悪役令嬢転生の作り方

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第13話 悪役令嬢フィリー・ティック

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 スリーミーの一件が終わった後、弥太郎はますます剣術の鍛錬に励むようになった。
 想いを叶えるためには、実力と実績が必要だと知っているから。
 
 一方、三姫は剣術に加え、銃の鍛錬も行うようになった。
 タイパを意識する世代には、銃という調達能力の高さが魅力的に映った。
 
 それぞれが、それぞれのポリシーを持って仕事に臨む。
 
 そして十月。
 三姫が入社して、半年が経った。
 
「これ。今回の調達相手」
 
「わー。こんなの、勝ち確じゃないですか」
 
 悪役令嬢フィリー・テック。
 既に破滅が確定した悪役令嬢であり、現在は王城前の広場に全身を固定され、処刑前の晒し者となっている。
 高度な魔術を操る天才ではあったが、ヒロインに敗北し、魔術の使用を封じる拘束具が両手両足につけられ、今の実力は凡人のそれだ。
 平民たちから石を投げつけられて、顔は怒りと恥辱で赤く染めながら、最期の瞬間を待っている。
 
「ところで天馬さん」
 
「何?」
 
「すぐに死ぬ悪役令嬢を調達しても、依り代にはならないんじゃないですか?」
 
「多分、タイムスリップさせるんだと思う」
 
「タイムスリップ?」
 
「聞いたことない? 処刑された時の記憶を持ったまま、十年くらい前までタイムスリップして、今度は処刑されない様に頑張る悪役令嬢の話」
 
「あるような、ないような」
 
「その依り代」
 
 悪役令嬢転生のパターンを大別すると、三つに分かれる。
 ヒロインと遭遇するよりはるか前、幼い頃の悪役令嬢へ転生するパターン。
 ヒロインと遭遇した後、十代後半の悪役令嬢へ転生するパターン。
 そして、ヒロインとの戦いで敗北し、破滅の運命が確定した悪役令嬢へ転生するパターン。
 三姫にとって不思議な状況も、弥太郎にとっては見たことのある状況でしかない。
 
 弥太郎と三姫は黒ビルへと到着し、いつもの駐車場へ車を止める。
 駐車場は相変わらず空車だらけだったが、今日はいつもと違って、別の車が一台止まっていた。
 
「へえー。ここに車が止まっていること、あるんですね」
 
 素直な感想を述べた三姫が弥太郎の方を向くと、弥太郎はこわばった表情で車を見ていた。
 
「天馬さん?」
 
「このナンバープレート……。やべえかもな。急ぐぞ」
 
「へ?」
 
 弥太郎は乱暴に車を停車した。
 三姫の体が前後に大きく揺すられるが、弥太郎はそれさえも気にすることなく、車の扉を開けて工場の中へと走った。
 
「天馬さん!? 鍵! 鍵!!」
 
 三姫も急いで、弥太郎の後を追う。
 
 何度も見た転移を行う室内。
 相変わらずエアコンがガンガンと稼働し、透明な円柱は怪しげな光を放ちながら弥太郎たちを迎えた。
 
「あれ?」
 
 が、三姫は、今までにない違和感に気づいた。
 普段使っている円柱の奥側には、転移を終えて不透明になった円柱が立っていた。
 
「転移の機械って、一つじゃなかったんですね?」
 
「くそ。どうやら、先客がいるようだ」
 
「先客?」
 
 弥太郎は三姫の言葉に応えることなく、苦々しい表情で近くの円柱の中へと入った。
 そして三姫を呼び寄せ、機械を作動させた。
 
 一瞬の浮遊感。
 弥太郎と三姫は異世界へ転移し、王城前の広場へと着地した。
 
 転移したばかりの三姫は、いつもの癖で異世界の空気を嗅ごうと、鼻で呼吸する。
 が、三姫の予想に反して、体内に入って来たのは無味無臭の空気。
 人間の匂いも自然の匂いもしない、完全な無。
 不思議に思った三姫の目には、灰色に染まった世界が飛び込んで来た。
 
「これって」
 
 既に時間が停止しているのではないか、と三姫が弥太郎に確認しようとしたときには、弥太郎は三姫の元を離れていた。
 
 弥太郎は、着地と同時に処刑台へと固定された悪役令嬢の元へと走り、剣を持った手を伸ばす。
 伸ばす先は、悪役令嬢フィリー・ティックではなく、フィリーの首に向かって振り下ろされている剣。
 
「うおっ!?」
 
 弥太郎が相手の剣を側面から突くと、剣の持ち主は驚いた声をあげながら体制を横へと崩す。
 その隙をついて、弥太郎がフィリーの首を狙って剣を振るも、今度は逆に弥太郎の体が蹴り飛ばされた。
 弥太郎は倒れないように踏ん張り、即座に体勢を立て直して自身を蹴った相手に向かって剣を構える。
 
「ちっ。間に合わなかったか」
 
 剣を持った相手は面倒くさそうに言い放った後、弥太郎同様に剣を構える。
 
「天馬さん? 誰ですか、その人」
 
 ようやく弥太郎の元に追いついた三姫が、息を切らしながら質問する。
 弥太郎は三姫に視線を落とした後、すぐに剣を構える相手を睨みつけた。
 
「ただの、同業者だよ」
 
「同業者? でも、申請は私たちが通してたじゃないですか」
 
 異世界転移を行うためには、申請が必要である。
 申請の目的は、大きく三つ。
 異世界の環境を乱さないことの制約。
 異世界の環境を乱さないための準備ができているかの確認。
 そして、同業者との無意味な接触の回避だ。
 
