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第19話 中途社員
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六月。
三姫は無事に新人の期間を終え、一般社員として扱われるようになった。
同時に、弥太郎が以前より口にしていた中途採用の社員が会社へとやって来た。
「初めまして。城之内歩果と申します」
歩果は真剣な目つきで自身を囲む社員全員を見た後、ふかぶかと頭を下げた。
まるでマナー講師の講座のような、美しいお辞儀だった。
「城之内さんは、前職では派遣会社に勤めていて、派遣先の一つで転生業務にも携わったことがあるらしい」
「はい。具体的な企業名は守秘義務があるのでお伝えすることはできませんが、大手の転生企業様とお仕事をさせていただき、調達の経験も何度かあります」
直人からの紹介に乗っかり、歩果はここぞとばかりに自身の経歴をアピールする。
悪役令嬢転生株式会社では、中途採用の社員に対して、三か月の試用期間を設けている。
つまり、三か月以内に有用だと判断されなければ、採用が取り消される可能性もある。
経歴のアピールは、歩果の今後に直結する大事な仕事だ。
悪役令嬢転生会社に、新しい人材が来ることは珍しい。
社員たちは好奇心から、次々と質問を飛ばす。
「城之内さんって何歳? あ、これ、今はセクハラになるのか」
「二十八です。履歴書にも書いてますし、隠すようなことではありません」
「姿勢、めっちゃ綺麗ですけど、何かやってたんですか?」
「前職で、マナー講師のお仕事をしたこともありますので、意識するようにはなりました」
歩果はまるで記者会見の応答の様に、跳んでくる質問を捌いていく。
凛とした表情で、淡々と。
「はーい、そこまで。今、業務時間だからね。質問があれば、休み時間にしてね」
質問が五つは飛んだところで、放っておくといつまでも終わりそうにないと判断した直人が、質問を遮った。
質問ができなかった社員たちは不服そうではあったが、課長の言葉の方に理があったため、しぶしぶと自分の席へ戻って仕事を再開した。
残されたのは、直人と歩果、そして弥太郎と三姫。
直人は弥太郎の背中を押して、歩果の前へと誘導した。
「こいつが、天馬弥太郎くん。しばらく、城之内さんのサポーターをしてもらおうと思ってる」
「わかりました」
「初耳なんですけど!?」
サポーター。
中途採用された社員につけられる一時的な上司で、業務に関する質問や相談の受付先となる存在だ。
弥太郎が丸い目で直人を見ると、直人はさっと目をそらして、速足で自席へと戻っていった。
「……はあ」
追いかけたい気持ちもあったが、弥太郎は言いたいことをいったん飲み込んで、改めて歩果に挨拶した。
「とりあえず、よろしく。天馬です。年は三十で、城之内さんと近いから、気軽に話してくれて大丈夫だからね」
「わかりました。天馬先輩、よろしくお願いします」
「……硬くない?」
「上下関係は大切です。天馬先輩は私の上司となりますので」
「まあ、好きにしてくれ」
挨拶を終えた弥太郎は、視線で三姫に挨拶をするように促す。
視線を受けた三姫は、弥太郎の隣に立ち、ぺこりと頭を下げた。
「清水三姫です。二年目です。よろしくお願いします」
三姫の言葉を聞いた歩果は、一瞬表情を硬くし、考える。
社会人歴と年齢を考えると、歩果の方が上。
派遣社員とは言え転生業務に関わった合計時間も、歩果の方が上。
だが、悪役令嬢転生株式会社においては、三姫の方が上。
であれば、三姫を上司として扱うか部下として扱うかを悩んだ。
「よろしくお願いします、清水さん」
悩んだ末、歩果は三姫を対等として扱った。
悪役令嬢転生株式会社としては上司だが、経験は自分の方が上だという自負から、丁寧語で収まる相手だと判断した。
「うち、女性少ないから、なんか男の人に話しにくいこととかあったら、彼女に相談してよ」
「わかりました」
自席へと案内された歩果は、荷物を全て置くとすぐに、弥太郎のところへと戻って来た。
