悪役令嬢転生の作り方

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第17話 セクシーズ・マキュラ2

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「なんだか、誰かに見られている気がするわぁ?」
 
「え?」
 
「んーん、気にしないでぇ。それはそれで、興奮するぢゃなぁい」
 
 セクシーズの悪役令嬢としての才能が、三姫の存在に感づいた。
 しかしセクシーズは、三姫の視線さえも自らの前戯へと取り入れて、吐息に熱を吹き込んだ。
 
 
 
「最悪!!」
 
 見たくもないものを見せつけられた三姫は、ドローンの映像を切った。
 ドローンはセクシーズから逃げるように離れていき、しばらくの後に三姫の手元へと戻って来た。
 
 時間を停止する準備も、セクシーズを調達する準備も万端だ。
 後は、タイミングを狙うだけ。
 だが、セクシーズは朝も昼も夜も誰かとまさぐり合っており、タイミングを図るために覗くと毎回情事の現場に出くわしていた。
 
 三姫の精神力はガリガリと削られて、時間停止のタイミングとして最適な場面が訪れたとしても、今から調達をしようとする気分にはなれなかった。
 
「なんで私の試験対象が、こんな……。神様、私に何の恨みがあるんですか……」
 
 昇格試験の相手となる悪役令嬢は、上の人間の会議によって決定される。
 そして多くの場合、昇格試験を受ける人間が苦手とする属性が混ぜられる。
 例えば、剣術に特化した人間であれば、確実に剣術で勝つことのできないほど実力差のある悪役令嬢か、魔法を使う悪役令嬢のどちらか。
 男嫌いの人間であれば、周囲に男性を常に囲っているような悪役令嬢。
 
 一つの苦手があっても調達できる、というのが新人を卒業するために見ているところだ。
 人生は、苦手なことを避けて通れない。
 ぶつかって潰れる人間ならば、早々に潰すのが双方のためだという、お上の考え。
 
 なお、弥太郎は三姫のことを、優秀だが効率と正しさを求めるふしがあると報告していた。
 そこからお上がはじき出したのが、一定の倫理観に欠けた、つまり正しくないと感じるだろう悪役令嬢だ。
 
「うぅ……」
 
 三姫はしばらく精神統一を図ったのち、覚悟を決めてセクシーズの監視を再開した。
 ドローンが飛び、三姫の手元に再びセクシーズの情事が映る。
 
 
 
 深夜。
 ベッドから起き上がったセクシーズは、隣で眠る男を一瞥した後で、用を足すために部屋を出る。
 わざわざ着替えるのも面倒だったので、ローブだけを身に纏った姿で。
 
「あらぁ?」
 
 瞬間、時間が停止し、世界が灰色に染まる。
 セクシーズはあたりを見渡した後、誰かに見られていたことを思い出した。
 
「そういうことぉ?」 
 
 セクシーズは、自身を監視していた人間が攻めてきたのだろう事実を想像し、周囲に不審者がいないか探し始める。
 
 視線をあちらこちらへと散らすセクシーズ目掛けて、三姫は遠くから銃口を向けた。
 廊下の直線距離に、遮蔽物はない。
 三姫は練習通り振舞うだけ。
 
 銃口より発せられた赤いレーザーが、セクシーズの体に映る。
 
「なんかぁ、まずそうねぇ」
 
 レーザーに気づいたセクシーズは、三姫が引き金を引く直前、本能に従って赤いレーザーから逃れるように駆け出した。
 そして、廊下の端に置かれていた彫刻台の裏に身を隠した。
 セクシーズが立っていた場所に銃弾が通過し、銃弾は廊下の果てへと飛んでいった。
 
「はずしたっ……!」
 
 いつもならば当てることができた距離。
 三姫は自身のコンディションが万全でないことを理解し、いったん銃を手元に戻し、廊下の曲がり角へと姿を隠した。
 
(失敗した、失敗した、失敗した。やっぱり、レーザーに頼らなくても当てれるようにしとけばよかった! でも、時間もなかったし)
 