 かつて、異世界に転移した会社同士が悪役令嬢の調達を巡って異世界で争い、大いに異世界の環境を乱したことがある。
 よって、二度と同様の事件を起こさせないよう、一つの会社が異世界へ転移している間、他の会社が異世界に転移しないというルールを設けた。
 
 尤も、システム上で転移を禁止することはできていないため、相互の約束の遵守によってのみ成立するルールでもある。
 
「通してたね。だから、真っ当な会社ならいるはずないんだけどね」
 
「なんだあ? 俺たちが、真っ当じゃないって言いたいのか?」
 
 弥太郎たちより先に異世界へ転移していた男――楽田らくだ翔太しょうたは、馬鹿にしたような笑みを弥太郎に向ける。
 
「その通りだよ! 正直者が馬鹿を見るんなら、俺たちは真っ当じゃなくて構わねえ! その代わり、利益はしっかり上げるからな!」
 
「相変わらず、合わないねえ」
 
「天馬さん、お知り合いですか?」
 
 弥太郎と翔太の言葉がぶつかるのを見ながら、三姫は弥太郎に問った。
 が、弥太郎が質問に答える前に、三姫を見つけた翔太が三姫を凝視する。
 
「おう、なんだ。お前んとこの新人か。結構可愛いじゃねえか」
 
「え゛」
 
「でも、胸が寂しいな。俺はもっと、揉みごたえある方が好きなんだ」
 
「天馬さん! 何ですかこの人!!」
 
 三姫は自身の胸を両手で隠しながら、怒りで赤くなった顔を弥太郎へと向ける。
 弥太郎は、まるで自分の責任だと言わんばかりに、申し訳なさそうに頭を掻いた。
 
「俺の、元同僚」
 
「元同僚!? ってことは、同い年!?」
 
 三姫は驚きの余り、翔太を二度見する。
 
 奇麗に染められた茶髪に、学生のように遊ばせた髪の毛。
 化粧の影響か、それとも童顔の影響か、翔太は三姫の少し年上と言われてもおかしくない外見をしていた。
 スーツを着てはいるがネクタイなどしておらず、シャツはボタンをはずして着崩して、服装に対しての意識も悪役令嬢転生株式会社の社員とは真逆だ。
 
「そ。もっとも俺は五年前に転職してっから、そいつと一緒に働いたのは数年だけどな」
 
「転職? ちなみに、どこへ?」
 
「楽々転生サービス株式会社。何? 転職興味ある? 君可愛いし、俺が口利きしたげようか?」
 
「ら、楽転!?」
 
 楽々転生サービス株式会社。
 転生を取り扱う会社の中では名の知れた一社であり、悪役令嬢転生株式会社と違って、悪役令嬢以外の幅広い転生も取り扱っている。
 その最たる特徴は、業界最安値。
 圧倒的な営業力と圧倒的な効率重視で、一気に業界の勢力図を塗り替えた。
 その一方、強引な営業や他社申請済みの異世界へ転移して調達対象を横取りするなど、その振る舞いは業界内でたびたび問題視されている。
 
 就職活動中の三姫は、楽々転生サービス株式会社も就職候補の一つとして挙げてはいた。
 しかし、業界研究を進める度に聞こえてくる様々なトラブルの噂によって、面接を受けることさえなかった。
 
「お、楽転知ってんだ。でも、その表情じゃあ、あんまいいイメージ持ってなさそうだな」
 
「はい。おまけに、絶賛進行形でイメージが下がり続けています」
 
「かー! この自由さがわかんねえとは。さては君、堅物学級委員タイプだな?」
 
「だ、誰が堅物ですか!」
 
 睨み合う三姫と翔太の視線を遮るように弥太郎は移動し、改めて翔太に剣を突きつけた。
 
「で、どうするんだい? うちとしても穏便に済ませたいし、このまま何もせずに帰ってくれるなら、規則破って転移したことには目を瞑るけど」
 
 弥太郎からの妥協案を、翔太は鼻で嗤った。
 
「アホか。お前を蹴散らして、その悪役令嬢の首を頂いてから帰るわ。罰金払うことになっても、そっちの方が利益出っからな!」
 
 異世界転移に関する規則には、いくつも穴がある。
 公に異世界転移の存在を公表してないが故に、法律や条例として禁止事項を定義できていないこと。
 つまり、禁止事項はあくまでも異世界転移を扱う複数の団体によって決められた約束事にとどまり、罰則に法的な強制力がないこと。
 
 であれば、楽々転生サービス株式会社のような、業界の秩序を守ることに無頓着で、合法である限りは利益を出すことが優先という運営方針の会社が現れることも必然である。
 
「じゃあ、力づくで止めるしかないか」
 
 わかりきった答えを前に、弥太郎が剣を握る力を強めた。
 
「いいぜ、かかってこいよ。この五年間で、どのくらい強くなったか見せてみな!」
 
 弥太郎と翔太は、剣を構えて対峙した。
 処刑台の上で。
 
 
 
 
 
 
「おい! 貴様ら! 妾の存在を無視するでないわ!」
 
 否、フィリーの眼前で。
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