「天馬先輩。私はまず、何をすればよろしいでしょうか?」
直前までサポーターとなることを知らされていなかった弥太郎は、当然準備などできているはずもなく、困った表情で歩果の方を向く。
「城之内さん、最後に調達したのはいつ?」
「二年程前ですかね」
「相手は?」
「悪役令嬢と幼少王子が多かったでしたね」
「悪役令嬢は、どんなタイプだった? 剣術に長けてるとか、魔術に長けてるから」
「どちらもいましたが、剣術に長けた悪役令嬢の調達経験の方が多いですね」
「なるほどねー」
弥太郎はキャビネットから一冊の冊子を取り出し、歩果の前へと置いた。
「天馬先輩、これは?」
「最新の武器リスト。二年前から性能が変わっている武器もあるから、目を通しといてよ」
「わかりました」
「それと、しばらくは清水さんの書類仕事も手伝ってもらおうかな。調達の申請はやったことあると思うけど、二年前とフォーマット変わっちゃってるしさ」
「……わかりました」
冷静ではあるが、やや不服を含みながら、歩果は答え、三姫の元に向かって三姫から書類仕事を引き受けていた。
歩果が来たときの、三姫から弥太郎に向かった「え、聞いてない」という視線は随分と鋭かった。
歩果は三姫の依頼の元、真面目に書類仕事をこなし、空いた時間で武器のリストが載った冊子をパラパラと眺めていた。
「天馬先輩、書類は終わりました。次は何をしましょう」
「そうだなー。武器のリスト、全部読んだ?」
「軽くは読みましたが、だいたい知っている情報通りでした」
「ふーん」
報告を受けながら、弥太郎は感じ取っていた。
歩果の視線が、私に調達業務をさせろ、と強く訴えていることに。
と。
弥太郎は頭を掻きながら考えこんだ後、キャビネットから一枚の書類を取り出して、歩果へと渡した。
「これ。本当は清水さんと行く予定だった調達の仕事があるんだけど、城之内さん、やってみ」
「やります!」
考えた末に出したのは、やりたいのならばやらせてみようという、何とも突き放した結論だった。
何故なら、歩果は二十八歳。
新人と呼んで手厚いサポートをするには、少し年を取り過ぎていた。
三姫は無事に新人の期間を終え、一般社員として扱われるようになった。
同時に、弥太郎が以前より口にしていた中途採用の社員が会社へとやって来た。
「初めまして。城之内歩果と申します」
歩果は真剣な目つきで自身を囲む社員全員を見た後、ふかぶかと頭を下げた。
まるでマナー講師の講座のような、美しいお辞儀だった。
「城之内さんは、前職では派遣会社に勤めていて、派遣先の一つで転生業務にも携わったことがあるらしい」
「はい。具体的な企業名は守秘義務があるのでお伝えすることはできませんが、大手の転生企業様とお仕事をさせていただき、調達の経験も何度かあります」
直人からの紹介に乗っかり、歩果はここぞとばかりに自身の経歴をアピールする。
悪役令嬢転生株式会社では、中途採用の社員に対して、三か月の試用期間を設けている。
つまり、三か月以内に有用だと判断されなければ、採用が取り消される可能性もある。
経歴のアピールは、歩果の今後に直結する大事な仕事だ。
悪役令嬢転生会社に、新しい人材が来ることは珍しい。
社員たちは好奇心から、次々と質問を飛ばす。
「城之内さんって何歳? あ、これ、今はセクハラになるのか」
「二十八です。履歴書にも書いてますし、隠すようなことではありません」
「姿勢、めっちゃ綺麗ですけど、何かやってたんですか?」
「前職で、マナー講師のお仕事をしたこともありますので、意識するようにはなりました」
歩果はまるで記者会見の応答の様に、跳んでくる質問を捌いていく。
凛とした表情で、淡々と。
「はーい、そこまで。今、業務時間だからね。質問があれば、休み時間にしてね」
質問が五つは飛んだところで、放っておくといつまでも終わりそうにないと判断した直人が、質問を遮った。
質問ができなかった社員たちは不服そうではあったが、課長の言葉の方に理があったため、しぶしぶと自分の席へ戻って仕事を再開した。