 セクシーズは、一瞬だけ彫刻台から顔を出して、三姫が隠れているだろう曲がり角を確認する。
 そして、自身の下半身を撫でながら次の行動を思案する。
 
 セクシーズは弱い。
 少なくとも、時間停止するような未知の相手に、一人で挑んで勝つ自信がない程度には。
 よってセクシーズは、現時点での戦闘を避け、時間停止を先にどうにかすることにした。
 
 魔法とは、有効範囲と有効時間があるものだ。
 時間停止を魔法の一種と考えれば、術者から一定の距離をとるか、一定時間逃げ切ることができれば解除されるだろうと考えた。
 セクシーズは体を小さく丸めたまま、三姫のいる方向から離れるように三姫の死角を動いた。
 そして、死角の終わりに来ると、立ち上がって一気に駆け出した。
 
「あっ!」
 
 足音が、三姫にセクシーズの逃亡を伝える。
 三姫もまた、急いで曲がり角から飛び出して、セクシーズの後を追った。
 
 
 
 足音は途切れない。
 三姫とセクシーズの距離は縮まらない。
 三姫の懸念は、セクシーズの使う魔法だ。
 互いに逃げ続ければ互いに疲労を蓄積していくが、もしも疲労を回復する魔法が存在した場合、時間はセクシーズに味方する。
 
(あの時、仕留められてたら……!)
 
 三姫の後悔も、もはや意味がない。
 目の前の最善を求めて、三姫は走る。
 ひたすら廊下を走り、館内の奥へ入っていき、扉が開放された一つの部屋の部屋の前に辿り着いた。
 
(誘いこまれた?)
 
 ここは、セクシーズのテリトリー。
 三姫が、罠を警戒するのは当然である。
 一方、時間停止された世界では、人間の手で物を動かすことはできるが、仕組みによって物を動かすことができない。
 例えばドミノ倒しの一枚目を突っつくと、突っついた一枚目のドミノは倒れるが、一枚目のドミノがぶつかった二枚目のドミノは微動だにしない。
 罠とは基本的に、二枚目のドミノが倒れなければ成立しない。
 よって、三姫は罠が動く可能性は低いと考え、部屋の中に飛び込んだ。
 そして、銃を構えてセクシーズを探した。
 
 部屋の中にあったのは、大きなテーブルに椅子。
 床に置かれたナイフと、床に無造作に置かれたロープ。
 そして、火の付いていない暖炉と、暖炉の奥に開いた穴。
 
「やられた!」
 
 大きな屋敷になれば、緊急時の脱出口があることなど一般的だ。
 三姫が暖炉の奥の穴を覗き込むと、細い通路が伸びており、奥には階段のような段差があった。
 
 三姫は部屋中を見渡し、現状を把握した。
 
 セクシーズは、罠にかけるつもりで三姫をこの部屋へとおびき出した。
 が、罠の起点となる『ナイフでロープを切る』ということに失敗し、ナイフを捨てて脱出口からの脱出へと切り替えたのだ。
 
「どうする? 追う? いや、でも、もしも待ち伏せされていたら」
 
 三姫にできるのは二択である。
 セクシーズを追って脱出口に入るか、入らず脱出口の出口を外から探すか。
 前者であれば確実に追いつけるだろうが、脱出口の出口、あるいは脱出口の中で待ち伏せされる危険性がある。
 後者であればドローンを飛ばして時間をかければ見つけることはできるだろうが、発見するまで時間停止が続いてくれるとは限らない。
 
 時間停止も、永遠ではない。
 機械のバッテリーがきれれば、それで終わりだ。
 
「……どうするか五秒で決めるわよ、私!」
 
 三姫は脱出口を睨みつけながら、今日一番の頭の回転を見せた。
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