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第10章 ここが私たちのステージ
(1) 取材開始!
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竿灯期間のあわただしいスケジュールが終わった最初の土曜日。空調の涼しい風が吹くオフィスで、本来であればトレーニングに出ているはずのフローラの3人が私服姿で応接エリアのソファの周りに集まっていた。
その3人の前には、青を基調にしたユニバーシティー・リーダーコスチュームを着用した若い女性が二人。一人が業務用の少しお高そうなHDカメラを回し、もう一人がそれに接続された小さなマイクを3人に向けていた。
ソファに座るさくらを挟んで美咲が左に、いずみが右に立っていた。
いずみがマイクとカメラに向かってあざとい笑顔を見せた口を開いた。
「今日は本当なら私たちはトレーニングの日なんですが、なんと! 今回は私たちが撮影に同行して、私たちと同じステージに上がるエンターテイメントの仲間たちをキャストや将来のキャストのみんなに紹介しちゃいますよ!」
さくらもにっこりとほほ笑んで話しかけた。
「普段の私たち『エンターテイメント・キャスト』がどんな感じなのか、どのようなメンバーがいるのかを見ていただけるとうれしいです」
美咲が満面の笑みを浮かべて、カメラに向けてVサインを向けた。
「それでは、エンターテイメント・キャスト密着24時、こうご期待!」
さくらたちが笑顔を浮かべると、10秒ほどしてからカメラを回していた田所がRECボタンを押して撮影を止めた。
「はい、OKです! 美咲さん、タイトル違いますよ?」
そうはいいつつ、田所はずいぶん楽しそうだった。
いずみがそのことに気が付いて、田所にあまり外では見せない柔らかい笑顔で尋ねた。
「田所さん、いっしょにお仕事するの久しぶりですね」
「そうですね! 私たちはどうしてもバックステージでの仕事が多いですから。でも、今日ご一緒で来てうれしいです。佐藤さん、フローラの皆さんとは仕事では初めてですよね?」
「は、はい! ユニバーシティーでご一緒して以来なので……。あ、写真の撮影とかでは何度かお会いしてますけど……」
佐藤さんはなんだか、緊張してるのかちょっとあわあわしていた。
人事・ユニバーシティ課は本来オフィスワークしかしない部署だったわけで、半年近くたったとはいえ、佐藤さんはまだちょっと慣れていないようだった。
その佐藤さんの表情を見て微笑んだ田所さんは、ソファーに座るさくらに少し心配そうに話しかけた。
「足は大丈夫ですか? 立ってるのつらいようでしたら……」
さくらは、え? と反応して、すぐに発言の意味を理解して両手を小さく振って心配を否定した。
「いえ、走ったり、踊ったりできないだけ、です。そんなに、重症、じゃないですから。大丈夫、です!」
佐藤さんは、さくらの事情を知らないようで田所さんに尋ねた。
「さくらさん、脚になにか……?」
美咲がいずみと顔を見合わせ、少し表情を緩めて答えた。
「いや、さくら、ちょっと足が腫れちゃってて……」
「え? 腫れてるんですか? 大丈夫なんですか?」
「それはですね……」
――― 前日の金曜日の午後
OFF日だったフローラの3人は、竿灯が終わって人通りも落ち着いた駅前で合流していた。さくらと美咲は学校の夏期講習の説明会を受け、いずみは以前いたダンススクールの子たちが東京の大会に行くというのでその見送りにそれぞれ駅前に来ていた。
合流場所だった"買い物広場"バス停の前の広場で、3人は合流した。
さくらと美咲がやってきたとき、いずみはデパートの地下階入り口の壁に貼られたポスターを読んでいた。デパートの前にある広場で行われるお盆のイベントのポスターで「ココとミミがやってくる!」と書かれていた。一応、いずみもアーニメントの従業員であるからか、多少興味があって読んでいたらしい。
美咲がそのポスターに気が付いてさくらと並んで、いずみに声をかけた。
「へー、こんなことやるんだ」
「お盆、だから、かな?」
いずみが2人に気が付いた。それで、ポスターの事は意識の外に移動したらしい。
左にいたさくらに顔を向けた。
「なんだ、思ったより早かったね? 今日はもういいの?」
「うん。今日は、説明だけ、だから」
「そっか」
美咲はまだポスターを読んでいた。
