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第一部
エンドライン 8
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こんなに自分を見失ったのは、初めてかもしれない。
とても馬鹿なことをしていると自覚していた。
キスをして抱きついて、俺は西川を家に連れ込んだ。西川はなにも話すことなくついてきて、俺が服を脱ぎ始めるのを見るとやっと身体に触りはじめた。
「どんだけ中出ししてんの。ゴムつけろって、ちゃんと後輩を指導してやれよな」
すんなり指二本を受け入れた尻の中を確認して、西川の眉が上がった。駅の階段で交わした会話は冗談だと思っていたんだろうか。つい数時間前まで染谷にさんざん抱かれた俺の体は相当疲れているのか、素直に指は受け入れたが西川の愛撫にあまり反応しなかった。ずっと萎えたままの俺を気にしたのか、入れた指でいいところばかりを探るように出し入れしている。
「……お前に関係ない」
「まぁ、そうだけど、」
ぴたり、と西川の動きが止まって指を抜かれた。西川は下を脱ごうとベルトに手をかける。
少しずつ高められていた俺は、中断した動きがもどかしくて起き上がって西川の股間へ近づき、下着の中へ直接手を差し込んだ。少し扱くとみるみる立ち上がっていく。上向きに固くなったそれを取り出して、上目遣いに西川を見る。
「咥えてやろうか?」
「……それは、光栄で、」
西川は苦笑しながら、下を脱ぎきってベッドの上で胡座をかいた。
俺は膝立ちになり、西川のそれを下から舐め上げる。反り始めたものを何度も下から上へ舌を動かしてから、先端に何度か吸い付いた。西川が感じた声を出しながら、俺の首の後ろを触る。唇と口の内側で激しく扱いてやると、西川は堪らないようで先走りがあふれてくる。俺はなるべく舐めとるように徹したが、それでも口端からこぼれ出る唾液とその液体のせいで麻薬のような音が部屋内に響いてしまう。西川が俺の首を掴む手に力が入ったのがわかって、根元を上下する手の速度を上げた。そして一番奥まで咥え込む。
「待って、そんなにしたら出ちゃう、」
髪の毛を掴まれて強引にそれから離れさせられる。西川は荒い息を落ち着かせるのに必死のようだ。俺は頭だけ上向かせられたまま再度手を伸ばし、強く西川の陰茎を握り込んだ。
「出せよ」
もう限界だろ。と右手で最後まで追い上げると、西川はぶるっと震えて白濁を吐き出した。熱く粘り気のあるそれが出ききるまで、手を止めずにゆっくり上下させる。上のほうで少しきゅっと締め上げると、また西川の肌が震えた。はぁはぁと息を吐いて、西川が余裕のない表情を見せる。
「……元気なかったのに、トキは俺のイくとこ見ると勃つの?……やらしぃなぁ…」
俺の立ち始めた股間を見て、西川は軽く笑い腰に腕を回した。押し倒して上に覆いかぶさる。
『浮気の誘いだなんて驚いた。でも、おもしろそーだからいいよ』
駅のホームで。抱きついて持ちかけた話に、西川はあっさり同意した。
俺は本人を前にして普通にいられるか不安だったが、ことが始まると過去の日常が思い起こされて自分でも驚くほど大胆になっていた。
「ほんとに最後までやる?」
西川が俺の足を広げながら聞いてきた。自分でも陰茎を擦り準備をしながら、そんなことを聞いてくるのだ。
薬のおかげで悪寒と関節の痛みは緩和したが、まだ鳩尾あたりはキリキリする。それでも追い詰められるような、神経がすり減るような痛みは少しマシになっていた。
