一寸先は闇

北瓜 彪

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第3章 使い捨ての守り神

使い捨ての守り神

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 コウタくんは粘土細工が大好きだ。学校から帰るとヘラと粘土板を用意して粘土作品を作るのが日課で、今日も自作のヒーローキャラクター「コーターマン」をレッド、ブルー、イエローの3体作り上げた。
 マントをつけて決めポーズをしているコーターマンたちをウキウキした気持ちで眺めながら、コウタくんは頭の中でアニメ「粘土ヒーロー・コーターマン!」第1話の映像を再生していた。
「コーターマンは正義の味方なんだ!妖人グルムグラに襲われている人々を助けるために、ビームを出すんだぞ!そうだ、次はアベバ衛星でグルムグラとコーターマンたちが戦っている様子を作ろうっと!」
 コウタくんはアニメを見るのも、考えるのも好きで、いつか自分で考えたアニメを映像にしてみたいといつも思っている。
 「コーちゃん、ちょっとお使い行ってきてくれる?」
その時、お母さんが下から呼んだ。
「はーい…。」
コウタくんの空想は、そこで打ち切られた。


 八百屋へ向かっている途中、向こうから乱暴で意地悪なソウキチくんが来るのが見えた。コウタくんはあっと思って引き返そうとしたが、気づかれて呼び止められた。
「おいコウタ、この前貸した本返せよ。」
「あれはまだ途中なんだ。」
「何ぃ、読むのおっせえなあ。今すぐ返せ。」
「今お使いなんだ。」
「何だとお!?」
 ソウキチくんはふとしたことにもこんな態度で突っかかってくるのだ。
 「今、すぐだ!」
 ソウキチくんは声を荒らげてコウタくんの胸倉を掴んだ。
 その瞬間、路の向こうから一筋の赤い光線がほとばしってきて、ソウキチくんに直撃した。
 「ドオオーン‼︎」
 ソウキチくんに押されて後ろに倒れたコウタくんは、自分の目を疑った。赤い光線に当たったソウキチくんは、ボールみたいに空高く吹っ飛んでいってしまったのだ。あの体の大きいソウキチくんが…。コウタくんは地面に倒れたまま、しばらく呆然としていた。
 
 買い物を済ませて家に帰る途中、コウタくんは反対から歩いてきたスーツにメガネの男の人とぶつかってしまった。
「いったあ。」
「すいません!」
 コウタくんはとっさに謝った。しかし男の人は許してくれなかった。
 「私は今、手にケガをしているんだ。君のせいで治るのが2週間遅くなった。お詫びに治療費を払ってくれ。」
「えっ、すいません!でもお金は…。」
「君、その袋は野菜を買ったんじゃないのかね。お金は持っているはずだ!それとももうないのかね?払えないというのなら、君のお母さんに申し立てるぞ!」
「そ…そんな……。」
 どうしよう。買い物のお釣りじゃ足りなくて、お母さんに言いつけられたら…。コウタくんは困って、怖くなって、唇が震え出してしまった。
 その瞬間、路の向こうから一筋の青い光線がほとばしってきて、男の人に直撃した。
「ぐおおおおぉぉぉぉぉぉ…。」
 男の人の叫び声は遠く向こうに、その姿と共に消えていった。

 「何だか今日は変だなあ。」
 ソウキチくんと男の人と、立て続けに絡まれたのは偶然にしても、あの光線は普通じゃない。
「でも、これ以上ケガ人は出すまい。」
もうこれ以上あの光線が出てくることのないよう、人につるまれたり、困らされることのないようにしなければ。そんなおかしなことを考えながらコウタくんは家へと歩いた。

しかしそれは無理だった。帰って来るなりお母さんが、お使いが遅かった理由を問い詰める。
「何でなの?何で知らない人に絡まれたのに逃げなかったの?」
 その瞬間、一筋の黄色い光線がほとばしってきて、お母さんに直撃した。
「ピキュウゥゥゥゥーン‼︎」
 お母さんは廊下の先の台所まで一瞬で飛ばされていった。
 「そんなぁ………。う…ウアーッ!!」


 その頃、コウタくんの部屋の机の上のコーターマン3体は全てすっかり消えていた。その代わり、コウタくんがまだ作っていないコーターマングリーンが完成していて、それが自らの手でヘラを持って新しいコーターマンピンクを作っている最中だった。
「ねえグリーン、わたしもコウタくんのために活躍できるのよね。」
「もちろんだよピンク。僕達コーターマンは正義の味方さ。正義のために活躍するには、悪をやっつけないと。いつも僕達で遊んでくれるコウタくんに喜んでもらうために、僕達が悪と戦うんだよ。さあ、もうすぐキミは完成だ。キミもターゲットを決めたら、新たなヒーローを残してから行ってくれよ。さあて、誰になってもらおうか、僕の戦うグルムグラには。」
 バタン!グリーンが言い終えると同時に、部屋のドアが開かれた。
「あっ、やっぱりない!コーターマンが全部なくなってる!」
 コウタくんは机の上を見て、悲しそうに顔を歪めた。それからグリーンとピンクのコーターマンを見つけて、ハッとした。
 コウタくんの手が近づいてくるのを見ながら、グリーンは言った。
「正義の味方の敵を倒さなければ、そうだろ、コウタくん。」
 その瞬間、一筋の緑色の光線がほとばしってきて、コウタくんに直撃した。




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