悪役令嬢転生の作り方

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第31話 エイジ・ハラル8

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 餓狼の武器は、鉄の爪である。
 近距離用の武器であり、剣よりもリーチが短い。
 相手から致命傷を受ける位置に立たなければ、相手に一撃を入れることができない武器だ。
 自身の手と同じように振り回せるという利点はあるが、間合いが狭くなるという欠点を上回る程ではない。

 よって、誰も鉄の爪を使わない。
 餓狼以外は。
 
 周囲からの質問に、餓狼はあっさりと答えた。
 安全圏からの戦いの何が楽しいんだ、と。
 
 
 
「皆っ!」
 
「よそ見してていいのか!?」
 
 エイジは餓狼と戦いながらも、周囲を見る余裕があった。
 ユイット。
 オプト。
 オシェム。
 エヴァル。
 パャド。
 仲間が一人倒れる度に唇をかみしめて、必死に涙をこらえていた。
 
 餓狼の爪を何度も受け止めながら、エイジは状況を把握する。
 転生と言う経験から、肉体と魂は別の物であると考えることができ、それ故に仲間は死亡状態ではないのだと安心することもできた。
 
「必ず助ける!」
 
 エイジは剣を大きく振り、餓狼を後ろに避けさせる。
 そして、空いた一瞬の時間で自身の両頬を叩き、雑念を飛ばした。
 
 雰囲気の変わったエイジを見て、餓狼はニヤリと微笑んだ。
 餓狼が欲しいのは、本気の戦い。
 よって、エイジがやる気を出せば出すほど、餓狼にとっては大歓迎である。
 
「誰も手ぇ出すんじゃねえぞ!」
 
 餓狼は叫び、エイジに向かって駆け出した。
 仲間たちを倒した敵が集まている今、エイジは一対多に持ち込まれる想定をしていた。
 が、エイジにとって都合よく、想定が外れた。
 歓迎すべき状況だが、エイジはむしろ未来への不安を持った。
 即ち、餓狼を倒した瞬間、餓狼の指示の効果がなくなり、敵が一気に自分へ向かってくること。
 つまり、餓狼を倒さなければ一対一、倒せば一対多になるという不可解な分岐点。
 
(こいつを倒すのではなく、人質にするしかない)
 
 結果、エイジは自分に課してしまった。
 戦いをさらに不利にする制約を。
 倒すよりも捉える方が難しいのは、自明の理。
 
「ははは!」
 
 上から下へ振り下ろされる、餓狼の爪。
 
「はあっ!」
 
 下から上に振り上げられ、エイジの剣。
 
 エイジの剣は一本。
 餓狼の爪は二つ。
 餓狼は、剣とぶつかり合っていないもう一つの爪で、エイジを側面から狙う。
 
「がら空きだぜ!」
 
「そうだな」
 
 が、餓狼の動きは、エイジの想定内。
 片足に力を入れて自分の体が決して動かないように踏ん張り、もう片方の足で向かってくる餓狼の腕を蹴り上げた。
 
「ちいっ」
 
 エイジは上げた脚を即座に下ろし、下ろす足で餓狼の横っ腹に踵をぶつけた。
 
「げふっ」
 
 餓狼が横に吹き飛ぶと、エイジの剣が解放される。
 エイジは飛んでいく餓狼と同じ方向へ駆け出し、追いつき、その首に向かって剣を振り下ろした。
 
「やべっ」
 
 確実に、餓狼の首を落とす一撃だった。
 が、その刃が届くことはなかった。
 
「何っ!?」
 
 エイジの全身よりも大きな空気の球が、エイジの体を横へと追い出し、餓狼から遠ざけたからだ。
 エイジの体はごろごろと地面を転がり、流れる視界に映る攻撃元を探る。
 
「幸之助! てめぇ!」
 
 一方の餓狼は、その攻撃方法から、すぐに攻撃元が幸之助であると察した。
 幸之助は大砲の様に大きな銃口を持つ拳銃を下ろし、叫ぶ餓狼を見た。
 そして、子供をあやすように口を開いた。
 
「天下殿、落ち着いてください」
 
「ああ!?」
 
「既に、皆様調達を終えております。他の皆様は二人掛かりとはいえ、天下殿が最も強い悪役令嬢を相手しているとはいえ、それでも天下転生ホールディングスが最も調達が遅かったという評価はいただけません」
 
 幸之助の言葉に、餓狼は動きを止める。
 立ち上がったエイジを見て、遠くから餓狼を見守る同業者たちを見て、餓狼は片方の眉をピクリと動かした。
 
 餓狼には、二つの願望がある。
 餓狼自身が強いこと、そして天下転生ホールディングス株式会社が強いこと。
 餓狼を見る有象無象の視線は、決して餓狼を弱者などと見ていない。
 しかし、多少の不安が含まれていた。
 
 それは、餓狼の勝利を疑うこと。
 餓狼にとって、一つ目の願望をぶち壊す醜悪な目。
 
「わかった」
 
 故に、餓狼は自身の力のみで戦うことを止めた。
 勝利を疑われる不快が、餓狼には耐えがたいものだった。
 警戒しているエイジから距離をとったまま、餓狼は空中に開いた穴から小さな球を取り出した。
 
(あれは?)
 
 球を見た瞬間、エイジは餓狼に向かって走った。
 自分が攻撃されることも厭わずに、餓狼の手から球を奪う、ただそのためだけに。
 
 餓狼は近づいてくるエイジのことなど気にもかけず、球についている小さなボタンを躊躇いなく押した。
 
 球が破裂する。
 中から無数の光が飛び出してくる。
 まるで無差別に放たれる矢のように。
 
(なん……)
 
 天下転生ホールディングス株式会社の持つ技術の一つ、『光弾』。
 触れた異世界人の魂を抜く道具に、刃でも銃弾でもなく、光子を使用する技術。
 一秒で地球七周半するその速度は、事実上不可避の攻撃。
 
 光を全身に浴びたエイジは、なすすべなく倒れた。
 魂がとっくに奪われて、何が起きたか理解するまもなく意識を奪われていた。
 
「お見事です、天下殿」
 
 賞賛しながら近づいてくる幸之助を見て、餓狼はペッと唾を吐く。
 
「何が、見事なもんか。こんなもん使えば、馬鹿でも調達くらいできる」
 
「それを使えるのは、ひとえに天下殿の立場あってこそです」
 
「糞親父の愛玩道具だよ」
 
 
 
「うわー。あれって、ズルじゃないですか?」
 
 最強の悪役令嬢、なんて呼ばれていた存在があっさり調達された様子を見て、三姫は不満を漏らす。
 だが、光弾の価格を知っている弥太郎からすれば、あれも一つの力だった。
 
「まあ、言いたいことはわかるけど、アレ一つで一千万円以上するよ」
 
「え゛」
 
「買えばうちでも同じことできるだろうけど、まあ無理だね」
 
「無理ですよね。拳銃でさえ、安くなった型落ち品が推奨されてますし」
 
 今後の調達が楽になるのではと考えた三姫は、厳しい現実の前にがっくりと項垂れる。
 
「強い武器を変えるのも、会社の一つの実力ってわけさ」
 
「あー。資本主義ー」
 
 
 
 悪役令嬢エイジ・ハラル調達。
 以降の手続きは、天下転生ホールディングス株式会社によって滞りなく行われ、悪役令嬢転生株式会社は前回の損失を補完してなお有り余る黒字を手にすることとなった。
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