純白の少女と烈火の令嬢と……

はの

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「と、いうわけで、ちゃんと言われたことはやったわよ」
 
「ありがとう、助かるわ」
 
 ルビーとエメラルドは、再び仲良く謹慎室に座っていた。
 先程と違う点があるとすれば、謹慎室の中には魔法学院の教師が見張りとして立っていることと、ルビーが制服の上から魔法を封じる拘束具を付けられていることだろう。
 シトリン商会製の拘束具。
 首、右手、左手、右脚、左脚、腹の計六か所につけることで、対象の魔力の流れを阻害し、魔法を封じることができる。
 拘束具の数が多いため、戦闘には不向きだ。
 そのうえ、効力が一時間しかもたないため、一時間に一回交換が必要というコスパの悪さ。
 使いどころは非常に限られる一品だ。
 
 現在のルビーのように、拘束されることに協力的で、しかし突然暴れ出す危険性のある相手でなければ使われることはない。
 
 なさけない格好でにこにこと微笑むルビーを見て、エメラルドはため息を零す。
 
「あんた、これでいいの?」
 
「これってどれよ?」
 
「ダイヤモンドの正体暴いたり、シトリンを説得させるために動いたり、色々とやったのあんたでしょー? なのに、最後の仕上げの美味しいところだけは、他の人たちにとられてるじゃないー」
 
「なんだ、そんなこと」
 
 エメラルドの質問に、ルビーは少し噴き出して返す。
 多少なりとも心配からの発言だったエメラルドは、ルビーの返答が気に食わず、怒りと恥で少しだけ顔を赤らめる。
 
「そんなことってなによー! あんたの手柄がなくなるのを心配して言ってやってんのよー!」
 
 エメラルドは名誉と権力に貪欲だ。
 否、貴族であれば、当然に必要な欲だ。
 だから、エメラルドの反応は正しい。
 
「いいのよ別に。ダイヤが助かるなら、私は何でも」
 
 しかし、自身の名誉に無欲であり、ただ友達のためにと動くルビーの反応も正しい。
 
「むうー」
 
「それに」
 
「それにー?」
 
「ヒロインを助けるのは、いつだって王子様の役目でしょう? 友達の女の子は、きっかけ作りで十分なのよ」
 
「わけわかんないわー」
 
 ルビーは窓から外を見る。
 当然オニキスの姿を見ることはできないが、見えずともルビーは知っていた。
 オニキスが、シトリン協力の元、ダイヤモンドを助けに動いているだろうことを。
 ルビーは何も恐れることなく、安心した表情で笑った。
 
「ルビー様、なぜ外を? まさか、また逃げようとしているのではありませんよね? ん??」
 
「ゴ、ゴメンナサーイ」
 
 そしてすぐに、反省の表情を作った。
 
 
 
 オニキス、トパーズ、アメシスト、シトリン、サファイアの五人は、ダイヤモンドの部屋へと来ていた。
 扉は破壊され、苦し紛れに板を立てかけロープを張ってはいるが、誰も入れないと言うことはない。
 
 ダイヤモンドの希望で、ダイヤモンドの部屋から私物を全て持ち出し、王宮の一室へと移動させる話も出はした。
 が、オニキスがルビーの罰を決める際に部屋の被害状況も考慮する必要があるという建前で現場保全を主張し、一切を私物を動かさせなかった。
 どころか、ダイヤモンド本人の立ち入りすら禁じた。
 ダイヤモンドの婚約者、そして王族という地位は、強引とも呼べる措置を容易に実現できた。
 
 つまり、ダイヤモンドの部屋を訪れた五人は、現場を検証する五人。
 ダイヤモンドの婚約者であり、ルビーの狼藉を許せないと自称するオニキス。
 高度な調査を実行できる魔道具を有するシトリン。
 そして、オニキスが信用する三人。
 
 五人は、悠々と入室を許可された。
 
「これだ」
 
 オニキスが指すベッドの下を、シトリンが覗き込む。
 
「この魔道具は、確かにシトリン協会で開発したものですね。ベッドに描かれた魔法陣向けにカスタマイズした、魔力なしで魔法の発動を継続するための魔道具です」
 
「誰が購入した物だ?」
 
「ピケ様、ですね」
 
「ピケ?」
 
「王宮魔術医ですよ」
 
「……そうか」
 
 オニキスは、顔をしかめる。
 想像通りの名前に対し、より憎悪を膨らませたため。
 そして、王宮魔術医の言葉の意味をようやく理解したため。
 
 ――まさか私ごときを覚えていたとは恐縮ですよ。名前さえ覚えていない私ごときを……ね。
 
 オニキスは、王宮魔術医の名前を今の今まで知らなかったことを、はっきりと思い出した。
 否、何度か聞いていたのだろうが、オニキスの頭の中には残っていなかった。
 ジュラルミンとダイヤモンドの件、事件を起こしたのは王宮魔術医だ。
 絶対的な悪は王宮魔術医であり、オニキスは加害者ではなく被害者と言える。
 しかし、王宮魔術医の凶行の一因がオニキスの無関心にあるとすれば、オニキスは自身も加害者の一部ではないかと自身を責めた。
 
