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第15話 カツレツ
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「んんーっ!?」
ピンク色の断面から溢れ出る透明な肉汁が、向晴の味覚を刺激する。
向晴がゆっくりとカツレツを噛みしめると、薄い衣からは想像できないほどのサクサクとした食感をもって答えてくれる。
噛まれた拍子に変形したカツレツからは、ダムが決壊したように肉汁が次々と溢れ出し、味覚が五感の全てを支配した。
「この肉質はいったい? 今まで食べた豚肉と、何かが違う。ジューシーさ? いいえ、それだけじゃないわ。もっとこう、何かが」
向晴は新たにカツレツを一つ掴み、その断面を眺める。
断面には、小さなピンク色の大陸が広がっていた。
「わかったわ! このお肉、脂身が極端に少ない!」
「気づかれましたか、お嬢様。それこそが、『ぽん多本家』のカツレツの特徴。脂身と余分な筋をそぎ落として、ロースの芯だけを衣で包むことで、肉本来の味を最大限に引き出しているのです!」
脂身とは、美味しさの増強剤である。
脂は口の中で、脂肪酸とグリセリンに分解される。
そして、脂肪酸は食べ物が持つ旨味を増幅させる効果がある。
事実、豚肉の質を評価する時、脂の甘さや質を見ることは珍しくない。
では、何故美味しさの増強剤である脂身をそぎ落とすのかと言うと、脂身と赤身では揚がる時間が異なるからだ。
赤身が揚がる時間は、脂身にとって揚げ足りない。
脂身が揚がる時間は、赤身にとって揚げすぎる。
つまり、どちらかの最高は、どちらかの過不足になってしまうのだ。
故に、『ぽん多本家』では、脂身をそぐ。
赤身だけであれば、肉全体の最高を満たすことも容易である。
「なるほどね。でも、脂身をそぎ落としてしまえば、旨味が落ちてしまうのでは?」
「甘いですね、お嬢様。脂身をそぎ落とすとは言いましたけど、脂身を捨てるとは言ってませんよ?」
「も、もしかして、この脂身を」
「もちろん、使います! そぎ落とした脂身は、自家製ラードの材料にして、揚げ油とするのです!」
「……っ! つまり、旨味は……っ!」
「はい。油を通して、ちゃんと肉の中に閉じ込められます」
初代の考えた、自家製ラード。
これにより、脂身と言う増強剤を残し、カツレツ全体にコクを乗せることに成功した。
曰く、カツレツには、肉だけではなく揚げ油も重要。
寿司で例えるならば、どんなに良い魚を使ったとしても、酢飯が美味しくなければ、寿司全体としては美味しくなくなるように。
あっさりとしたカツレツを飲み込んだ向晴の箸は、自然とカツレツに添えられたキャベツの千切りへと伸びる。
向晴の口の中で、キャベツがシャクシャクと音を立てて消える。
「これも……っ!」
繰り返すが、ここはカツレツ屋ではなく洋食屋だ。
カツレツが最高であれば、キャベツも最高なのだ。
キャベツは芯を丁寧に切り取って、硬い部分を残さない。
さらに、葉脈を垂直に切ることで、舌触り良く仕上げている。
向晴の箸が、縦横無尽に動く。
カツレツへ。
キャベツへ。
ご飯へ。
赤だしへ。
おしんこへ。
本能の赴くままに、体が動く。
カツレツを飲み込んだはずが、逆に向晴の意識が飲み込まれていく。
「ああああああああああん!!」
妄想の中で、赤いドレスを着飾った向晴は踊っていた。
美味しさを舞いで表現するように、くるくると。
赤いドレスは無数の花びらがくっついて作られており、向晴が一歩足を出すたびに、ひらひらと揺れる。
そんな向晴に近づいてくるのは、料理人たち。
料理人たちに気づいた向晴は踊るのを止め、一歩下がって、距離をとろうとする。
