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第30話 エイジ・ハラル7
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弥太郎と第一王子オプトの剣が、何度も激突する。
「さすがに重いね。本職の人を相手にすると、毎回自信を無くしちゃうよ」
「なんの話だ!」
オプトの剣の腕は、国で五本の指に入る。
最強の戦士長と、その息子エヴァル。
二人の強者によって磨かれた刃は、確実に弥太郎の技術をしのいでいた。
ただしそれは、オプトの知る技術の範囲で、だ。
弥太郎に存在するのは、オプトの持たない知識。
人間の骨格、人間の心理、武器の素材の特性など、人類が長年をかけて積み上げられた英知の結晶。
弥太郎は、剣術に加えてオプトの心理と体勢から行動を予測し、アプトの振りかざす剣を全ていなすことに成功していた。
「何故だ! 何故当たらない!」
「いやいや。気を抜いたら、一瞬でやられそうだよ」
「ぬかせ!」
オプトの大ぶりの一撃を、弥太郎は後方へと飛んで躱す。
その動きには余裕さえ感じられ、それが余計にオプトのいら立ちを募らせた。
もてあそばれている。
そう思わずにはいられなかった。
「エヴァル!」
一対一では時間がかかりすぎると判断したオプトは、ともにエイジのいる場所へと走った仲間の名を呼んだ。
だが、エヴァルがオプトの横に立つことはなかった。
エヴァルは、三姫によって完全にオプトから分断されていた。
エヴァルは強い。
三姫の持つ銃から放たれる弾丸を、全て剣で斬り落せるくらいには。
しかし、できるのはそこまで。
オプトを助けに行く余裕もなければ、三姫から目を離す余裕もなかった。
少しでも油断したら、自身の常識を超えた高速の銃弾が、自身を貫くことになるとわかっていたから。
「くそっ!」
オプトは弥太郎へと向き直り、再び剣を振るった。
「今が足りないなら、今よりも強くなるだけだ!」
現在のオプトに、弥太郎を止める術などなかった。
だが、オプトにとって、そんな場面は何度も潜り抜けてきた日常。
オプトの最たる能力は、成長である。
全てに無関心であったが故に、自身の好き嫌いを捨てて、成長までの道を最短で走り抜けて今必要な成長することができる。
「そこっ!」
「おっと」
弥太郎の先読みに気づいていたオプトは、正々堂々たる一撃を止め、フェイントをかけることで弥太郎の動きを崩し始めた。
そして、体制の崩れた弥太郎に対し、剣を回転させながら突くことで、オプト史上最速の突きを放つことに成功した。
銃弾に等しい音を立てる、オプトの刃。
「そいやっ」
もしも弥太郎がただの強者であれば、確実に貫かれていた一撃だっただろう。
しかし、弥太郎の知識には届かなかった。
弥太郎の知識には、成長したオプトの動きさえも含まれていた。
動きを崩された振りをした弥太郎は、即座に体勢を戻して、向かってくる突きを冷静に回避した。
「っ!?」
新技の弱点は、応用力のなさにある。
史上最速の突きを放ったオプトは、右手を伸ばしたまま前進する自身の身体を止める術を持ち合わせず、体が無理やりに前へと進んでいく。
剣を振り上げた、弥太郎の前まで。
「そらっ」
「嘗める……なあ!」
余りにも無防備な態勢のオプトに、弥太郎は一撃を叩きこむ。
完全な回避は不可能だと、誰もがわかる一撃。
故に、オプトは即座に右手を捨てる決断をした。
手首をスナップさせ、右手に持っていた剣を左手に投げ渡す。
左手は既に、弥太郎に向かって斬りつけるための準備を終えており、剣を受け取ればすぐにでも動く準備ができていた。
弥太郎の剣が、オプトの右肘を切断する。
オプトは痛みで表情を歪めるも、落ちていく自身の腕に視線一つ送らず、飛んできた剣を左手で掴んだ。
そして、全身をコマのように回転させ、剣を振り下ろした弥太郎の首に向かって振り抜いた。
「獲った……!」
オプトの剣と弥太郎の首の間には、何もない。
邪魔するものは、何もない。
弥太郎の視線は向かってくるオプトの剣に引きつけられ、次の瞬間外へと逃げた。
(どこを……見ている?)
