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第二章. 主人公覚醒編

4. 月光一輝と穴守流愛(過去の回想編)

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 俺は月光 一輝げっこう いつき。『私立矢尾井高等学校しりつやおいこうとうがっこう』に通う十七歳の高校生だ。

 今でこそ頭脳明晰、容姿端麗等と周りから評価を受けているが、昔は体も細くて病弱気味だった。さらに名字と名前をつなげると『ゲイ』。小学生の時はそのネタで周りからいじめを受けていた。体も白く気弱な性格、顔立ちも幼い頃は女の子とよく間違われていた。そのこともいじめを受ける要因の一つとなったのだろう。

 いじめを受けていたので当然だと思うが、小学生の頃は毎日学校に行くのが憂鬱で仕方がなかった。頭もそこまで良くなかったし、体も弱くて運動もできなかった。周りからは何をやってもできないダメな奴という評価を受けていた。だが顔だけは整っていたので一部の女子からはモテていたと言える。俺によく話しかけていた女子がいたのだが、その女子のことをいじめの主犯格である男が好きだったようで、そのことから俺はいじめられるようになった。

 いじめの内容はよくあるような上履きや自分の教科書などを隠されたり捨てられたりする、身体的な暴力を受けるといった内容がほとんどだった。それに加えてあだ名を『ゲイ』とされ、こいつは男が好きだから近づくとキスとかされるぞ、といったことを周りの男子や女子に言いふらされた。

 いじめ主犯格の男が俺と同じで底辺に属していたらあだ名の件に関してはそこまで酷くならなかっただろうが、残念なことに勉強も運動もできるハイスペック野郎だった。だが容姿と性格があまり良くなかったので女子からの評判はそこまで良くなかったと思う。

 物を隠されたり暴力を受けるといったことは小学三年~四年にかけてがピークだった。それ以降の小学五年くらいからはいじめの内容が主に言葉の暴力となった。個人的にはこの言葉の暴力が本当に辛かった。物を隠すといったことはいじめの主犯格とその取り巻き連中以外はしてこなかったが、言葉の暴力になってからは俺とあまり面識がない奴や、仲の良かった友人までもが面白がって同じように俺の嫌がることを言ってきた。

 先生にいじめられているといった報告をしてもいじめ主犯格君がそんなことするわけないでしょうといった感じで聞く耳を持ってくれなかった。この時期は親も仕事が忙しくてほとんど家にいなかったので、いじめられていることについての相談をすることもできなかった。そうして俺の心はドンドンすり減っていき、いよいよ自殺するか否かってところまで追い込まれた時、俺が現在惚れに惚れている『穴守』と出会った。

 『穴守』との出会いは本当に衝撃的で、今でも覚えている。小学六年になった時クラス替えが行われた。いじめ主犯格とまたも同じクラスになった俺は、今にも自殺するかもしれないといった精神状態にまで追い込まれていた。そして俺のことは新しくクラスメイトとなった連中も知っているため、面白がってあだ名で呼ばれたり悪口を言われたりした。中にはいじめに加担しない奴らもいたが、いじめの主犯格がお前らも言わないとこいつと同じ目に合わせてやるといった脅しをかけたらいじめに加担してきた。

 周りが俺の敵ばかりとなる中、『穴守』だけは違った。あいつはいじめの主犯格がお前も加担しろと言ったときにくだらないといった態度を貫いていた。そしていじめの主犯格に対してこう言った。

 「お前らさぁ、そんなくだらないこといつまでやるわけ?いつまでも人の名前を面白がっていじるとか何なの、他にやることもない暇人なの?しかもいじり方も中途半端だしさぁ。何だっけ、あいつは男が好きだからキスとかされるだっけ。キスなんかどうでも良いだろ、問題はその先じゃん。ゲイってのは自分のちんこを勃起させて相手の尻の穴に突っ込む人のことを言うんだぜ?尻に硬い棒を突っ込むのって多分相当痛いぞ?走ってるときにコケてできた傷の痛みとか比にならないくらいにさぁ。お前らそいつがキレてそういうことしてきたらどうすんの?そこまで考えてそいつの悪口とか言ってるわけじゃないだろ?」

 こんな感じの内容を『穴守』が話した辺りで、いじめ主犯格やその取り巻きの顔色が変わった。どうやら『アナルセックス』のことを知らなかったようで、もし自分たちがそのような目にあったらと想像したのだろう。

 それからはそれまでのことが嘘のようにいじめがピタリと止まった。周りが俺に近づかないということはほとんど変化がなかったが、悪口等を言われなくなっただけで俺は本当に救われた。今思えば周りにゲイの怖さを教えてから、俺がもしそんな奴だったらといって周りを勘違いさせただけなので、『穴守』のやったことはあまり正しいことではなかったのかもしれない。だけどそのことで俺が救われたというのもまた事実である。俺はそれまでちゃんと女子が好きなノンケだったが、この事件をきっかけに『穴守』のことが好きなゲイとなった。

 そういった理由があり、俺はこの先どんなことがあろうとも『穴守』についていき、必ず守り通すと心に誓っていた。そんな矢先『穴守』が別のと男どもに掘られるという事件が発生した。その事件は想い人を守れなかった俺の精神を破壊するには、充分すぎる程の破壊力があったのだった...。
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