が、前にも後ろにも左右にも、料理人たちは立っていた。
ゆっくりと近づき、ゆっくりと向晴を囲んでいく。
向晴が逃げられないようにする。
向晴の体は優しく掴まれ、一人の料理人が包丁を取り出す。
そして、向晴の赤いドレスに対して、繊細な手つきで撫でて削ぐ。
花びらが落ちていく。
一枚。
二枚。
包丁を取り出す料理人が、一人二人と増えていく。
同時に落ちる花びらの数が、一枚二枚と増えていく。
赤がなくなり、現れるのは白い肌。
人間の芯である体一枚が創り上げる、純白。
「まさに、無駄のない裸一貫の美味しさ!!」
「お嬢様、一つだけ不服が御座います」
満足そうな表情で立つ向晴に、のび田が不服そうな表情で言う。
「裸一貫と言うのならば、下着までちゃんと脱いでいただかないと」
「……はっ!?」
向晴が咄嗟に目を開く。
肌寒さを感じたので、下を向いて自分の状況を確認する。
足元にあるのは、先程まで着ていたはずのドレスだ。
脱いだというより、まるでドレスが体をすり抜けて落ちたように散らばっている。
当然、着ていたはずのドレスが床にあるということは、向晴が身に着けているのは下着のみだ。
向晴が視線を前に向けると、のび田がじっと向晴を見ていた。
「下着も白いのだけは評価できますが」
「きゃーーーーっ!?」
向晴のビンタが、のび田の頬を撃ち抜いた。
のび田は抵抗することなく、横に傾いて床に倒れた。
「ふ、不覚! 私としたことが!」
向晴は床に散らばったドレスを拾い上げ、そそくさと身に着けていく。
幸運なのは、向晴一人で着ることのできる簡易なドレスだったことだろう。
「お嬢様、痛いです」
「こっち見るな! 向こうむいてなさい!」
着替え終えた向晴はソファに座り直して、今回の反省点を整理する。
今までも、向晴はリアクションをとることはあった。
しかし、服がはだけることはなかった。
二度と同じことを起こさないように、向晴は考える。
今までにあって、今回はなかったことを。
「……あ」
思い至ると同時に、部屋に兆老が入ってきた。
「すみませんお嬢様、思った以上に駐車場を見つけるのに時間がかかってしまい……おや?」
そして兆老は、テーブルの上に置かれた完食済みの皿を見ると、向晴とのび田を凝視した。
「ま、まさか……食べ終えてしまわれたのですか? 私を放っておいて!? お嬢様、それはあまりにも」
「お前かーーーっ!!」
が、兆老の切なる叫びは、向晴の燃え滾る叫びによってかき消された。
向晴から怒鳴られる理由が分からない兆老は、突然のことに困惑して、あんぐりと口を開けた。
「お、お嬢様?」
「貴方がいれば! 私は! 今日! こんな辱めを受けることはなかったわ!」
「お嬢様!? 辱め? いったい何が」
「カツレツ美味しかったです! ご馳走様でした! 私は帰ります! 一人で帰ります! 誰もついてこないで!!」
怒った表情を崩さないまま、部屋を出ていく向晴。
何故か壁の方を向いているのび田。
兆老はまったく状況がつかめなかったが、執事長としての立場が自然と兆老の足を動かした。
「のび太君、説明してくれるかな?」
「ひえっ!?」
話は変わるが、『ぽん多本家』は創業当時、ハレの日に使われる高級店だった。
客は予約客のみで、料理はコースのみ。
つまりは当時の最先端だ。
昭和に入ってアラカルト料理を提供するようになり、要望に応じて『ご飯・赤だし・おしんこ』をつけるようになった。
そのスタイルが、今なお令和に受け継がれている。
令和の家庭では、ご飯を主食にハンバーグやオムレツと言う洋食を食べることなど、日常だ。
ご飯に合う洋食。
そんな『ぽん多本家』の創業時の使命は、きっと果たされた。
ならば次の使命は、明治より続く味をいつまでも提供し続けることなのかもしれない。