命の危機に瀕した時、その原因となる物から視線を逸らす人間はいない。
あるとすればそれは、命の危機から脱することができる何かが向かってきている方向だ。
(何か、あるのか?)
オプトが思い出すのは、エヴァルと戦うもう一人。
もしもエヴァルがすでに敗北し、そのもう一人が弥太郎を助けに来ている場合、弥太郎の視線がそちらへ動くのは必然。
(まさか……!)
自身の剣と弥太郎の首を見ていたオプトの視線は、弥太郎の視線を追った。
が、その先には誰もいなかった。
「は?」
視線を逸らしたことで、オプトの剣の速度がコンマ数秒遅くなり、弥太郎の首に向かっていた王道ルートを数センチメートルだけ逸れた。
言い換えよう。
弥太郎が回避できるほどには、剣速が遅く、軌道が甘くなった。
「若いな」
「!? しまった!」
オプトの振った剣は、空を切る。
弥太郎はその腕の下に潜り込み、オプトに狙いを定める。
(顔は違う。首も違う。心臓も違う。腰にある、鎧の隙間)
オプトが決して躱せない、人体構造上の死角へと。
「くそっ! エイジ!」
弥太郎の剣は、あっさりとオプトの腰へと突き立てられる。
オプトは、最後に婚約者の名前を叫び、意識を失った。
弥太郎はオプトの魂を捕ったことを確認すると、すぐさま三姫の方へと向く。
「オプト様!」
「隙ありっ!」
そして、弥太郎はエヴァルと目が合った。
オプトの最期の叫びを聞いて、注意をオプトへ向けてしまったエヴァルと。
三姫は、その隙を見逃さない。
即座に引き金を引いて、エヴァルの魂を奪い取った。
ガシャリと音を立てて倒れるエヴァルを見た後、三姫は小さく安堵のため息を零し、弥太郎の方を見る。
「天馬さん! やりました!」
「……なんか、俺に似てきたね。ああ、すごいよ清水さん。もう、完全に一人前だ」
弥太郎は三姫を褒めた後、残る最後の一人へと視線を向けた。
悪役令嬢エイジ・ハラルは、依然として餓狼との戦いを続けていた。
「さすがに重いね。本職の人を相手にすると、毎回自信を無くしちゃうよ」
「なんの話だ!」
オプトの剣の腕は、国で五本の指に入る。
最強の戦士長と、その息子エヴァル。
二人の強者によって磨かれた刃は、確実に弥太郎の技術をしのいでいた。
ただしそれは、オプトの知る技術の範囲で、だ。
弥太郎に存在するのは、オプトの持たない知識。
人間の骨格、人間の心理、武器の素材の特性など、人類が長年をかけて積み上げられた英知の結晶。
弥太郎は、剣術に加えてオプトの心理と体勢から行動を予測し、アプトの振りかざす剣を全ていなすことに成功していた。
「何故だ! 何故当たらない!」
「いやいや。気を抜いたら、一瞬でやられそうだよ」
「ぬかせ!」
オプトの大ぶりの一撃を、弥太郎は後方へと飛んで躱す。
その動きには余裕さえ感じられ、それが余計にオプトのいら立ちを募らせた。
もてあそばれている。
そう思わずにはいられなかった。
「エヴァル!」
一対一では時間がかかりすぎると判断したオプトは、ともにエイジのいる場所へと走った仲間の名を呼んだ。
だが、エヴァルがオプトの横に立つことはなかった。
エヴァルは、三姫によって完全にオプトから分断されていた。
エヴァルは強い。
三姫の持つ銃から放たれる弾丸を、全て剣で斬り落せるくらいには。
しかし、できるのはそこまで。
オプトを助けに行く余裕もなければ、三姫から目を離す余裕もなかった。
少しでも油断したら、自身の常識を超えた高速の銃弾が、自身を貫くことになるとわかっていたから。
「くそっ!」
オプトは弥太郎へと向き直り、再び剣を振るった。
「今が足りないなら、今よりも強くなるだけだ!」
現在のオプトに、弥太郎を止める術などなかった。
だが、オプトにとって、そんな場面は何度も潜り抜けてきた日常。
オプトの最たる能力は、成長である。
全てに無関心であったが故に、自身の好き嫌いを捨てて、成長までの道を最短で走り抜けて今必要な成長することができる。