俺は早く抱いて欲しくて仕方がなかった。だから西川が俺を気遣ったり、心配したりする言動が煩わしい。
俺が誘って、お前は了承したのに。
なぜ今更聞いてくるのかわからない。
俺は全て曝け出して身体を差し出しているのに、これ以上なにを吐き出せというのだろうか。
お前もほかに、相手がいるくせに。
「染谷は、ずっとお前に嫉妬してんだよ」
「そりゃ、彼氏がほかの男と浮気してりゃーね、」
「俺が、西川のことが好きだから」
俺の太ももに手を這わせてもう一度指を入れようとしていた西川の視線が、ゆっくりあがってくる。揶揄するように意地の悪い笑みを浮かべることはできていただろうか。得体の知れない俺の顔を見て、こいつは一体何を思うだろう。
「染谷がそう言うんだ、笑えるだろ、」
「……」
「まさか、って。言ってやったよ、」
乾いた笑いが出る。
実際本気で戯れ言だった。
なぁ、西川。
そんなことあるわけないだろうって言えよ。
お前も俺のように笑えよ。
西川は黙ったままなにも言わなかった。表情も変えなかった。ただ、俺の目を真剣に見つめるだけだった。
「トキはさ、女抱いたことある?」
「ねぇよ」
「俺はリエで二回目。女の体って、全然ちげーの、」
足の付け根から手が離れて、大きな両手が胸を押さえる。快感を高める触り方ではなかった。骨格を、筋肉を確かめるような、そんな撫で方だった。
「胸はまぁ、サイズは人によるけど、乳首も結構厚いし大きいんだぜ。肌もなんかモチモチして、ぷよぷよして、やわらかいし」
「だから、何」
淡淡と語る西川の目的がわからなかった。聞いても答える気はないのか、手を下へ滑らせながらなおも自ら見てきた女の体を説明し続ける。
「股に手をいれると恥ずかしいって嫌がるんだけどさ、女はここが一番気持ちいいからすぐ開くんだよ。胸揉んだだけで濡れてるし、匂いもさ、精液と違って独特のやつがあんの。男と違って触れば触るだけ濡れて、簡単に入る」
「……うるさい、」
そんな話、聞きたくない。
男と女の違いなんてわかってるさ。
俺には胸はないし、体は固いし、あそこが濡れるわけない。
なにが、言いたい?
俺にそんな話をしてなにが言いたい?
「で、まぁ喘ぎ方もすごいの。AV顔負け。中はうねうねしてるし気持ちいいけど……」
「やめろよ!」
途中で耐えきれなくて声を荒げた。西川は真顔で首をかしげている。いつの間にか指で入り口を広げられていた。
「なんだよ……それ……」
「何って、トキ女抱いたことないんでしょ?どんなんか教えてあげよーと思って」
言いながら尻の入り口に擦り付けられたとき、俺は身体を捩らせて西川の胸を思い切り蹴った。
不意打ちの打撃に西川の上体が揺らいで傾いた。その間に俺はベッドから降りて床に散らばった服を引き寄せる。
「いっつー…もろ、入った」
西川は胸に手を当てて顔を顰める。なんで拒否されたのかわからない、という顔で俺を見た。
「断らなかったのは、こうして馬鹿にするためかよ、」
虚しいのはそれじゃない。
「同情したのか?お前が俺を抱いたりしたから、俺がまた男と付き合ってんだって、女とセックスできないんだって、だから責任でもとるかって?冗談じゃねーよ、俺はお情けがほしくてこんなことしてんじゃねーよ!」
夢の意味を知りたくて。
もう一度会えばわかるかもしれないと。
そんな淡い期待を持ってしまった自分が情けない。どうしようもない。
救いようが、ない。
「トキは、さ。戻りたいの?」
戻る?
なにに?
あの頃に?
あの時の二人に?