「パークの外でもこんなことやるんだね」
シャツとホットパンツという脚線美を強調するコーデのいずみは、不意に吹き込んできたビル風に大きめのベレー帽を飛ばされそうになり、あわてて右手でそれを抑えた。
「おっと…… まあ、それは私たちには関係ないでしょ。東京のテーマパークとかのキャラも同じような事はしているし」
「そっか……」
そこまでいうと、急に美咲のお腹が鳴った。最近なんだかハラペコキャラ化し始めた美咲は、もはや腹の音を聞かれても恥ずかしがらなくなった。
「お腹すいた~」
「はいはい、じゃあ、お昼いこうか」
「私、うどんが食べたい。さくらは~?」
「私は、特に希望は……」
そういって3人が駅に向けて歩こうとした時、さくらが「イタっ」と小さく声を出して立ち止まった。いずみが心配して声をかけた。
「大丈夫? 捻挫かなんか?」
「ううん……なんか、急に、違和感が?」
美咲も心配して声をかけた。
「歩くの大丈夫?」
「うん、大丈夫、だよ? そんなに、心配いらない、よ?」
さくらが微笑んだので、美咲といずみは納得したのか、また歩き出した。
――― ということがあったと、田所と佐藤に美咲は説明した。
「なんか、家に帰ってさくらのお母さんに診てもらったら……ほーそー……なんだっけ?」
「蜂窩織炎《ほうかしきえん》、だよ?」
「そうそれ、だって」
佐藤はそれを聞いて逆に心配したようだった。
だが、さくらが微笑み返して説明した。
「大丈夫、です。あの、お薬もらって、お母さんに処置してもらったら、腫れも引いた、ので。歩くとか立つとかなら、別に、問題ない、です」
そのやり取りをしている間に、久保田を連れたSVがオフィスに戻ってきた。
母親から医師として「ダンスはダメ」と言われたので、SVがダンスレッスンを中止してこの話を急遽手配したのだった。
「休んでもよかったのよ? スケジュールも落ち着いたんだし」
「いえ、休むほどの、ことじゃ、ないですし……それに、他のみんながどんな仕事してるのか、見てみたい、です」
「そう……。よし、それじゃあ、3人とも、撮影を楽しんでおいで。田所さん、佐藤さん、フローラをよろしくお願いします」
田所さんは、SVの言葉ににっこり微笑んで答えた。
「はい、お任せください! それじゃあ、最初はエンターテイメント部のキャストを取材に行きましょう!」
3人は、はーい! と元気に返事を返した。
その3人の前には、青を基調にしたユニバーシティー・リーダーコスチュームを着用した若い女性が二人。一人が業務用の少しお高そうなHDカメラを回し、もう一人がそれに接続された小さなマイクを3人に向けていた。
ソファに座るさくらを挟んで美咲が左に、いずみが右に立っていた。
いずみがマイクとカメラに向かってあざとい笑顔を見せた口を開いた。
「今日は本当なら私たちはトレーニングの日なんですが、なんと! 今回は私たちが撮影に同行して、私たちと同じステージに上がるエンターテイメントの仲間たちをキャストや将来のキャストのみんなに紹介しちゃいますよ!」
さくらもにっこりとほほ笑んで話しかけた。
「普段の私たち『エンターテイメント・キャスト』がどんな感じなのか、どのようなメンバーがいるのかを見ていただけるとうれしいです」
美咲が満面の笑みを浮かべて、カメラに向けてVサインを向けた。
「それでは、エンターテイメント・キャスト密着24時、こうご期待!」
さくらたちが笑顔を浮かべると、10秒ほどしてからカメラを回していた田所がRECボタンを押して撮影を止めた。
「はい、OKです! 美咲さん、タイトル違いますよ?」
そうはいいつつ、田所はずいぶん楽しそうだった。
いずみがそのことに気が付いて、田所にあまり外では見せない柔らかい笑顔で尋ねた。
「田所さん、いっしょにお仕事するの久しぶりですね」
「そうですね! 私たちはどうしてもバックステージでの仕事が多いですから。でも、今日ご一緒で来てうれしいです。佐藤さん、フローラの皆さんとは仕事では初めてですよね?」
「は、はい! ユニバーシティーでご一緒して以来なので……。あ、写真の撮影とかでは何度かお会いしてますけど……」
佐藤さんはなんだか、緊張してるのかちょっとあわあわしていた。
人事・ユニバーシティ課は本来オフィスワークしかしない部署だったわけで、半年近くたったとはいえ、佐藤さんはまだちょっと慣れていないようだった。
