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第11章 上には上がある
Family〜不幸せな世の中万歳〜
しおりを挟む体をゆらしながら主婦が2人、歩いてきた。
世の中をおおっていた青黒いもやは晴れ、小さな住宅街が見える。
そのひとつ、にじみ彩色を使って描かれたような塗装の屋根に三角の窓と丸の窓、四角い戸のある家の中、百あるとびらのうちの1つが開いている。
部屋の中は、天井からぶら下がる白熱灯がいくら照らしても、重苦しく異様に暗いふん囲気がただよっていた。ここにいるのは六人家族。も服を着た父親が口をやっと開いた。
「ほんとうにすまんなぁ。ぼくがイボイノシシのたましいを73こ集められなかったせいで、こんな生活させてしまって」
机に正座していた母親が言った。
「いつになったらとなりのとなりのとなりのはすむかいのおむかいのじゅげむじゅげむごこうのすりきれずぼんのすりきれかいじゃりすいぎょのくりぃむしちゅーのすいぎょうまつふうらいまつくうねるところにすむところはぷれみあむよるどらまのぱいぽぱいぽとげぞーのしゅーりんがんのがぼんのぐーりんだいのぽんぽこたぬきのぽんぽこぴーのちょうきゅうめいのちょうすけさんの家のおぼっちゃんは人間からあひるに成長するのかしら」
「うーん」
父親はうなった。
男の子はおどけた声で
「しーん」
と言った。
びりいっ。
部屋のかべの皮が一枚破れた。
父親は
「こらっ。いつも言ってるだろうが。静じゃくなふん囲気の時ギャグを言うと家が傷つくって」
「それって『しーん』しかないじゃん」
父親がため息をつく前に、またかべの皮が大きな音を立てた。
スーッ。ふすまが開いて女の子が入ってきた。
父親は女の子に聞いた。
「どうだった。トイレ」
「うん、あのね、今日もね、トイレの棚から死霊たちがのぞいてたからね、モップで38のダメージを与えてたおしてきたよ。で、また1つ回復アイテムのビー玉をもらった」
女の子の手の光る物を見ても、父親はふん、と息を吹くだけだった。父親は部屋のすみからかばんを持ってきてそれを開けると、一通の手紙を取り出した。
「ついに龍宮城から借金、いや借魂返済のせい求書が来たんだよ」
家族は、やっぱり、といった顔をした。
父親は再び口を開いた。
「いいか、よく聞いてくれ。イボイノシシの魂73この内、30この収集はできている。残り43こは、1人の人間の魂で充分まかなえるんだ」
母親は聞いた。
「……ま……まさかあんたが……」
「そう、ぼくが龍宮城に行って、全部返済してくるんだ。自己破産して家族みんなでゾンビになるよりましだろう」
父親は間はつ入れずに答えた。
「……そ……そんなことしたら……
そんなことしたらあんたはどうなるんだい……
あたしたちゃこれからどうしたらいいんだい!」
母親は涙声で父親にすがった。
けれど父親は冷静な声で言った。
「大丈夫。借魂返済のために、家族を亡くした家庭は、1人につき最高1**円の生活保護が国からもらえるんだ」
「そういうもんだいじゃないよお!
そんなことで金持ちになってもあたしゃなんの幸福も感じられないよぉ!」
母親は泣きさけんだ。
男の子も悲しいはずだったが、それを和らげるために
「そういうもんだあい」
と大声でさけんだ。
びいりいいいっっっ。
部屋がゆれるような音がひびき、天井の白熱灯がわれ、かべはくずれた。そしてろうかにたむろしていた死霊たちが姿を現わした。父親は言った。
「あと30分以内にあっちに行って申請しないとだめなんだ。行ってくるよ。
じゃ、みんなお元気で」
そして彼は死霊の方を見ると、「チェックメイト」と言った。とたんに女の子は筋肉りゅうりゅうのプロレスラーになると、死霊たちをようしゃなくうちのめしていった。ビー玉がその度にチャリンと音を立て出現した。父親は玄関へ難なくたどりつき、それから家族の方へは一度もふり向かずに、家を出ていった。女の子はもとの姿にもどると、白はつのおばあさんに変わり、やがてデンショバトとなって飛んでいった。その様子を見て、ここまで何もしなかったおばあさんとおじいさんが同時に小さくなって、赤ちゃんにもどってしまった。
青黒いもやが、また少しずつ出始めていた。
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