令和百物語 ~妖怪小話~

はの

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伍拾弐 山荒

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「反対!」
 
「反対!」
 
「動物の狩猟、反対!」
 
「すべては同じ命です!」
 
「狩猟なんて野蛮な行為は止めなさい!」
 
 この村は、山に囲まれているが故、動物がすぐ隣に住んでいる。
 そのため、村人たちは、狩猟と共に生きてきた。
 
 山に入って獣を狩る。
 その肉を売って村人たちの稼ぎとするために。
 山から村に降りてきた獣を狩る。
 村人たちの命を守るために。
 
 百年以上も続いていたこの狩猟文化は、動物の愛護を掲げる団体から入り続ける批判によって、廃業の危機を迎えつつあった。
 
「狩猟は、必要なことなんだ!」
 
「反対!」
 
「反対!」
 
「私たちが狩猟を辞めれば、大変なことになる!」
 
「反対!」
 
「反対!」
 
 インターネットを通じて投げかけられる批判は、村人たちの言葉に耳を貸さない。
 彼らは、山に囲まれた村になんて住んでいないから、狩猟の本質に気づけない。
 
 批判はメディアを巻き込み、行政を動かし、村人たちはついに立ち退きを余儀なくされた。
 
「……どうなっても知らんぞ」
 
 村人の最後の言葉を、野蛮人の負け惜しみだと、世間は騒ぎ立てた。
 村は消滅し、村含めた一帯の地域は、人間の干渉がない動物たちの楽園となった。
 
 
 
 つまり、この山に住む妖怪を、止める存在はいなくなったのだ。
 
 
 
 巨大な巨大な山荒は、村人たちの妨害がなくなったことで、悠然と山を下りて、その先へと歩き始めた。
 
 家よりも大きなその体をゆっくりと動かし、頭の先から爪の先までの全身から飛び出す鋭利な棘を周囲に突き刺しながら、ズシンズシンと歩いていく。
 
 今まで、村とはインターネットでしかつながっていなかった町へ向かって。
 
 ズシンズシンと歩いていく。
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