その佐藤さんの表情を見て微笑んだ田所さんは、ソファーに座るさくらに少し心配そうに話しかけた。
「足は大丈夫ですか? 立ってるのつらいようでしたら……」
さくらは、え? と反応して、すぐに発言の意味を理解して両手を小さく振って心配を否定した。
「いえ、走ったり、踊ったりできないだけ、です。そんなに、重症、じゃないですから。大丈夫、です!」
佐藤さんは、さくらの事情を知らないようで田所さんに尋ねた。
「さくらさん、脚になにか……?」
美咲がいずみと顔を見合わせ、少し表情を緩めて答えた。
「いや、さくら、ちょっと足が腫れちゃってて……」
「え? 腫れてるんですか? 大丈夫なんですか?」
「それはですね……」
――― 前日の金曜日の午後
OFF日だったフローラの3人は、竿灯が終わって人通りも落ち着いた駅前で合流していた。さくらと美咲は学校の夏期講習の説明会を受け、いずみは以前いたダンススクールの子たちが東京の大会に行くというのでその見送りにそれぞれ駅前に来ていた。
合流場所だった"買い物広場"バス停の前の広場で、3人は合流した。
さくらと美咲がやってきたとき、いずみはデパートの地下階入り口の壁に貼られたポスターを読んでいた。デパートの前にある広場で行われるお盆のイベントのポスターで「ココとミミがやってくる!」と書かれていた。一応、いずみもアーニメントの従業員であるからか、多少興味があって読んでいたらしい。
美咲がそのポスターに気が付いてさくらと並んで、いずみに声をかけた。
「へー、こんなことやるんだ」
「お盆、だから、かな?」
いずみが2人に気が付いた。それで、ポスターの事は意識の外に移動したらしい。
左にいたさくらに顔を向けた。
「なんだ、思ったより早かったね? 今日はもういいの?」
「うん。今日は、説明だけ、だから」
「そっか」
美咲はまだポスターを読んでいた。
「パークの外でもこんなことやるんだね」
シャツとホットパンツという脚線美を強調するコーデのいずみは、不意に吹き込んできたビル風に大きめのベレー帽を飛ばされそうになり、あわてて右手でそれを抑えた。
「おっと…… まあ、それは私たちには関係ないでしょ。東京のテーマパークとかのキャラも同じような事はしているし」
「そっか……」
そこまでいうと、急に美咲のお腹が鳴った。最近なんだかハラペコキャラ化し始めた美咲は、もはや腹の音を聞かれても恥ずかしがらなくなった。
「お腹すいた~」
「はいはい、じゃあ、お昼いこうか」
「私、うどんが食べたい。さくらは~?」
「私は、特に希望は……」
そういって3人が駅に向けて歩こうとした時、さくらが「イタっ」と小さく声を出して立ち止まった。いずみが心配して声をかけた。
「大丈夫? 捻挫かなんか?」
「ううん……なんか、急に、違和感が?」
美咲も心配して声をかけた。
「歩くの大丈夫?」
「うん、大丈夫、だよ? そんなに、心配いらない、よ?」
さくらが微笑んだので、美咲といずみは納得したのか、また歩き出した。
――― ということがあったと、田所と佐藤に美咲は説明した。
「なんか、家に帰ってさくらのお母さんに診てもらったら……ほーそー……なんだっけ?」
「蜂窩織炎《ほうかしきえん》、だよ?」
「そうそれ、だって」
佐藤はそれを聞いて逆に心配したようだった。
だが、さくらが微笑み返して説明した。
「大丈夫、です。あの、お薬もらって、お母さんに処置してもらったら、腫れも引いた、ので。歩くとか立つとかなら、別に、問題ない、です」
そのやり取りをしている間に、久保田を連れたSVがオフィスに戻ってきた。
母親から医師として「ダンスはダメ」と言われたので、SVがダンスレッスンを中止してこの話を急遽手配したのだった。
「休んでもよかったのよ? スケジュールも落ち着いたんだし」
「いえ、休むほどの、ことじゃ、ないですし……それに、他のみんながどんな仕事してるのか、見てみたい、です」
「そう……。よし、それじゃあ、3人とも、撮影を楽しんでおいで。田所さん、佐藤さん、フローラをよろしくお願いします」
田所さんは、SVの言葉ににっこり微笑んで答えた。
「はい、お任せください! それじゃあ、最初はエンターテイメント部のキャストを取材に行きましょう!」
3人は、はーい! と元気に返事を返した。
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