

天笠すいとん

文字の大きさ
17 / 35

王都殺人事件 前編

しおりを挟む
 
「何やってんのかねアタシは……」

 地平線に沈む太陽をのんびり眺めながら肘をついてため息を溢す。

 これまで家にマリウスが来た事は何度かあった。
 それはアタシを実家へ連れ戻そうとしたり、ディルの結婚式が執り行われる事を伝えに来たりだった。
 今日も王都で起きている殺しについてアタシの身を心配して教えに来てくれたのは理解した。

 他の闘剣に関係している連中や姪のシャイナ相手なら寝間着だったりダラしない格好でも良かったけど、なんとなくマリウスに笑われるのが嫌だったので慌てて着替えた。
 途中にハプニングもあったが、自分の中での一丁羅を着てもてなしたつもりだった。

 公国の話や殺された連中の話をしていると、若いあの頃の自分が戻ってきたような気がした。

 アタシが強い事を証明してやる。

 犯人は許せないが、それよりもあの時の挽回をする好機が巡って来たと思った。
 騎士団と協力すれば犯人の特定も早いだろうし、戦いになれば自慢の剣がある。
 この王都には自分を慕ってくれる人間が多くいる。彼らを守りたいという気持ちに嘘はない。

 だけど、マリウスの口から出たのはあの時と同じだった。
 これ以上関わるな。じっとしていろ。
 また仲間外れだった。

 自分の感情を抑えきれずに気づいたら手が出て殴り飛ばしていた。

 あぁ、やってしまったと思ったが後には引けない。
 アタシはマリウスを怒鳴り散らして追い出した。
 一度もこちらを見る事を無くアイツが部屋から出て行った後はそのまま床に座り込んだ。

 仲直りなんてもう一生無理かもしれないね。

 その後はずっとウジウジしているのが嫌になって部屋を出た。
 明日は試合の予定が入っていたが、そんな気分にもなれなくて書き置きを残した。

「2、3日バックれるかねぇ……」

 手持ちのお金ならばそんなもの簡単だろう。
 闘剣士のトップリーグ選手ともなればファイトマネーはかなりの物になる。
 例え引退しても老後まで暮らせるだけの貯金はある。
 住んでいる場所の家賃はタダだし、闘剣以外に興味が無かったので同じリーグの選手よりも貯めている方だ。

 闘技場の運営からは物凄く怒られるだろうが、第三位の選手も似たような事をしているが、除籍処分にはなっていない。
 チケットの賠償金も何試合かすれば稼げるから本当に休んでみるのもアリだ。

「アンジェリカさーん!そろそろ時間っすよ」
「わかったよ」

 王都をぐるりと囲む城壁の上で悩んでいたが、見回りをしている衛兵に呼ばれてしまった。
 この場所は朝から夕方までの時間は一般開放されて見学が出来る。
 平日の真ん中というのもあって人が少なく、考え事をするのにはピッタリだったがそれも終わり。
 考えがまとまる前に降りるように言われてしまった。

「明日の試合見に行きます!絶対勝ってくださいね」
「あー……応援ありがとうさん」

 ファンだと名乗った衛兵に曖昧な返事をしてその場を去る。
 道行く先々で王都の人達からエールを送られる。
 それが今は堪らなく辛かった。

 アタシはコイツらの期待を裏切るのかぁ……。

 トップリーグ選手の試合ともなればチケットは高額であり希少だ。
 給料を闘剣の観戦に注ぎ込む者もいれば、一生に一度でも生の試合をと田舎から遥々くる者もいる。
 アタシにとっての一試合が人生で一回きりのヤツもいるか……。

 上手く思考が出来ない。
 何もかもを投げ出していっそ王都から逃げて……行く先はどこだ?
 公爵家を出て、闘技場を出て、それで自分には何が残る?

「あ、剣……」

 縋るように腰に帯剣していた刺突剣に手を伸ばして気づいた。
 アタシは魂の現し身とも呼べる剣を持っていなかった。
 片時も離さず、いつも身近な場所にあった自分の象徴を家に置いて来てしまった。

「何やってんのかねアタシは」

 剣の事すら忘れるくらいにショックを受けるなんてまだまだ子供だ。
 偉そうにシャイナに男を墜とす方法だの、剣士としての心得だのを言っていた自分が恥ずかしくなる。

 気づいてしまったら違和感が止まらなくなり、一旦自宅に戻って剣を取りに行こうと決意した。
 その後は酒場でヤケ酒でも飲んで今後について考えよう。

 そう思って自宅への近道をしようと路地裏に入った。
 ガルベルトの王都はとても栄えているが、光の裏には影がある。
 賑やかな場所もあれば人通りの少ない場所もあり、この路地裏は浮浪者や柄の悪い連中がコソコソと集まっている。

