令和百物語 ~妖怪小話~

はの

文字の大きさ
上 下
6 / 90

陸 子泣き爺

しおりを挟む
「おぎゃああああ! おぎゃああああ!!」
 
 深夜一時。
 人の気配さえない夜道に、赤ちゃんの泣き声だけが響く。
 
「もしかして……いや、そんなまさか……」
 
 女は残業を終えたばかり。
 疲労でふらふらではあったが、夜道で一人泣き叫ぶ赤ちゃんを放置しておくほど冷酷ではなかった。
 最悪の想像をし、急いで女は泣き声のする方へと向かう。
 
「おぎゃああああ! おぎゃああああ!!」
 
 声は、街灯の作る光の円に照らされるベビーカーの中から発せられていた。
 まるで見つけてくれと言わんばかり、スポットライトのようである。
 これは、本当に捨て子かもしれない。
 もしも捨て子だった場合、どうすればいいのだろうか、どこに電話すればいいのか、そんなことを考えながら女はスマートフォンを握りしめる。
 
「おぎゃああああ! おぎゃああああ!!」
 
 そして、怯えさせないように笑顔を作ってベビーカーを覗き込む。
 
 
 
 そこには、ベビー服を着た老人が寝転んでいた。
 体のサイズは赤ちゃんのそれだが、肌はシワシワ、髪は真っ白。
 赤ちゃんとはとても言い難い。
 
「おぎゃああああ! おぎゃああああ!!」
 
 女とベビー服を着た老人――子泣き爺の目が合う。
 
 女の表情はすっと暗くなり、スマートフォンで通話を開始する。
 
「もしもし、お巡りさん? 赤ちゃんプレイ中の変質者がいます」
 
「思っとった反応と違うううう!?」
 
 子泣き爺はベビーカーから飛び降りて、夜の闇へと走って消えていった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

朝起きたら幼馴染が隣にいる

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

怪奇短篇書架 〜呟怖〜

ホラー / 連載中 24h.ポイント:413pt お気に入り:7

【完結】心音は、神恩なり

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

戦争はただ冷酷に

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:1

怪異の忘れ物

ホラー / 連載中 24h.ポイント:298pt お気に入り:31

心霊体験の話・犬

ホラー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:0

心霊体験の話・パーティ

ホラー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:0

大東亜戦争を有利に

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:266

怪奇幻想恐怖短編集

ホラー / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:4

呟怖千夜一夜

ホラー / 連載中 24h.ポイント:285pt お気に入り:7

処理中です...