残されたのは、直人と歩果、そして弥太郎と三姫。
直人は弥太郎の背中を押して、歩果の前へと誘導した。
「こいつが、天馬弥太郎くん。しばらく、城之内さんのサポーターをしてもらおうと思ってる」
「わかりました」
「初耳なんですけど!?」
サポーター。
中途採用された社員につけられる一時的な上司で、業務に関する質問や相談の受付先となる存在だ。
弥太郎が丸い目で直人を見ると、直人はさっと目をそらして、速足で自席へと戻っていった。
「……はあ」
追いかけたい気持ちもあったが、弥太郎は言いたいことをいったん飲み込んで、改めて歩果に挨拶した。
「とりあえず、よろしく。天馬です。年は三十で、城之内さんと近いから、気軽に話してくれて大丈夫だからね」
「わかりました。天馬先輩、よろしくお願いします」
「……硬くない?」
「上下関係は大切です。天馬先輩は私の上司となりますので」
「まあ、好きにしてくれ」
挨拶を終えた弥太郎は、視線で三姫に挨拶をするように促す。
視線を受けた三姫は、弥太郎の隣に立ち、ぺこりと頭を下げた。
「清水三姫です。二年目です。よろしくお願いします」
三姫の言葉を聞いた歩果は、一瞬表情を硬くし、考える。
社会人歴と年齢を考えると、歩果の方が上。
派遣社員とは言え転生業務に関わった合計時間も、歩果の方が上。
だが、悪役令嬢転生株式会社においては、三姫の方が上。
であれば、三姫を上司として扱うか部下として扱うかを悩んだ。
「よろしくお願いします、清水さん」
悩んだ末、歩果は三姫を対等として扱った。
悪役令嬢転生株式会社としては上司だが、経験は自分の方が上だという自負から、丁寧語で収まる相手だと判断した。
「うち、女性少ないから、なんか男の人に話しにくいこととかあったら、彼女に相談してよ」
「わかりました」
自席へと案内された歩果は、荷物を全て置くとすぐに、弥太郎のところへと戻って来た。
「天馬先輩。私はまず、何をすればよろしいでしょうか?」
直前までサポーターとなることを知らされていなかった弥太郎は、当然準備などできているはずもなく、困った表情で歩果の方を向く。
「城之内さん、最後に調達したのはいつ?」
「二年程前ですかね」
「相手は?」
「悪役令嬢と幼少王子が多かったでしたね」
「悪役令嬢は、どんなタイプだった? 剣術に長けてるとか、魔術に長けてるから」
「どちらもいましたが、剣術に長けた悪役令嬢の調達経験の方が多いですね」
「なるほどねー」
弥太郎はキャビネットから一冊の冊子を取り出し、歩果の前へと置いた。
「天馬先輩、これは?」
「最新の武器リスト。二年前から性能が変わっている武器もあるから、目を通しといてよ」
「わかりました」
「それと、しばらくは清水さんの書類仕事も手伝ってもらおうかな。調達の申請はやったことあると思うけど、二年前とフォーマット変わっちゃってるしさ」
「……わかりました」
冷静ではあるが、やや不服を含みながら、歩果は答え、三姫の元に向かって三姫から書類仕事を引き受けていた。
歩果が来たときの、三姫から弥太郎に向かった「え、聞いてない」という視線は随分と鋭かった。
歩果は三姫の依頼の元、真面目に書類仕事をこなし、空いた時間で武器のリストが載った冊子をパラパラと眺めていた。
「天馬先輩、書類は終わりました。次は何をしましょう」
「そうだなー。武器のリスト、全部読んだ?」
「軽くは読みましたが、だいたい知っている情報通りでした」
「ふーん」
報告を受けながら、弥太郎は感じ取っていた。
歩果の視線が、私に調達業務をさせろ、と強く訴えていることに。
と。
弥太郎は頭を掻きながら考えこんだ後、キャビネットから一枚の書類を取り出して、歩果へと渡した。
「これ。本当は清水さんと行く予定だった調達の仕事があるんだけど、城之内さん、やってみ」
「やります!」
考えた末に出したのは、やりたいのならばやらせてみようという、何とも突き放した結論だった。
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