「そこっ!」
「おっと」
弥太郎の先読みに気づいていたオプトは、正々堂々たる一撃を止め、フェイントをかけることで弥太郎の動きを崩し始めた。
そして、体制の崩れた弥太郎に対し、剣を回転させながら突くことで、オプト史上最速の突きを放つことに成功した。
銃弾に等しい音を立てる、オプトの刃。
「そいやっ」
もしも弥太郎がただの強者であれば、確実に貫かれていた一撃だっただろう。
しかし、弥太郎の知識には届かなかった。
弥太郎の知識には、成長したオプトの動きさえも含まれていた。
動きを崩された振りをした弥太郎は、即座に体勢を戻して、向かってくる突きを冷静に回避した。
「っ!?」
新技の弱点は、応用力のなさにある。
史上最速の突きを放ったオプトは、右手を伸ばしたまま前進する自身の身体を止める術を持ち合わせず、体が無理やりに前へと進んでいく。
剣を振り上げた、弥太郎の前まで。
「そらっ」
「嘗める……なあ!」
余りにも無防備な態勢のオプトに、弥太郎は一撃を叩きこむ。
完全な回避は不可能だと、誰もがわかる一撃。
故に、オプトは即座に右手を捨てる決断をした。
手首をスナップさせ、右手に持っていた剣を左手に投げ渡す。
左手は既に、弥太郎に向かって斬りつけるための準備を終えており、剣を受け取ればすぐにでも動く準備ができていた。
弥太郎の剣が、オプトの右肘を切断する。
オプトは痛みで表情を歪めるも、落ちていく自身の腕に視線一つ送らず、飛んできた剣を左手で掴んだ。
そして、全身をコマのように回転させ、剣を振り下ろした弥太郎の首に向かって振り抜いた。
「獲った……!」
オプトの剣と弥太郎の首の間には、何もない。
邪魔するものは、何もない。
弥太郎の視線は向かってくるオプトの剣に引きつけられ、次の瞬間外へと逃げた。
(どこを……見ている?)
命の危機に瀕した時、その原因となる物から視線を逸らす人間はいない。
あるとすればそれは、命の危機から脱することができる何かが向かってきている方向だ。
(何か、あるのか?)
オプトが思い出すのは、エヴァルと戦うもう一人。
もしもエヴァルがすでに敗北し、そのもう一人が弥太郎を助けに来ている場合、弥太郎の視線がそちらへ動くのは必然。
(まさか……!)
自身の剣と弥太郎の首を見ていたオプトの視線は、弥太郎の視線を追った。
が、その先には誰もいなかった。
「は?」
視線を逸らしたことで、オプトの剣の速度がコンマ数秒遅くなり、弥太郎の首に向かっていた王道ルートを数センチメートルだけ逸れた。
言い換えよう。
弥太郎が回避できるほどには、剣速が遅く、軌道が甘くなった。
「若いな」
「!? しまった!」
オプトの振った剣は、空を切る。
弥太郎はその腕の下に潜り込み、オプトに狙いを定める。
(顔は違う。首も違う。心臓も違う。腰にある、鎧の隙間)
オプトが決して躱せない、人体構造上の死角へと。
「くそっ! エイジ!」
弥太郎の剣は、あっさりとオプトの腰へと突き立てられる。
オプトは、最後に婚約者の名前を叫び、意識を失った。
弥太郎はオプトの魂を捕ったことを確認すると、すぐさま三姫の方へと向く。
「オプト様!」
「隙ありっ!」
そして、弥太郎はエヴァルと目が合った。
オプトの最期の叫びを聞いて、注意をオプトへ向けてしまったエヴァルと。
三姫は、その隙を見逃さない。
即座に引き金を引いて、エヴァルの魂を奪い取った。
ガシャリと音を立てて倒れるエヴァルを見た後、三姫は小さく安堵のため息を零し、弥太郎の方を見る。
「天馬さん! やりました!」
「……なんか、俺に似てきたね。ああ、すごいよ清水さん。もう、完全に一人前だ」
弥太郎は三姫を褒めた後、残る最後の一人へと視線を向けた。
悪役令嬢エイジ・ハラルは、依然として餓狼との戦いを続けていた。
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