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住居

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話がまとまればそこからはあっという間だった。エルヴィーラの元に辿り着くまでも、遠征経験があるディルクのおかげで見咎められることなく、同行をお願いして良かったと瑛莉は改めて思った。

「着いたぞ。エリー、先に擬態を解いてくれ」

ディルクの言葉に瑛莉は一つの石を取り出して、心の中で元の姿に戻るよう願うと石がほのかに熱くなる。

(本当は自分で魔法を使いたかったんだけどな……)

エーヴァルトが作った魔石を使って魔法を使うという当初の目的は早いうちに断念することになった。魔力はあっても通常の人間がそれを行使するためには何かが不足しているらしく、何度試しても魔石は発動しなかったのだ。
代わりにエーヴァルトが目的に応じた魔法を魔石に閉じ込めることで、魔法の効果が発現できるようになり、エルヴィーラ救出に大いに役立つことになった。

とはいえそんな魔石が世に出回れば混迷を招くことは必至で、取り扱いには十分な注意が必要である。そのためまだエルヴィーラにも説明はしていなかったが、聡明な彼女は驚きの表情を浮かべながらも、尋ねてくることはなかった。

「おい、それは何だ?」

ディルクも元の姿に戻ると、不機嫌を露わにしてベンノが現れた。万が一のことを考えて直接城内ではなく、少し離れた森の中に転移したのだが戻ってきたことを察知してすぐに駆け付けたのだろう。

「エリーの侍女のエルヴィーラだ。エーヴァルトには事前に許可を取っている」
「我が君の寛大さを良いことに随分と好き勝手してくれる」

吐き捨てるように告げると、ベンノはエルヴィーラに剣呑な視線を向ける。思わずエルヴィーラの前に出ると、それが余計に気に食わなかったようで眼差しの温度がさらに下がったように感じた。

「その人間を我が君の城に入れるな。侍女がいなければ困るというのなら、城の外で暮らせ。我が君の平穏を乱すことは許さない」

一方的に告げるとベンノは返答も待たずに姿を消した。

「で、どうするよ?確かにエーヴァルトのところにずっと居候している訳にもいかないんだろうけど、流石に住む場所を作るには時間がかかるだろう?」

ただでさえ瑛莉とディルクの存在を快く思っていないのに、さらに他人が増えるとなれば激昂させるのは目に見えていた。とりあえず排除を強行するようなことはなかったが、エルヴィーラの安全を考えれば城に戻るわけにもいかない。

「野営なら任せとけ。エーヴァルトに一旦報告だが、今後のことを踏まえれば住居を作るのも検討しないといけないからな」

他国と交流を図るのであれば、それなりの人材が必要だ。もちろんエーヴァルト自身も外交を行う必要はあるが、魔王の印象が良くないため最初からエーヴァルト自身が対応することは難しい。ディルクは爵位持ちとして、また第二騎士副団長として王族と関わることはあっても外交官としての役割を担うには知識も経験も足りなかった。
そんな話をしながら城へと向かった瑛莉たちを待っていたのは、得意げな笑みを浮かべたエーヴァルトだった。


「ディルク、エリー、おかえり。ちょっと狭いかもしれないけど、良かったら使って」

示された先には立派な二階建ての建物が立っていた。

(狭くないだろう……っていや、これ出かける前にはなかったよな?!)

「エリーのアイデアのおかげだよ。もともと使っていなかった城の一部を組み替えて作ったんだ。ないものを作り出すのは難しいけれど、ある物を加工するならそんなに時間が掛からなかったよ」

変装用の擬態や攻撃魔法の他に、便利だろうと思う機能――拡大縮小や複製――をどうにか魔法で再現できないかと語ったことはある。恐らくこれはその一環で、城の一部を切り取り縮小したものを加工し拡大したのだろう。
デジタル上では簡単に行えるそれを、見たこともないエーヴァルトがあっさりと実現したことに瑛莉は呆気に取られていた。

「エーヴァルト……すごいな、これ」
「ふふ、気に入ってくれたなら嬉しいな。それからそこの君はそんなに畏まらなくて大丈夫だよ」

目の前の光景に気を取られていた瑛莉が振り返ると、エルヴィーラは深々と頭を下げていた。

「あ、ごめん。エーヴァルト、侍女のエルヴィーラだよ。ディルクがわりと強引に連れてきた。エルヴィーラ、友人で魔王のエーヴァルトだ」

少しだけ警戒しているような気配を感じ取って、瑛莉はそんな風にエルヴィーラを紹介することにした。幼少期以降、ディルク以外の人間とほとんど接触を持たなかったと聞いているし、おまけにエルヴィーラは元々神殿に仕えていたのだから身構えてしまうのも仕方ない。

「うん、ディルクから聞いている。女性がいないと何かと不便なこともあるだろうから、エリーにしっかりと仕えてくれるなら問題ないよ」
「寛大なお言葉ありがとう存じます、魔王陛下。誠心誠意仕えさせていただきます」

丁重な態度を崩さずにエルヴィーラが答える。
いつの間にかエーヴァルトの後ろに控えていたベンノは無表情だが、その決定に意を唱えることはない。エーヴァルトもベンノの心中を慮って別に住居を用意したのだろうし、ベンノもそれを理解しているからこそ不満を口にしないのだろう。

「エーヴァルト、後でちょっといいか?野営地で面白い話を耳にした」
「もちろん。今日の練習分は終わっているし、魔力の保有量も上がって調子がいいんだよ」

ふわりと笑うエーヴァルトは嬉しそうで魔力の暴発を恐れていた頃と表情が明らかに変わった。
まだ制御の練習は必要だが、制御が出来るようになりつつあることと、いざという時には浄化で抑えることができるという状況により精神的な負担が減ったようだ。
ちなみに浄化の力を使う時は最小限で、無理をしないようにとエーヴァルトとディルクの双方から厳重注意されている。

(優しいというより過保護だよなあ……)

そんな風に気遣われたら、何かしないでいられるわけがないではないか。
二人の会話を聞きながら、瑛莉は自分に出来ることを考えていた。
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