伝統の味は上野の地で、今日も客を待っている。
今までも。
そして、これからも。
ピンク色の断面から溢れ出る透明な肉汁が、向晴の味覚を刺激する。
向晴がゆっくりとカツレツを噛みしめると、薄い衣からは想像できないほどのサクサクとした食感をもって答えてくれる。
噛まれた拍子に変形したカツレツからは、ダムが決壊したように肉汁が次々と溢れ出し、味覚が五感の全てを支配した。
「この肉質はいったい? 今まで食べた豚肉と、何かが違う。ジューシーさ? いいえ、それだけじゃないわ。もっとこう、何かが」
向晴は新たにカツレツを一つ掴み、その断面を眺める。
断面には、小さなピンク色の大陸が広がっていた。
「わかったわ! このお肉、脂身が極端に少ない!」
「気づかれましたか、お嬢様。それこそが、『ぽん多本家』のカツレツの特徴。脂身と余分な筋をそぎ落として、ロースの芯だけを衣で包むことで、肉本来の味を最大限に引き出しているのです!」
脂身とは、美味しさの増強剤である。
脂は口の中で、脂肪酸とグリセリンに分解される。
そして、脂肪酸は食べ物が持つ旨味を増幅させる効果がある。
事実、豚肉の質を評価する時、脂の甘さや質を見ることは珍しくない。
では、何故美味しさの増強剤である脂身をそぎ落とすのかと言うと、脂身と赤身では揚がる時間が異なるからだ。
赤身が揚がる時間は、脂身にとって揚げ足りない。
脂身が揚がる時間は、赤身にとって揚げすぎる。
つまり、どちらかの最高は、どちらかの過不足になってしまうのだ。
故に、『ぽん多本家』では、脂身をそぐ。
赤身だけであれば、肉全体の最高を満たすことも容易である。
「なるほどね。でも、脂身をそぎ落としてしまえば、旨味が落ちてしまうのでは?」
「甘いですね、お嬢様。脂身をそぎ落とすとは言いましたけど、脂身を捨てるとは言ってませんよ?」
「も、もしかして、この脂身を」
「もちろん、使います! そぎ落とした脂身は、自家製ラードの材料にして、揚げ油とするのです!」
「……っ! つまり、旨味は……っ!」
「はい。油を通して、ちゃんと肉の中に閉じ込められます」
初代の考えた、自家製ラード。
これにより、脂身と言う増強剤を残し、カツレツ全体にコクを乗せることに成功した。
曰く、カツレツには、肉だけではなく揚げ油も重要。
寿司で例えるならば、どんなに良い魚を使ったとしても、酢飯が美味しくなければ、寿司全体としては美味しくなくなるように。
あっさりとしたカツレツを飲み込んだ向晴の箸は、自然とカツレツに添えられたキャベツの千切りへと伸びる。
向晴の口の中で、キャベツがシャクシャクと音を立てて消える。
「これも……っ!」
繰り返すが、ここはカツレツ屋ではなく洋食屋だ。
カツレツが最高であれば、キャベツも最高なのだ。
キャベツは芯を丁寧に切り取って、硬い部分を残さない。
さらに、葉脈を垂直に切ることで、舌触り良く仕上げている。
向晴の箸が、縦横無尽に動く。
カツレツへ。
キャベツへ。
ご飯へ。
赤だしへ。
おしんこへ。
本能の赴くままに、体が動く。
カツレツを飲み込んだはずが、逆に向晴の意識が飲み込まれていく。
「ああああああああああん!!」
妄想の中で、赤いドレスを着飾った向晴は踊っていた。
美味しさを舞いで表現するように、くるくると。
赤いドレスは無数の花びらがくっついて作られており、向晴が一歩足を出すたびに、ひらひらと揺れる。
そんな向晴に近づいてくるのは、料理人たち。
料理人たちに気づいた向晴は踊るのを止め、一歩下がって、距離をとろうとする。
が、前にも後ろにも左右にも、料理人たちは立っていた。
ゆっくりと近づき、ゆっくりと向晴を囲んでいく。
向晴が逃げられないようにする。