服を掴んだ手がぶるぶる震える。西川の問いに対する答えを整理できないでいる。
二人でいたときの思い出ばかりがぐるぐると頭に沸いてくる。まるで夢をみているときのように、いくつも、いくつも出てくる。
その中の西川が現実の、ベッドの上の西川に重なったとき、不思議なものが込み上げてきた。
西川がはっとしたように顔を歪める。でもそれは目から流れてくるもののせいかもしれない。ゆらゆらと滲む視界の先では、本当は呆れた、疲れた顔だったかもしれなかった。
「帰るよ」
言って西川は服を着て部屋を出ていった。
俺は裸のままへたり込んだ。
シーツにどんどん染みができる。
止めたくても止められなかった。
頭と腹がジンジンと痛い。
一番欲しいと思ったもの。
でも欲しいと言えずに胸のうちに留めたもの。
でもそれはもう、俺の手には戻ってこない。
とても馬鹿なことをしていると自覚していた。
キスをして抱きついて、俺は西川を家に連れ込んだ。西川はなにも話すことなくついてきて、俺が服を脱ぎ始めるのを見るとやっと身体に触りはじめた。
「どんだけ中出ししてんの。ゴムつけろって、ちゃんと後輩を指導してやれよな」
すんなり指二本を受け入れた尻の中を確認して、西川の眉が上がった。駅の階段で交わした会話は冗談だと思っていたんだろうか。つい数時間前まで染谷にさんざん抱かれた俺の体は相当疲れているのか、素直に指は受け入れたが西川の愛撫にあまり反応しなかった。ずっと萎えたままの俺を気にしたのか、入れた指でいいところばかりを探るように出し入れしている。
「……お前に関係ない」
「まぁ、そうだけど、」
ぴたり、と西川の動きが止まって指を抜かれた。西川は下を脱ごうとベルトに手をかける。
少しずつ高められていた俺は、中断した動きがもどかしくて起き上がって西川の股間へ近づき、下着の中へ直接手を差し込んだ。少し扱くとみるみる立ち上がっていく。上向きに固くなったそれを取り出して、上目遣いに西川を見る。
「咥えてやろうか?」
「……それは、光栄で、」
西川は苦笑しながら、下を脱ぎきってベッドの上で胡座をかいた。
俺は膝立ちになり、西川のそれを下から舐め上げる。反り始めたものを何度も下から上へ舌を動かしてから、先端に何度か吸い付いた。西川が感じた声を出しながら、俺の首の後ろを触る。唇と口の内側で激しく扱いてやると、西川は堪らないようで先走りがあふれてくる。俺はなるべく舐めとるように徹したが、それでも口端からこぼれ出る唾液とその液体のせいで麻薬のような音が部屋内に響いてしまう。西川が俺の首を掴む手に力が入ったのがわかって、根元を上下する手の速度を上げた。そして一番奥まで咥え込む。
「待って、そんなにしたら出ちゃう、」
髪の毛を掴まれて強引にそれから離れさせられる。西川は荒い息を落ち着かせるのに必死のようだ。俺は頭だけ上向かせられたまま再度手を伸ばし、強く西川の陰茎を握り込んだ。
「出せよ」
もう限界だろ。と右手で最後まで追い上げると、西川はぶるっと震えて白濁を吐き出した。熱く粘り気のあるそれが出ききるまで、手を止めずにゆっくり上下させる。上のほうで少しきゅっと締め上げると、また西川の肌が震えた。はぁはぁと息を吐いて、西川が余裕のない表情を見せる。
「……元気なかったのに、トキは俺のイくとこ見ると勃つの?……やらしぃなぁ…」
俺の立ち始めた股間を見て、西川は軽く笑い腰に腕を回した。押し倒して上に覆いかぶさる。
『浮気の誘いだなんて驚いた。でも、おもしろそーだからいいよ』
駅のホームで。抱きついて持ちかけた話に、西川はあっさり同意した。
俺は本人を前にして普通にいられるか不安だったが、ことが始まると過去の日常が思い起こされて自分でも驚くほど大胆になっていた。
「ほんとに最後までやる?」
西川が俺の足を広げながら聞いてきた。自分でも陰茎を擦り準備をしながら、そんなことを聞いてくるのだ。
薬のおかげで悪寒と関節の痛みは緩和したが、まだ鳩尾あたりはキリキリする。それでも追い詰められるような、神経がすり減るような痛みは少しマシになっていた。
俺は早く抱いて欲しくて仕方がなかった。だから西川が俺を気遣ったり、心配したりする言動が煩わしい。
俺が誘って、お前は了承したのに。
なぜ今更聞いてくるのかわからない。