 

 闘技場のトップリーグ選手の知名度は伊達じゃない。
 例え不良達が束になっても勝てない実力があるのは周知の事実だ。
 田舎から名を上げに来た新参者が闘技場の選手に喧嘩を売って返り討ちにされるのはよくある事だ。

 だけどアタシは妙な違和感を感じた。
 路地裏に人がいない。
 この時間なら寝床を探す浮浪者がボロ布をまとって地面に寝転んでいてもおかしくない。
 なのに誰もいない。

「……チッ。よりにもよってかい」

 その場から引き返して元の大通りに戻ろうとした直後、シュッ!っという音がした。
 咄嗟に右に避けると、地面にナイフが刺さった。

「隠れてないで出てきな」

 路地裏を陰から数人出てくる。
 黒いローブを被っていて顔を仮面で隠してはいるが、只者では無い。
 さっきの投げナイフといい、マリウスから聞いた情報といい、間違いない。

「アンタらが犯人ってわけさね」

 腰を低くし、いつでも動けるように構える。
 武器を持たないが、別に無手で戦えないわけではない。
 護身術の類いも習得はしているし、闘技場で武器を落とすなんて日常茶飯事だ。

(ただ、プロの刺客相手は初めてさね)

 冷や汗が出る。
 刺客達はゆっくりと散会してアタシを取り囲むように動く。
 どこか一点に突撃して包囲網を抜ける?
 いや、それだと背後からナイフを投げられて詰む。
 それにこいつらを野放しにすれば次の被害者が生まれかねない。

「いいさ、かかってきな」

 何かしら相手から武器を奪おう。
 それさえあれば戦える。

「………やれ」

 刺客の一人が声を出すと、全員が一斉に襲い掛かった。
 鉤爪や短剣、鎖鎌を取り出して迫り来る敵。

 最初の一撃、短剣持ちの相手の懐に潜り込んで胸に掌底を打ち込む。
 そのまま怯んだ刺客を盾にするように鉤爪を持った敵に突き出す。

「がっ!?」

 同士討ちの形になり、短剣を持った刺客が地面に倒れる。
 そのまま地面に落ちた短剣を拾おうと手を伸ばすが、鉤爪の方がリーチが長くて弾き飛ばされてしまう。

「そう簡単には行かないみたいだね……」

 まだ刺客は四人いる。
 倒れている一人も起きがった。
 傷は浅かったようでしっかりと立っている。

 状況は最悪だ。
 さっきのは上手く不意をついたが、次は同じようにはいかない。
 刺客も素人ではない。仲間が倒れたとしても止まらずにこちらを殺しに来る。

 公国の暗部、そのやり方はアタシもよく知っている。
 仲間同士で殺し合いをする蠱毒で生み出された暗殺者。
 どんな非道で外道な方法にも手を染め、例え自分の命と引き換えにでも任務を達成する。

 戦場で戦った相手がそうだった。
 そのリーダーと思わしき相手にアタシは勝てない事を悟ったし、ディルがそいつと引き分けなかったら全滅もあった。

 あの時と今では状況がまるで違う。

 頼れる仲間もいない。
 自分が積み上げてきた剣術を振るう武器がない。

 丸腰で、絶体絶命というのはまさに現状を指す。

「アタシの首はそう簡単にやらないさね」

 敵を一人でも多く道連れにすれば次の犠牲者が出ないかもしれない。
 時間が稼げるかもしれない。
 アタシが死んだとなれば闘技場や騎士団が総出で動く。
 そうなればもう王都内で動く事は出来なくなる。

 あの馬鹿と仲直り出来なかったのは心残りだったが、後であの世で話す時間は沢山あるだろう。

「闘技場第六位。女剣士アンジェリカ。参る!」

 赤い髪を振り乱して、最後の戦いが始まる。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ

夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」 華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!

悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜

水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。 そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。 母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。 家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。 そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。 淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。 そんな不遇な少女に転生した。 レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。 目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。 前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。 上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎ 更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎

完結·婚約破棄された氷の令嬢は、嫁がされた枯れおじのもとで花開く

恋愛
ティリアは辺境にある伯爵の娘であり、第三王子ガフタの婚約者であった。 だが、この婚約が気に入らないガフタは学園生活でティリアを冷遇し、卒業パーティーで婚約破棄をする。 しかも、このまま実家に帰ろうとするティリアにガフタは一回り以上年上の冴えないおっさん男爵のところへ嫁ぐように命令する。 こうしてティリアは男爵の屋敷へと向かうのだが、そこにいたのは…… ※完結まで毎日投稿します ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿中

【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。 同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。 さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、 婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった…… とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。 それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、 婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく…… ※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』 に出てくる主人公の友人の話です。 そちらを読んでいなくても問題ありません。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

処理中です...