悪役令嬢転生の作り方

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第16話 セクシーズ・マキュラ

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「せーのっ!」
 
 三姫は、転移する機械の中で跳びはねた。
 三姫の体が転移して、着地した時には異世界の地を踏んでいた。
 
「……い、一回やってみたくて」
 
 周囲には誰もいないにも関わらず、三姫は言い訳するように空へ独り言を投げかけた。
 
 三姫の周囲には、いつも通りの異世界の空気が流れている。
 現代社会とは異なる、アスファルトが生み出す湯気も室外機が造り出す空気の残りカスもない。
 澄み渡った空気。
 葉が揺れ、鳥が囀るだけの、広がる自然れ。
 
 三姫はあたりを見渡した後、異世界を堪能するように鼻から空気を吸った。
 三姫の嗅細胞ははしゃぎまわり、嬉々として香しい空気の情報を脳へと運び出す。
 
「……ん?」
 
 が、三姫は香りに混ざる雑味に気づいた。
 美しい自然の香りに混ざって、人間の欲望が凝縮したようなどす黒い香りに。
 
 三姫は顔をしかめ、次は遠慮がちに空気を嗅いだ。
 
 瞬間、三姫の記憶が呼び覚まされる。
 大学時代、うっかりと嗅いでしまったアレを。
 交通手段の乱れで旅行を一日早く切り上げ、家に帰ったあの日。
 シェアハウスのルームメイトが、連れ込んでいた彼氏と裸でまさぐり合い、部屋中に充満させていたあの匂い。
 
「!?」
 
 三姫は叫びたくなる自分の口を咄嗟に抑え、声を押し込んで、即座に身を隠す。
 匂いがするということは、近くに誰かがいるということだ。
 よくも気色悪い物を嗅がせてくれたな、などという恨みも持ちながら、仕事優先で感情を押さえつける。
 二年目の三姫には、当たり前にできる技術だ。
 
 どこから匂いがきているのか。
 しぶしぶと三度目を嗅いで、匂いのする方向を割り出した。
 足音を殺し、忍者にでもなった気分で三姫は歩きだす。
 匂いの発生源に。
 
 近づけば近づくほど、匂いに声が混じって来る。
 男と女の喘ぐ声。
 三姫は吐きそうになりながら、これ以上近づくのは無理だと思い、双眼鏡を使って残りの距離を埋めた。
 
 双眼鏡が覗き見せたのは、一糸まとわぬ二人の男女。
 外だというのに誰にも遠慮することなく、二人は互いの体を隅から隅まで探り合い、性欲を満たし合っていた。
 三姫は、その顔に見覚えがあった。
 調達対象の悪役令嬢である。
 
 ところで、三姫は処女である。
 男女の情事は、シェアハウスのルームメイトとアダルト動画で履修したっきりである。
 
「うっわぁ……」
 
 故に、三姫がすぐさまその場を離れたのは、言うまでもない。
 他人の情事を見て興奮する性癖が、三姫にはなかった。
 
 匂いも声も届かなくなった場所で。三姫は改めて今回の調達対象の情報を確認する。
 悪役令嬢セクシーズ・マキュラ。
 趣味は性行為で、初体験は従兄。
 性欲が収まらない日はなく、毎日の夜がパーティだ。
 
 護衛、執事、守衛、誰であろうと構わない。
 赤ちゃんから年寄りまで、肉体があるならば幽霊でも構わない。
 そんな、雑食主義とも呼ぶべき、色の化身がセクシーズだ。
 
 社交界に出席するたび、男爵だろうが公爵だろうが食い散らかしてしまうセクシーズの存在は、マキュラ家にとって最大の悩みの種になっている。
 余りにも節操がなく、世の貴婦人立ちはセクシーズを嘲笑い、マキュラ家の没落を確信している。
 
 ただし、セクシーズが喰らった中には指先一つで世論を動かす男たちもいる訳で、マキュラ家の没落の下には無数のセーフティーネットが張られていることを誰も知らない。
 性欲によって夜を渡り歩く悪役令嬢。
 それが、セクシーズ・マキュラだ。
 
「ほんっと、最悪の調達対象。今までで一番最悪かも」
 
 一人離れた場所で、三姫は悪態をつく。
 
 セクシーズは、戦闘力を考えれば強くはない。
 色に溺れた結果、剣術の勉強も魔法の勉強もサボり続けている。
 もちろん、悪役令嬢という才能によって人並み以上の実力を持ってはいるのだが、人並み以上なだけであって、悪役令嬢並み未満でしかない。
 何人もの悪役令嬢と対峙してきた三姫にとっては、物足りない相手と言わざるを得ない。
 
「……ちょっと待って。時間止めるために、アレを監視し続けなくちゃいけないなの?」
 
 ただし、その性格の異常性は、過去の悪役令嬢の中でも随一。
 時間停止のタイミングを計るためには男女の情事を見続けなければならないことに気づいた三姫は、顔を青くしながら天を仰いでいた。
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