 王族として民を見ていたはずが、民という全体を見ていただけで個を見ていなかった自身に、言いようもない吐き気を催した。
 が、王族としての精神力により、オニキスは感情と行動を切り分けて、すぐに前を向いた。
 
「それで、この魔道具の効果を止めることはできるのか?」
 
「可能でしょう。ですが……」
 
「ですが、なんだ?」
 
「私も魔法陣の全てを把握している訳ではないのですが、この魔法陣は一定時間の継続発動をもって魔法の発動を終了する設計になっています」
 
「っ……! つまり、すでに手遅れの可能性があるという訳か!」
 
「はい」
 
 魔法陣には二つのタイプがある。
 即時型と継続型。
 即時型は名前の通り、即時に魔法を発動させる。
 例えば、炎を放ったり、土の塊を作ったりだ。
 対し、継続型は魔力を加え続けることで発動し続ける。
 例えば、炎を放ち続けたり、土壁を何時間も維持できる。
 
 継続型は、壁を維持する用途としても用いられるが、それ以上に呪いと呼ばれる類の魔法に使われることが多い。
 例えば、十日以上発動し続けることで、対象者の体内に病気を引き起こす魔法。
 一度病気ができてしまえば、病気は魔法と独立して存在するため、魔法を止めても実質効果が継続される、といった具合だ。
 
 ダイヤモンドの場合に当てはめれば、転生した王宮魔術医の魂がダイヤモンドの体に定着するまで魔法が発動し続け、定着してしまえば魔法陣などどうなっても構わないということ。
 
 オニキスは、改めて魔法陣を確認する。
 
 
 
 魔法陣の発動は、既に止まっていた。
 転生は、完成していた。
 
 
 
「くそぉっ!!」
 
 オニキスの叫びが、部屋に響く、
 それだけで、トパーズも、アメシストも、サファイアも理解した。
 ダイヤモンドは元に戻せない、その事実が。
 
 完成した魔法を無効にしたところで、元の状態に戻らない。
 炎の魔法で燃やした草木が、魔法を止めたところで燃える前の状態に戻らないように。
 
 絶望が、オニキスを襲う。
 絶望が、トパーズを襲う。
 絶望が、アメシストを襲う。
 絶望が、サファイアを襲う。
 
「この魔法陣、転生の魔法と言いましたよね? 発動者の意識で対象者の体を乗っ取る魔法だと」
 
「あ、ああ」
 
 この場において、絶望に染まらなかった人間は、シトリンただ一人。
 ダイヤモンドという存在よりも、魔法陣と魔道具について関心を持つシトリンただ一人。
 
 完成した魔法を無効にしたところで、元の状態に戻らない。
 炎の魔法で燃やした草木が、魔法を止めたところで燃える前の状態に戻らないように。
 ただし、元の状態に類似した状態に戻すことはできる。
 炎の魔法で周囲に炎が燃え広がるなら、水の魔法で炎を消してやれば良い。
 草木が燃えてなくなったなら、植物の魔法で再び草木を生やしてやれば良い。
 
 結果と過程が分かれば、逆走はできる。
 ダイヤモンドの中に王宮魔術医の意識が存在するという結果と、魔法陣の描写内容という過程が分かれば、逆走はできる。
 
 魔法陣は王宮魔術医の自作であり、正確に魔法陣の描写内容を理解しているのは王宮魔術医ただ一人。
 が、転生の魔法陣に対応した魔道具を開発するために、魔法陣の細部を理解する必要のあったシトリンもまた、王宮魔術医に及ばないものの描写内容を理解している。
 
「大丈夫です、戻せます」
 
 魔法陣の効果を逆に発動させる魔道具を、即興で開発することができるくらいには。
 
 シトリンは魔道具を一つ手に取ると、自身の魔力を流し込んで魔道具の内部を変えていく。
 魔道具の仕組みは商売のタネ。
 シトリン商会の魔道具は、シトリン商会の一部の人間しか把握していない。
 シトリン商会の当主であるシトリンも当然、一部の人間に該当する。
 魔道具の改修など朝飯前である。
 
「何を、している?」
 
「対象者の体を乗っ取る魔法陣を逆発動して、対象者の体に正しい魂を入れる魔法を発動させませ」
 
「そんなことが?」
 
「できます」
 
 シトリン以外の四人は、シトリンの行動を見守ることしかできない。
 シトリンの行動の意味は、四人には理解できない。
 しかし、シトリンの行動がもたらしてくれるだろう結果については、四人ともが共通の理解をしていた。
 
「逆発動の魔法具、完成しました」
 
 シトリンは、改修した魔道具をセットし、転生の魔法陣を逆に発動させた。
 
 
 
 魔法陣は正しく起動し、世界を元へと戻し始めた。
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