一寸先は闇

北瓜 彪

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最終章 水の綱

ネバーギブアップ

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テーマ「納豆」をリクエストしてくれた、小学校の同級生Aに






 朝起きると、まだ時計は6時を指していた。
 目が覚めているので、早起きでもしてみようと思った。リビングに行くと、もうすでに朝食が出ていた。しかしいつもとちがう。納豆があるのだ。納豆はきらいだと母には言っておいてあるのに、なぜ?
 そこに母がきた。
「あら、今日早いじゃない。ごはんできてるわよ」
 いつもの口調で言う母に聞いてみる。
「ねぇ、何で納豆あるの?」
 母はにこっとして言う。
「あぁ。あんた、昨日の学校のテスト、60点だったでしょ。それも、あきらめずよく考えればできる問題ばかりまちがえて」
「……そうだけど、それが?」
母の言うことがさっぱり飲み込めない。
 「だから、ネバーギブアップ。ネバーギブアップの精神が必要なのよ。あんたには。
 だからそのネバネバの納豆を食べて、ネバーギブアップ!」
 母の言うことはなぜこうちんぷんかんぷんなんだろう。テストの点数が悪かった日なんて、今日が初めてじゃないだろうに。それなら納豆を食べてやって、母がおかしなことを言っていると分からせようじゃないか。
 そう思って席につくと、きらいだということも忘れ、納豆とごはんを口につめ込んだ。母は「あら、勉強熱心でうれしいわ」と壮大なかんちがいをしている。
 その時、体中に電気が走り、心がかーっと熱くなるような感じがした。いても立ってもいられない。もしや、母の「納豆を食べてネバーギブアップ」は本当なのだろうか。
 ためしに、今日の朝食で納豆の次に食べたくなかったピーマン入りのソテーを完食する目標を立ててみることにした。心で思うだけだと自信が出ないので、何か紙にでも書いておこうとサインペンを取りに行く前に、すでに口の中はピーマンでいっぱいだった。
 ソテーのあった皿は……真っ白だった。
 すごい。
 すごいぞあの納豆。母もたまにはましなことを言うなぁ。
 そこへ、
「バーン!」
と大きな音が飛びこんできた。
「ぬわぁくこぉはいねぇがあっ!」
地面をゆるがす大男の声だった。
 とたんにリビングに、みのを着た朱色の顔の男が入ってきた。金の角と牙を頭から生やし、包丁を持っている。どこかの地域の言い伝えにある化け物、ナマハゲだ。
 母はその場にたおれ、手だけを使って後ろへ後ろへと泣いてにげた。
「助けてええええ」
 母のさけびを聞き、よし、ここは一つ出てやるかと思った。全く、好ききらいの多く、勉強もそこそこの自分でも、少しは自まんできるところが無いとなぁ。母親を助けたんだよって、学校で自まんしよう。そう思っていた時だった。ゴーンと音がして、頭が痛くなった。気がつくと、床にあおむけにたおれていた。
 見上げると、ナマハゲは息をハアハア切らしながら、つかれきっていた。床には包丁が転がっている。どうやら、もうナマハゲとの戦いは終わったようだ。包丁はきれいだから、激しい戦いにはならなかったようだ。よかった。家をおぼつかない足取りで出ていくナマハゲを見ながら、ふと思った。もしやあの納豆、本当は「目標をあきらめず達成できるようになるため」ではなく、「思ったことをすぐにできるようになる」食品だったのでは……?

 ねむくなってきた。今日は早起きだったし、二度寝でもしよう。でもそれにしても、ほんとうにうちの母親の言うことはちんむんハンムンニャ「ふぁ~……」

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みんなの感想(1件)

さきがけ
2019.06.27 さきがけ

こうもりエレベーター、面白かったです。今タイトルの指し示す事の意味を考えています。

解除

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