俺は全て曝け出して身体を差し出しているのに、これ以上なにを吐き出せというのだろうか。
お前もほかに、相手がいるくせに。
「染谷は、ずっとお前に嫉妬してんだよ」
「そりゃ、彼氏がほかの男と浮気してりゃーね、」
「俺が、西川のことが好きだから」
俺の太ももに手を這わせてもう一度指を入れようとしていた西川の視線が、ゆっくりあがってくる。揶揄するように意地の悪い笑みを浮かべることはできていただろうか。得体の知れない俺の顔を見て、こいつは一体何を思うだろう。
「染谷がそう言うんだ、笑えるだろ、」
「……」
「まさか、って。言ってやったよ、」
乾いた笑いが出る。
実際本気で戯れ言だった。
なぁ、西川。
そんなことあるわけないだろうって言えよ。
お前も俺のように笑えよ。
西川は黙ったままなにも言わなかった。表情も変えなかった。ただ、俺の目を真剣に見つめるだけだった。
「トキはさ、女抱いたことある?」
「ねぇよ」
「俺はリエで二回目。女の体って、全然ちげーの、」
足の付け根から手が離れて、大きな両手が胸を押さえる。快感を高める触り方ではなかった。骨格を、筋肉を確かめるような、そんな撫で方だった。
「胸はまぁ、サイズは人によるけど、乳首も結構厚いし大きいんだぜ。肌もなんかモチモチして、ぷよぷよして、やわらかいし」
「だから、何」
淡淡と語る西川の目的がわからなかった。聞いても答える気はないのか、手を下へ滑らせながらなおも自ら見てきた女の体を説明し続ける。
「股に手をいれると恥ずかしいって嫌がるんだけどさ、女はここが一番気持ちいいからすぐ開くんだよ。胸揉んだだけで濡れてるし、匂いもさ、精液と違って独特のやつがあんの。男と違って触れば触るだけ濡れて、簡単に入る」
「……うるさい、」
そんな話、聞きたくない。
男と女の違いなんてわかってるさ。
俺には胸はないし、体は固いし、あそこが濡れるわけない。
なにが、言いたい?
俺にそんな話をしてなにが言いたい?
「で、まぁ喘ぎ方もすごいの。AV顔負け。中はうねうねしてるし気持ちいいけど……」
「やめろよ!」
途中で耐えきれなくて声を荒げた。西川は真顔で首をかしげている。いつの間にか指で入り口を広げられていた。
「なんだよ……それ……」
「何って、トキ女抱いたことないんでしょ?どんなんか教えてあげよーと思って」
言いながら尻の入り口に擦り付けられたとき、俺は身体を捩らせて西川の胸を思い切り蹴った。
不意打ちの打撃に西川の上体が揺らいで傾いた。その間に俺はベッドから降りて床に散らばった服を引き寄せる。
「いっつー…もろ、入った」
西川は胸に手を当てて顔を顰める。なんで拒否されたのかわからない、という顔で俺を見た。
「断らなかったのは、こうして馬鹿にするためかよ、」
虚しいのはそれじゃない。
「同情したのか?お前が俺を抱いたりしたから、俺がまた男と付き合ってんだって、女とセックスできないんだって、だから責任でもとるかって?冗談じゃねーよ、俺はお情けがほしくてこんなことしてんじゃねーよ!」
夢の意味を知りたくて。
もう一度会えばわかるかもしれないと。
そんな淡い期待を持ってしまった自分が情けない。どうしようもない。
救いようが、ない。
「トキは、さ。戻りたいの?」
戻る?
なにに?
あの頃に?
あの時の二人に?
服を掴んだ手がぶるぶる震える。西川の問いに対する答えを整理できないでいる。
二人でいたときの思い出ばかりがぐるぐると頭に沸いてくる。まるで夢をみているときのように、いくつも、いくつも出てくる。
その中の西川が現実の、ベッドの上の西川に重なったとき、不思議なものが込み上げてきた。
西川がはっとしたように顔を歪める。でもそれは目から流れてくるもののせいかもしれない。ゆらゆらと滲む視界の先では、本当は呆れた、疲れた顔だったかもしれなかった。
「帰るよ」
言って西川は服を着て部屋を出ていった。
俺は裸のままへたり込んだ。
シーツにどんどん染みができる。
止めたくても止められなかった。
頭と腹がジンジンと痛い。
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でもそれはもう、俺の手には戻ってこない。
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