向晴の体は優しく掴まれ、一人の料理人が包丁を取り出す。
そして、向晴の赤いドレスに対して、繊細な手つきで撫でて削ぐ。
花びらが落ちていく。
一枚。
二枚。
包丁を取り出す料理人が、一人二人と増えていく。
同時に落ちる花びらの数が、一枚二枚と増えていく。
赤がなくなり、現れるのは白い肌。
人間の芯である体一枚が創り上げる、純白。
「まさに、無駄のない裸一貫の美味しさ!!」
「お嬢様、一つだけ不服が御座います」
満足そうな表情で立つ向晴に、のび田が不服そうな表情で言う。
「裸一貫と言うのならば、下着までちゃんと脱いでいただかないと」
「……はっ!?」
向晴が咄嗟に目を開く。
肌寒さを感じたので、下を向いて自分の状況を確認する。
足元にあるのは、先程まで着ていたはずのドレスだ。
脱いだというより、まるでドレスが体をすり抜けて落ちたように散らばっている。
当然、着ていたはずのドレスが床にあるということは、向晴が身に着けているのは下着のみだ。
向晴が視線を前に向けると、のび田がじっと向晴を見ていた。
「下着も白いのだけは評価できますが」
「きゃーーーーっ!?」
向晴のビンタが、のび田の頬を撃ち抜いた。
のび田は抵抗することなく、横に傾いて床に倒れた。
「ふ、不覚! 私としたことが!」
向晴は床に散らばったドレスを拾い上げ、そそくさと身に着けていく。
幸運なのは、向晴一人で着ることのできる簡易なドレスだったことだろう。
「お嬢様、痛いです」
「こっち見るな! 向こうむいてなさい!」
着替え終えた向晴はソファに座り直して、今回の反省点を整理する。
今までも、向晴はリアクションをとることはあった。
しかし、服がはだけることはなかった。
二度と同じことを起こさないように、向晴は考える。
今までにあって、今回はなかったことを。
「……あ」
思い至ると同時に、部屋に兆老が入ってきた。
「すみませんお嬢様、思った以上に駐車場を見つけるのに時間がかかってしまい……おや?」
そして兆老は、テーブルの上に置かれた完食済みの皿を見ると、向晴とのび田を凝視した。
「ま、まさか……食べ終えてしまわれたのですか? 私を放っておいて!? お嬢様、それはあまりにも」
「お前かーーーっ!!」
が、兆老の切なる叫びは、向晴の燃え滾る叫びによってかき消された。
向晴から怒鳴られる理由が分からない兆老は、突然のことに困惑して、あんぐりと口を開けた。
「お、お嬢様?」
「貴方がいれば! 私は! 今日! こんな辱めを受けることはなかったわ!」
「お嬢様!? 辱め? いったい何が」
「カツレツ美味しかったです! ご馳走様でした! 私は帰ります! 一人で帰ります! 誰もついてこないで!!」
怒った表情を崩さないまま、部屋を出ていく向晴。
何故か壁の方を向いているのび田。
兆老はまったく状況がつかめなかったが、執事長としての立場が自然と兆老の足を動かした。
「のび太君、説明してくれるかな?」
「ひえっ!?」
話は変わるが、『ぽん多本家』は創業当時、ハレの日に使われる高級店だった。
客は予約客のみで、料理はコースのみ。
つまりは当時の最先端だ。
昭和に入ってアラカルト料理を提供するようになり、要望に応じて『ご飯・赤だし・おしんこ』をつけるようになった。
そのスタイルが、今なお令和に受け継がれている。
令和の家庭では、ご飯を主食にハンバーグやオムレツと言う洋食を食べることなど、日常だ。
ご飯に合う洋食。
そんな『ぽん多本家』の創業時の使命は、きっと果たされた。
ならば次の使命は、明治より続く味をいつまでも提供し続けることなのかもしれない。
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